表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/24

用件と頼み事

「さてと、じゃあ今度こそ用件を聞かせてもらおうか」


 食器を片付け、いまだコップを手放さないめるくに話しかける。それと、オレンジジュースは話が終った後な。


「わかったわかった。だがその前に、あそこのワンころ娘は呼ばなくていいのか?」


 めるくは、テレビにかじりついているポン子を指差す。今ちょうど動物番組やってるからな。しばらくはおとなしくしているだろう。

 テレビに子供のお守りをさせる教育はよくない、とか姉さんが言ってた気がするが(姉さんは教師志望)今回はテレビに頼らざるを得ないだろう。ポン子が一緒だと、少ししゃべるごとに喧嘩になりそうだからな。もう少しめるくが大人なら、そうはならないんだろうけど。


「うるさい! それを言うなら、お前がワンころ娘をきちんとしつけないから悪いんだろうが!」


 めるくは机をバシバシたたきながら抗議する。何を言うか、俺はポン子をちゃんとしつけてるぞ。それに、ポン子はまだ幼いんだから、その辺は年上が配慮してくれないと。


「ふん、バカ親が言いそうなことだな。まあいい、では本題だが、今日私が来たのは、お前のその右手の

件だ」


 真剣な顔つきになり、俺の右手を見つめるめるく。ああ、それは好都合だ。ちょうど俺も、よく分からんヒーリング効果がついてしまった右手の説明がほしかったところだ。


「その右手には『妖力』が宿っている。お前、その力をどうやって手に入れた?」


 ……妖力? え、めるくが関係しているなら、神力とかもっと神々しいものかと思ったのに。そんな禍々しいものなのか? それにどうやって手に入れたって、俺はポン子をなぞの光からかばった後、いつの間にかこうなってただけなんですが。


「あの光の前に、わざわざ自分から飛び込んだのか!」


 めるくは驚いたような、呆れたような顔をしている。が、すぐに表情はゆるみ、なぜか笑い出した。


「くっ、はははっ。そうか、飛び込んだか、ペットを助けるために」


 笑い声は続き、このまま放置すれば床を転げまわって笑いそうな勢いだ。何がそんなにおかしいのか。


「いや、すまんすまん。私はてっきり、何らかの方法で私から力をかすめ取ったか、他の土着神の回し者かと。そうかそうか、いや恐れ入った」


 めるくはまだ笑い続けているが、少し安堵したような、そんな表情だ。俺が何か力を使って悪さしようとしているわけではない、と分かったからだろう。しかしこんなヒーリング効果しかない能力、掠め取ったところで何かできるわけでもないだろうに。そんなに心配だったのか?


「それは、お前が力の使い方を知らんからだ。訓練すれば私と同じようなことが出来る。動物を妖獣化させたり、操ったり、とかな」


 ようやく笑いを潜め、まじめな顔に戻るめるく。なるほど、そうなのか。でも、それを俺に教えたらまずいんじゃないのか?


「お前は力を悪用しない、と判断したから話したんだ。ペットをかばって自分が身代わりになろうとするような、お人好しなら特にな」


 まったく、からかうような口調で言いやがって。あの時はほんとに必死だったんだぞ。


「お前が気に入ったから、茶化しているのだ。男なら、この程度の乙女の心中は、察してもらいたいものだが」


 にやりと意地悪い笑顔をするめるく。どこに乙女がいるって? 目の前にはロリババアが一人……いや何でもありません。ごめんなさい。


「ふんっ、まあ今回は許してやる。それで、どうだ、私の元へ来る気はないか? お前なら楽園作りの仲間に入れてやってもいいぞ」


 いきなり神様にこんな誘いを受けるのは、俺の人生後にも先にも今回ぐらいのものだろう。えーと、確か妖獣たちの楽園を作るんだっけか? あんまり興味ないなぁ。今日見た感じだと、妖獣たちも今のまんまで充分楽しそうだったし。ポン子も特に問題は、っと目を向けたところで、ポン子がテレビの前からいなくなっていることに気付いた。

 あれ、どこ行った?


 部屋を見渡してみると、灯台下暗しというか、すぐに見つかった。めるくの横で、机から顔を半分覗かせている。

 俺と目が合うと、にっこりと笑い、耳をピコピコさせる。うん、かわいいなぁ。どうしたポン子、新しい遊びでも思いついたのか?

