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兄とか妹とか家族とか

 さて、俺は授業が終ったらすぐ帰る派(いわゆる帰宅部)だが、今日は香苗にポン子の服を見てもらうので、学校の近くのデパートに来ている。メンツは、香苗、ポン子、モフト。

 はたから見れば女の子をはべらせて、悠々買い物している風に見えるだろう。

 だが実際は幼馴染、元ペット(動物的な意味で)、男の娘、という構成で、ムードもへったくりもない。

 やはり、男の夢たるハーレムなどこの世にはなかったのだ、神は死んだ! と将弘あたりなら言うだろう。決して俺が思っているわけではない。


「なーに? りょー君は何か言いたい事でもあるの?」

 

 俺の顔を見ながら含みのある笑みをする香苗。

 言いたい事はあるとも。いや、さっきのハーレム的な意味ではなくて、これから香苗たちが入ろうとしている場所にだ。

 そこは女性下着売り場だろう。俺はここから先には行かないぞ。


「えー、ご主人いっしょにこないの?」


 何も知らないポン子はご不満の様子。一緒に来ないとやだ、と駄々をこねられる前に、

「俺は下の階で待ってるから。お金は後で渡すよ」

 とさっさと退散することにする。後ろで、


「りょー君はうちに帰ってから、ゆーっくり見せて欲しいって」


 と、香苗がポン子に吹き込んでいるのが聞こえた。

 おのれ、香苗め。ポン子が家で下着を見せびらかして歩くようになったら、どうするつもりだ。

 後でポン子に言っておかないとな。ついでに下着を見せびらかすのは香苗の趣味、とでも教えておけば、ちょっとした復讐になるだろう。


 食品売り場で飲み物を買い、フリースペースにあるイスに座る。

 モフトは香苗のところに置いてきてしまったので、今は俺一人だ。ゆっくりくつろいで待つとしよう。

 下着はもうすぐ済むだろうから、後は服を買ってと。とりあえずそれで必要なものはそろうか。

 これで明日からは、少し落ち着いた日常を送れそうだな。なんせ、今日は色々と大変だったかr……


「ごしゅじーん、みてー」


 ポン子の声とともに、周りのお客さんの悲鳴みたいなのが聞こえる。

 いやな予感しかしないが、ゆっくりと、ポン子の声がする方向へ顔を向ける。

 ちょうどポン子がエレベーターの手すりを飛び越え、降りてきたところだった。

 それはよ……くはないのだが、もっとよくない状況がそこにある。

 まあ、ポン子がさっきまでいた場所を考えれば、ポン子が今どんな格好なのかは見なくても想像はついていたが。


「そのまんまで出てきちゃだめだろう!」


 急いで俺の学ランを着せてやりながら、ポン子をしかる。

 もちろんポン子に何が悪いのかなんてわからないだろう。

 現に、


「え? だってさっきかなえが、ご主人がみたがってるっていってたし」


 ときょとんとしている。

 ほらみろ、香苗が余計なこと吹き込むから、早速面倒なことになってしまったではないか。

 俺は急いで降りてきた香苗に、無言で抗議の視線を送る。


「だって、ほら、あの……ごめんなさい」


 香苗は言い訳が見つからないようで、素直に謝った。


「ポン子、わるいことした? アンジェとおなじかっこしてるだけだよ?」


 相変わらず状況が分かっていないポン子は、素直に疑問を口にする。

 いや、アンジェのあれは水着っていって、ポン子が今着てるやつとはちがうんだよ。それに、水着も普通は、人前を堂々と闊歩できるものじゃないの。


「みずぎ? かっぽ?」


 知らない単語が次々と出てくるので、ポン子の頭の中には、はてなマークが飛び交っていることだろう。つまり、水着ってのは、ってそんなことしてる場合じゃない。香苗、ポン子を早く試着室に連れてくんだ!


