ダサいのは一人じゃない?
男には、負けられない戦いがある。例えば、今日の体育の短距離走。
将弘的には、女子たちの注目を集める格好のチャンスだ。そして俺的には……。
「ごしゅじーん、がんばってー!」
笑顔で声援を送ってくれるポン子。そう、ポン子にいいところを見せるチャンスなのだ。俺が手を振り返すと、ぴょんぴょんと飛び跳ねて、今度は両手で手を振ってくる。
これは、絶対に負けられないな、うん。
「女の子たちの黄色い声が、俺を待っている。悪いが負けるわけにはいかないぜ」
自分ではさわやかに言っているつもりだろうが、普段を知ってる俺から言わせてもらえば、気持ち悪いだけだ。それに漫画じゃないんだから、そんなに女子のほうに歯を見せたって、光りゃしないし。
そして、追い討ちをかけるようで悪いが、俺らが勝とうが負けようが、黄色い声はとなりの超絶イケメン(通称:王子)のものだと思うぞ。
「大丈夫だ。神はそこまで無慈悲ではないはずだ!」
強がるのはいいが顔はすでに絶望感たっぷりだぞ。まあ、今回は運が悪かったよ。元気出そうぜ、な?
「お前はポン子ちゃんの声援があるもんな。それに比べて俺は、アンジェはいないし……」
将弘はどんどん暗くなる。ほ、ほら次俺たちの番だぞ。気楽に走ろう、気楽に。
「その余裕……ユルセン。ツブス」
俺の言葉が止めを刺してしまったらしく、将弘は暗黒面に堕ちた。眼光は失われ、どす黒いオーラを放ちつつ、ゾンビのようにふらふらとスタートラインにつく。
まずい。全てを失ったもの底力は恐ろしい。とりあえず謝って、落ち着かせてから勝たせてもらおう(わりと外道?)。
「いちについてー、よーい」
しまった、説得する時間はなかった。急いで俺もスタートの体制に入る。
「ドンッ!」
将弘の運動スペックは高い。だから、本来ならモテる要素は持ち合わせているのだ。ただし、普段の言動と、本気になったときの気持ち悪い動きのせいで、プラマイゼロどころかマイナスまでいってしまうのだが。
今回も、俺らを圧倒する速さを見せた。しかし、そのプラス面を、擬音で表現するなら、『カサカサ』という感じの気持ち悪い走りのせいで、台無しにしている。
「戦いには勝った。しかしなんだ、このむなしさは……」
将弘はたそがれて空を見ている。女子たちの黄色い声は、そんなヤツを慰めることなく、
「フッ、やはり僕に運動は向いていないようだね」
とキザったらしいセリフをはいたイケメンに向けられている。
なんだか俺まで悲しくなってきた。いや別に、女子の注目を集められなかったからではないぞ。
「ごしゅじーん、おつかれー」
悲愴感漂い始めた俺らのところに、地上の女神ポン子様がご光臨なされた。
その笑顔は穢れをはらい、人々(主に俺)に癒しと幸福を与えてくれる。ありがたやありがたや。
「がんばったね、かっこよかったよ!」
これ以上の賛辞があろうか、いやない。俺はしばらくヘブン状態だったが、将弘が視界に入り、現実に戻ってくる。
そうだ、女神ポン子様、ついでに将弘にもねぎらいの言葉を。なんかかわいそうなので。
「うーんと、なんか、ゴキブリみたいできもちわるかった」
女神様は無慈悲だった。
将弘が風に吹かれた砂のごとく消え去ったと同時に、授業終了のチャイムが鳴った。
昼休みになったか。ちょうどいい、めるくを迎えに校門まd……。
「なかなか面白い見世物だったぞ」
いつの間にか、俺のとなりで、めるくがふんぞり返っている。勝手に入ってきちゃったのか、仕方ないやつめ。
「ふんっ、お前がなかなか来ないのが悪い」
なかなか来ないって、今昼休みになったばかりなんだが。もしかして、かなり前から待ってた、とか?
