首輪はどこにつけるもの?
「い゛や゛だぁぁぁ! ごしゅじん、すてないでぇぇぇ!」
目から次々と涙をこぼし、口からはとんでもないことを叫ぶポン子。
この状態じゃ、誤解だと言ったところで聞いてくれそうにもないぞ。
「もうわがままいわないからぁ! いうことちゃんときくからぁ!」
ポン子は懺悔の言葉を口にしつつ、さらに大きな声で泣きじゃくる。
まいったな、どうすれば泣き止むんだ? いないないばぁか? さすがに子ども扱いしすぎか。 じゃあ、おやつで釣るか? しかし今何も持ってないしな。 ワイロ? でんでん太鼓?
【ポン子が】泣いてる妖獣を泣き止ませる方法を教えろ下さい part3【泣き止まない】
だめだ、混乱してわけわかんなくなってきた。
「もうごしゅじんのくつしたうめたりしないからぁ!」
いったいどうすれば! って、ん? なんだって?
ポン子の言う事に耳を傾けてみると、まだ罪状告白は続いていたらしい。
どうやら俺が知らない余罪が、他にもいくつかあるみたいだ。とりあえず、この場は流しておくが、帰ったらじっくり問いただす必要がありそうだな。
そう、帰ったら……帰った……ら?
俺はあたりを見渡すことで、ようやくここがどこだか思い出した。
そうだ、ここは公園だ。そんなところで大声を出せば、当然ご近所さんや道行く人の目につく。
「お? 別れ話か?」
「男のほうが女の子捨てるみたいよ」
「ママー、あのひとたちなにやってるのー?」
「しっ、見ちゃいけません」
野次馬連中はこちら見ながら、ひそひそと好き勝手なことを言っている。
今日は本当によく人の目を集める日だ。もちろんいい意味ではなく。
とりあえずこれ以上好奇の目で見られるのはごめんだ。ポン子、この際泣き止まなくて良いから場所を変えよう。
ほら、そんな腕につけた首輪なんかいじってないで。
……ポン子さん? その首輪をどうするおつもりで?
「くびわもちゃんとつけるからぁ!」
ギャー!
ポン子は、首輪を本来あるべきところ(人間的にはあってはならないところ)につけると、泣きながら訴えてくる。
人前で! 首輪!
「おい、女の子に首輪つけさせたぞ!」
「ママー、あのひとn」
「ダメよ! あなたにはまだ早いわ!」
もうだめだ、死にたい。ってか、ママさんは見てないで、子供つれてさっさと帰れよ!
こうなったら、多少なりともインチキな手を使うしかないだろう。右手のヒーリング効果を使えば、ポン子も落ち着いてくれるはずだ。
「大丈夫、捨てたりしないから。だから泣きやもう、な?」
頭を撫でながら、優しく語り掛ける。効果はばつぐんのようで、ポン子は、徐々に落ち着いてくる。
「……ほんと?」
ポン子は目に涙をためながら、上目遣いで俺を見る。
「あたりまえじゃないか。大事な『家族』なんだから。ポン子の聞き間違いだよ」
家族の部分を強調する。ここが本来一番言いたかった部分だしな。
ポン子はしばらく潤んだ瞳で俺を見つめていたが、俺が嘘を言っていないと判断したのか、Tシャツの袖で目をゴシゴシとふいてから、
「じゃあ、だっこして」
とこれまたとんでもない要求をしてきた。
なぜ今だっこ? 犬のときだって、だっこして家までつれて帰ったことなんてないじゃないか。それに、もうわがまま言わないんじゃなかったのか?
「きょうだけ! きょうだけだから!」
体をくっつけたり、袖を引っ張ったりしながら駄々をこねるポン子。体をくっつけるのはアンジェのまねか? いけないぞ、そういう悪いことばかり覚えちゃ。
とはいえ、これまただっこするまで言う事聞かなそうだしなぁ。
そうだ、妥協案としておんぶを提案しよう。おんぶならそこまで恥ずかしくないし。
まあその前に……。
俺は野次馬連中に一睨みくれてやる。野次馬連中は蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。ふう、とりあえず、これにて一件落着!(某お奉行風に)
「すぅ……すぅ……」
俺の背中でポン子は静かに寝息を立てる。
おんぶしてあげた直後は、喜んでじたばたしていたが、すぐにおとなしくなり、しまいには寝てしまった。妖獣になって、慣れない体で暴れまわって、泣いたり笑ったりして。そりゃ疲れるよな。
「ごしゅじん……ポン子は……ポン子だよ……」
ポン子は気持ちよさそうな寝顔をさらしながら、むにゃむにゃと寝言を言っている。
「人の苦労も知らずに気持ちよさそうにねむっちゃってまぁ」
愚痴をこぼしてみたものの、自分の顔がほころんでいるのは、自分でも分かる。
まあ、家族だからな。これくらいの苦労は屁でもない。
それに、さっきの寝言を聞く限りでは、ポン子も今の自分の姿に不安があったみたいだし。
そう考えてみると、『ご主人じゃない』に過剰反応するのもわかるし、だっこをせがんだのもなんとなくわかる気がする。
たぶん、俺の体温を感じることで、俺がポン子をどこかに置いてったりしないことを、実感したかったのだろう。
まったく、ポン子が不安を抱えていたのに、それに気付いてやれなかったなんて。
これからは、もっとポン子のことちゃんと見てやらないとな。
よし、今日はお詫びとして晩飯を奮発してやろう。といっても、買い置きのもので何か作るか、出前を取るかの二択なんだよな。今、ポン子を置いて、買い物に行くわけにもいかないし。
買い置きは冷凍食品しかないしなぁ。ご飯とおかずを山盛りにしてあげればいいか? でもそれだと栄養バランスが……。
「ようやく帰ったか、待ちくたびれたぞ」
俺の晩飯考察は、家の前に立っているちびっ子に中断された。
犬神 めるくだ。
どうやら神様は、今日の厄介事をこれで終わりにはさせてくれないらしい。はた迷惑な神様だ、と思ったが、俺はめるくを促し、家に入れてやることにした。