 ポン子はにこにこしたまま、口を大きく開けた後、少しずつ前進する。

 その先にあるのは、めるくの手……。


「ガブッ」


 一瞬、何が起こったのわからない、っといった表情を見せためるくだが、すぐに苦痛で顔がゆがむ。


「痛いっ! なにをするのだ、このバカ犬めっ!」


 腕を力いっぱい振って、振り払おうとするが、ポン子はめるくの手に噛み付いたまま離さない。


「ごひゅひんはわたはないっ!」


「かみついたまましゃべるな! 痛いだろうが!」


 めるくとポン子のコントみたいな攻防はもう少し見ていたいが、さすがにめるくがかわいそうになったので、ポン子を後ろから抱きかかえ、めるくから遠ざける。ほーら、ポン子よしよし、どうどう。


「やっぱりしつけがなってないじゃないか! 見ろ、赤くなったぞ、どうしてくれる!」


 涙目になりながら、恨めしそうに俺をにらむめるく。いや、許してやってくれ。ポン子も本気で噛んでないから、血が出るようなことにはならなかっただろ?

 たぶん、俺がめるくに取られると思って、必死だったんだろう。今、ちゃんと謝らせるから。

 ほらポン子、俺はどこにも行ったりしないから大丈夫だ。

 ただし、ちゃんとめるくに謝れたら、だけどな。

 しばらくポン子は俺の腕の中で、毛を逆立ててうなり声をあげていたが、俺の顔を見上げた後、


「……ごめんなさい」


 ときちんと謝った。ものすごく不満そうな顔で、めるくから目をそらしながら、ではあったが。


「まったく、今度会うときまでにきちんとしつけておけ! とにかく、私の用件はすんだし、もう帰るからな」


 手をさすりながら、ぷりぷりと怒ってリビングを出て行くめるく。まて、まだ俺は聞きたいことが残っているんだ。


「なんだ、早くしろ。私はもう帰って寝るんだからな!」


 めるくはだだをこねる子供のように、じだんだをふむ。

 大丈夫、すぐ済む。これは、聞きたいことというか、お願いなんだが、妖獣が無害であると、国のお偉いさんたちを説得してくれないか? ポン子たちと離れ離れになるような事態は避けたいんだ。


「なんだそんなことか。それなら、この土地一体に、外部から入ってきた者が妖獣を認識できないよう、結界が張ってあるから大丈夫だ。部外者にはただの人にしか見えん」


 めるくはやれやれと言った口調で話し


「人間は、自分が理解できないものを、やたらと排除したがる傾向があるからな」


 と皮肉を言うと、すたすたと玄関まで歩いて行く。

 今のめるくの表情、少し寂しそうだったな。

 理解できないものを排除したがる、というのは、もしかしたらめるくの経験談かもしれない。そうだとしたら、めるくがかわいそうだ。

 どうにかして、少しでも寂しさを解消してやれないだろうか。そう考えたところで、昼のことを思い出す。そうだ、昼飯に誘うなら今だな。


「めるく、もう一つ頼みがあるんだが」


 めるくはちょうどドアを開け、出て行こうとしていたところなので、少しいらいらしながら、


「なんだ、まだあるのか」


 と、いやそうな態度を隠さずに答える。


「よかったら明日、一緒に昼飯を食べよう」


 たいしたことではないはずだが、めるくは目を見開いて驚いている。


「今日みたいに、みんなで食べたほうが楽しいだろ? ポン子もいいよな?」


 一応ポン子にも確認する。さすがにここ嫌と言うほど、空気の読めない子ではない、はず。


「……ごしゅじんがいいなら、いっしょにたべてあげてもいいよ」


 若干上から目線なのが気になるが、まあよしとしよう。

 さあ、ポン子もこう言ってるし、どうする? めるく?


「どうしても、というなら食べてやらなくもない」


 顔をあさっての方角に向けて答えるめるく。

 よし、じゃあ明日弁当作ってくるから、昼休みに校門の前で待っててくれ。


「気が向いたらな」


 そう言うや、そそくさとめるくは家を出た。俺とポン子も見送りのために、外に出る。

 明日、待ち合わせに遅刻するなよー?


「しない! 絶対にしない!」


 さっと振り返り大声で宣言し、めるくは走り去ってゆく。

 ふふふ、まったく、さっきは気が向いたらとか言っていたのに。素直じゃないな、あいつも。

 さて、それじゃ明日の弁当の用意をするか。

 ポン子、手伝ってくれるな?


「おー!」


 右手を突き出したポン子の声が、明るい夜空の下にこだました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