「い、い、今来たところで、全然待ってなんかない! そ、そんなことより腹が減った。はやく弁当をよこせ」
挙動不審のめるくを見るのは面白いが、これ以上からかうと、泣くかキレるかで手に負えなくなるな。おとなしく昼飯の準備にかかるとしよう。
俺は制服にちゃっちゃと着替え、屋上に向かった。屋上には結構な数の生徒がいたが、俺の知り合いは目立つので、どこにいるのかはすぐに分かる。香苗は自分とモフトの弁当を広げ始めていたところで、めるくとポン子はよだれをたらしながらそれを見ていた。
おい、ポン子たちの飯はこっちだ、こっち。
「ごはーん!」
弁当箱にかじりつくポン子。こら、まだいただきますしてないだろ。まだだめ、待て!
「はやくしろ、もう待てないぞ」
めるくはめるくで、弁当箱をバシバシ叩いて催促するし。まったく、手のかかる二人だ。片方、というか主にめるくのほうの面倒をみてくれ、香苗。
「えー、だって私保育士さんじゃないし」
ニヤニヤと意地悪い笑顔しやがって。昨日の事を引きずるなんて、意外とねちっこいやつなんだな。幼馴染として悲しいぞ。
「冗談よ冗談。それじゃ食べましょ。いただきます」
香苗の号令と同時に、ものすごい勢いで弁当をむさぼり始める、めるくとポン子。
そんなにがっつかなくても、だれもとりゃしないってのに。しかしまあ、自分が作った弁当をおいしそうに食べてくれるってのは、うれしいもんだな。まあ、ほとんどは冷凍食品だけど。
「用意してきてあげるだけでも、えらいと思うよ、私は。やっぱりりょー君はやさしいね」
珍しく香苗にほめられた。ほ、ほめたって何もでないからな!(ハンバーグを一つ渡しながら)
「いやあ、すいませんねぇ、ってそういえば」
俺の右手を見て香苗が何か思い出したようだ。まあ、たぶん魔法陣のことだと思うが。
「あのダサい魔法陣について、めるくちゃんに聞いたの?」
ダサい、という言葉を聞いてめるくが反応した。というか食べていたものがのどに引っかかったらしく、むせた。そして、それにびっくりしたポン子もむせる。この連鎖を見て、間にいたモフトは二人を交互に見て、自分もむせたほうが良いと判断したのか、せき込む真似をまねを始めた。なんだこれは。
「ダサい……だと……?」
俺から水筒をひったくって、一息ついた後、めるくが震えながら香苗をにらむ。
あーあ、地雷を踏んだな香苗。そんな助けを求めるような目をしたって、俺は知らないぞ。
「私が、一生懸命考えた魔法陣が、ダサいと言うのか!」
めるくはにらむ矛先を俺に変える。なぜ!? ってか、一生懸命考えて作ったって、もしかしてこんな、真ん中に『妖』って書いただけの魔法陣が、ポン子たちを妖獣化させたときに使ったやつなのか!? なんとダ……じゃなかった、シンプルで素敵な魔法陣ですな、俺は好きだよ、うん。
「ふ、ふんそれなら良い」
好きだと言ったのが正解だったのか、めるくは顔を背けつつももう怒ってはいないようだ。やれやれ、これで一安心d……。
「え? ご主人はダサいのが好きな……むぐぐっ」
途中でモフトが押さえてくれたのだが、ポン子の口から出た言葉はすでにめるくの耳に入ってしまった。めるくがポン子に飛び掛り、けんかが始まった。
結局、めるくとの会食はまた騒がしいものになった。ポン子とめるくは互いにほほを引っ張り合っている。そんな二人を眺めてモフトはおろおろし、香苗は笑っている。
今回はもうちょっと、静かに食べれると思ったのに。まあでもこの調子で一緒に飯を食べていれば、めるくも楽園だの理想郷だのなんて考えなくなるだろう。そんなものを作るより、めるくが俺たちの輪に入ったほうが、楽しいと分かってくれるはずだ。
さて、けんかはその辺にしないと、まだ昼飯の途中だろ? それにあんまり騒ぎすぎると他の連中に迷惑が……。
と思ったのだが、俺たちのほうを向いてるのは一人もいなく、皆一点を見つめている。
体育館裏のほうだ。いったい何を見ているんだろう?俺も右ならえしてみると、妖獣の女の子が、男子生徒数名に囲まれていた。どうやら、あまり良い雰囲気ではなさそうだ。
それにあの子、どこかで見た覚えが。黒髪でショートヘア、たしか昨日の朝……。
そうだ、ミーちゃんだ!