 店員さんたちに謝った後、下着を買って逃げるようにデパートを出た。服はまた明日買うことにしよう。

 そんなこんなで俺たちは、近所の公園までやってきたのだ(つなぎを着たいい男とかはいない)。


「モフト、そっちがわからあなほって」


 楽しそうに砂場で遊ぶポン子とモフトを眺めつつ、俺と香苗は目を合わせて苦笑いする。

 まったく、今日はポン子に振り回されっぱなしだ。犬だったときはもうちょいおとなしかったし、そんなにわがままな子ではなかったはずなのに。


「きっと、大好きなご主人と意思疎通ができるようになったから、甘えてるんじゃない?」


 そういうもんなのか?


「たぶんね。私はポン子ちゃんの気持ち、なんだかわかる気がするなー」


 優しい目でポン子たちを見ながら、香苗は言う。

 なんだ? 香苗も俺に甘えたいのか?


「ちっ、ちがうってば! そうじゃなくて!私の場合は、兄弟ができたみたい、ってこと!」


 真っ赤になりながら説明する香苗。兄弟?


「そう。りょー君はお姉さんがいたから分からないかもしれないけど、私は一人っ子だから、モフトがなんだか弟みたいに感じられて。だから、少し嬉しいんだ」


 そう言う香苗の顔は、本当に嬉しそうだ。

 ふーん、兄弟ねぇ。確かに、ポン子は手のかかる妹、って感じもするな。家族家族って言って、そんな具体的なことまで考えてなかったな。


「まあ、家族には変わりないけどね。あり方がかわったっていうか、まあそんな感じ?」


 あり方が変わった、か。そうだよな、姿が変わって、意思疎通も出来るようになったんだ。全部が今までと同じ、ってわけにもいかないよな。


「そんなに深く考えなくても、ポン子ちゃんとりょー君なら大丈夫だって」


 俺が考え込みそうなのを感じたのか、さりげなく香苗はフォローしてくれる。雰囲気でなんとなく察してくれるあたり、さすが幼馴染だよな。助かるよ。


「いいっていいって。じゃ、私はこれからモフトの服を作んないといけないから、先帰るね。モフトー帰るよー」


 モフトは俺とポン子にぺこりとお辞儀すると、香苗とともに帰って行った。



 ポン子の砂場遊びを眺めていると、いつの間にか、空から赤色はほとんど消え去っていた。


「ポン子、そろそろ帰るぞー?」


 ポン子は充分満足したのか、満面の笑みを浮かべながら素直に俺の元に走ってくる。


「たのしかったー、こんどはご主人もいっしょにやろ?」


 はいはい、今度ね。約束してやると、ポン子は尻尾をブンブン振って喜ぶ。

 こうして見ると、やっぱり犬のときと変わらない気がするんだけどな。香苗と話したことを思い出すと、ご主人と呼ばれることに若干違和感を覚えてしまう。

 もし、ポン子が俺のことを兄のように思ってくれてるなら、ご主人って言い方はよくないもんな。


「なあ、ポン子。そのご主人って呼び方、変えないか?」


 いい機会だし、別の呼び方にしてもらおう。

 お兄ちゃんとか? 少し恥ずかしい気もするな。


「なんでー? ご主人はご主人だよ?」


 ポン子はよくわからない、という顔をする。

 まあ、いきなり言ってもそりゃ分からんよな。


「もう、俺たちはご主人とペットって関係じゃないだろ? だって、俺たちは家族なんだから」


 ちょっとキメ台詞っぽくいってみた。よく考えてみると、ペットのときからすでに家族だと思っていたのに、等ツッコミどころはあると思うが、そこはキメ台詞だ。空気をよんで素直にかっこいいと思っていただきたい(誰に対しての注釈かわからんが)。

 

 キメ台詞が入り、ポン子の中の俺の株はさらに上昇した、と思ったのだが、ポン子の顔を見るにそんなことはなさそうだ。


 ポン子は、この世の終わりのような顔をしている。


 一体どうしたんだ。そ、そんなに俺のキメ台詞は絶望的だったのか?


「ご主人……じゃない?」


 どうやら最初の部分を聞いた時点で、その後が聞こえなかったらしく、壮絶な誤解を生んでしまっているようだ。

 

 しまった、と思ったときにはもう遅く、ポン子は大粒の涙をこぼしながら大声で泣き出した。



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