愛の重み(物理)
体が重い。精神的にとかではなく、物理的に重い。まるで何かが上に乗っている様だ。
昨日、ポン子と一緒に弁当を作った後、特に夜更かしもせず寝たので、風邪を引くようなこともないはずだ。他に考えられる要素としては、ポン子が上に乗っている可能性があるが、ちゃんと物置部屋を整理して、そこで寝てたし。
とすると、寝ぼけて俺の部屋に入ってきてしまったのだろうか? 何にせよ、目を開けてしまえば答えはすぐ分かるんだけどな。寝起きはどうしても、すぐには頭が回らない。
……いつも回っていないというツッコミは、なしの方向で。
ゆっくりと目を開ける。そこには、何者かが乗っているという予想通りの展開が広がっていたのだが、問題は乗っている人物だ。
……なにやってるんだ、アンジェ。
「ふああ、おはよう、りょー」
俺の上で丸まっていたアンジェは、大きく伸びをすると、再び丸まって動かなくなる。
おい、起きたんならどいてくれ、重いんだから。
「あら、女性に重いとは失礼じゃない? デリカシーのない男は嫌われるわよ」
一睨みきかせた後、サッと俺の上から降り、もう一度大きく伸びをする。
こちらとしては、どこから入ってきた、何で俺の上で寝ていたのか、等聞きたいことは山ほどある。しかし、いかに不法侵入であるとはいえ、知人であるからには一応来客者として扱ってやろう。お先に何か一言あればどうぞ。
「あらそう、じゃあ……昨日はお楽しみだったわね?」
笑顔で某大作RPGの宿主みたいなこといわれても。一体俺が何をお楽しみだったっていうんだ。
「めるくよめるく。あなたの家から出た後、スキップしてたわよ」
そうなのか、それは見てないな。ってか、昨日の家での一連の流れを、全部見てたのか!?
「さすがにそれはないわ。あんまり近づきすぎると、ポンポン娘の嗅覚に引っかかってしまうから。残念だけどね」
と言いつつ、アンジェは全然残念そうな顔はしていない。この後、俺から聞けると踏んでいるのだろう。
あれ? でもそれだったら、今回もポン子が気付いてもおかしくはないのでは?
「今は下でガチャガチャと何かやってるから、大丈夫よ」
そうか、下でガチャガチャやってるから大丈夫……なわけないだろう。
俺は急いで部屋を出て、音のする部屋へ向かった。
「あ、ご主人おはよー」
台所にいたポン子は、邪気のない笑顔をしながら、尻尾をふりふり、ご機嫌モードだ。
うん、いつも通りの元気でかわいいポン子だ。なぜか下着姿だったり、顔や体にケチャップやマヨネーズがついている以外は。あと鼻の頭。いったいこれはどうしたんだ。
「ご主人に、ごはんつくってあげようとおもって。あとふくきてるとよごれちゃうから、ぬいだ」
あー、服は体温調節のためもあるが、そもそも体が汚れないようにする、って役目もあるんだぞ?
そうか、それにしてもポン子が俺に朝飯を……。俺が将来娘を持って、飯を作ってもらったら、こんな気分になるのだろう。それを先駆けて体験できるなんて。嬉しい限りだ。
どれどれ、いったい何を作ってくr……。
ポン子の後ろに置いてあるボウルには、レタスが敷詰められており、その中には生卵(割ってない)とソーセージ(火を通してない)、トマト丸ごとが入れてある。そして、その上からこれでもかと言わんばかりに、ケチャップとマヨネーズがかかっている。
な、なるほど! 彩り鮮やかで、野菜と肉という基本を抑えつつ、素材の形をそのまま生かすという、豪快で前衛的な料理だな。
いやー、ポン子はすごいなー(棒)
「えへへ~。あとはこれをいれてかんせいなんだよ」
照れながらポン子が俺に見せてくれた、最終調味料は……。
『オレンジ☆ジュース』
そーか、オレンジジュースかー。それはもう、俺の人生史上初めての味になるに違いない。すごいぞーポン子。じゃあ仕上げは俺がやっておくから、ちょーっとあっちいってよっかー。
「うわっ、なにそれ」
ポン子の機嫌がいいまま、さりげなーく台所から出そうとしてたのに、何てこと言ってくれるんですかアンジェさん。
「あっ、アンジェ! なんでいるの!」
ポン子は先ほどの俺と、全く同じ疑問を口にする。
まあ俺のほうは、大体わかったけどな。めるくを尾行してたんだろ?
「半分正解ね。もう半分は、あのちんちくりんが戻ってきて変なことしないか、屋根の上で見張っていたから、ってとこよ」
取り越し苦労だったけどね、とアンジェはため息をつく。なるほど、それはご苦労様だ。
「そう、だからおいしいご飯をもらえるとうれしいなー、と思ってたんだけど」
ポン子の前衛的な料理を見て、再びため息をつくアンジェ。大丈夫だ俺が仕上げをするから。
だが、ポン子のほうはアンジェの態度で気分が逆なでされたようで、
「このうちはポン子がまもってるの! アンジェはいらないの!」
とご立腹だ。
まあまあ、アンジェも俺たちのことを思っての行動だし、素直に感謝しておこうな。
「あら、ずいぶん頼りない番犬ね。私がりょーの上で寝てたのにも気付かなかったくせに」
どうしてこう、俺が事態を収拾しにかかってるのに、邪魔してくれるかねアンジェさんは。まあ、ドSだからだろうけど。
これでまた喧嘩確定、と思いきや、ポン子はその場に凍り付いたように立っている。
そして、手に力が入っていなかったのか、オレンジジュースが入っていたコップを落とした。
幸いプラスチック製だったので、ポン子が怪我するようなことはないが、一体どうしたんだ。
「ご主人と、ねた?」
おいこらポン子、変な言い方をするんじゃない。が、放心状態のポン子は聞く耳持たず。
目じりにジワジワと涙をためつつ、
「じゃあ、ポン子、アンジェのこと、お姉さんってよばないと、いけないの?」
と悲しそうに俺を見上げる。ものっそい、勘違いだそれは。おい、アンジェも腹抱えて笑ってないで、なんとかしろ!
その後なんとか説得し、今日の夜ポン子が寝るまで添い寝してやる、という条件を掲示することで、ポン子はやっと勘違いの世界から戻ってきた(ちゃっかりわがままを通された気もするが)。
そして、やっと朝飯だが、ポン子が作ってくれたのではさすがに食べにくい(決して食べれないわけではない)ので、俺が少し手を加えた。といっても、ソーセージと卵に火を通し、トマトをスライスしてパンの間に挟んだだけだが。
「またパン? まあいいけど」
アンジェはぶつぶつ言いながら席に着く。
そうか、昨日将弘に大量に買わせてたパンは、張り込みようの食料だったわけね。
そりゃ、あれだけ食べれば、飽きるわな。
「もんくいうな! ポン子のよりそーせーじおっきいんだから」
自分のと見比べて、ポン子はポン子で不平を言う。そんなに違わないと思うんだが。
「あらあなたのほうがレタスの枚数が多いんだからいいじゃない」
言い返すアンジェ。
「レタスはいいの!」
「ほらほら遠慮せずに」
「いいの! レタスはふやさなくていいの!」
微笑ましい光景に、思わずニヤニヤと眺めていたが、時計を見ると結構いい時間だ。もうそろそろ食べ始めないと遅刻する。
はいはい、じゃれあいはやめて、それじゃあみんなで、
「「「いただきます」」」




