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お兄さんといっしょ

 体育館内はカオスな状況から一転、全員が石化したかのように硬直している。

 聴覚の鋭そうな子 (うさみみ)なんかは泡吹いて倒れているし。大丈夫か、あれ。


「ほら、おとなしくなったでしょ。それじゃ、あとよろしくね」


 といきなり丸投げしてくるアンジェ。いったい何をよろしくすればいいのか。もうみんなおとなしくなったんだから、俺が何かする必要はないだろ?


「このままだとまた元通りになるわよ? ちゃんとりょーが言って聞かせないと」


 言って聞く子ばかりなら苦労はしないのだが、ってああ、だからあとよろしくってことね。もうちょっと協力してくれても良いじゃないか、アンジェよ。


「別に良いけど?」


 と再度アンジェは手を出してくる。いや、もう袖の下は何もないんだが。


「別に今日一日私の言うことを聞いてくれるって条件でも良いけど。悪いようにはしないわよ?」


 アンジェの密着誘惑攻撃! 効果はばt……いや、いまひとつですから、そんな毛を逆立てて、うなり声を上げないでください、ポン子さん。


「あら嫉妬? かわいいわね」


 アンジェも挑発しない! 

 まったく、どうしたらこの二人は仲良くできるのか。今後のためにも、何か考えておかないとな。

 それよりも、妖獣たちの硬直が解け始めた。

 どうすれば良いかはともかく、とりあえず妖獣たちを一ヶ所に集めよう。

 ポン子、お願いできるか?


「……ポン子には何くれるの?」


 やはりまだジャーキーの件を根に持っているのか、むくれた顔でいうポン子。

 怒った顔もかわいいな。(ツンツン)


「ぷふっ、なにするのご主人!」


 おっといけない、あんまりかわいいもんだからついほっぺを指で押してしまった。

 ごめんごめん、あとでパンかなんか買ってあげるからさ。


「うー」


 ジト目でこちらを見るポン子。まだ許してない、という演出のつもりだろうが、尻尾はフルスロットルで動き回ってますが。

 ここまできたら、もう次にどうすればポン子が言う事を聞いてくれるかは簡単だ。


「そっかー、じゃあまたアンジェに頼もうかn……」


「ダメッ! ポン子がやる!」


 はい、作戦成功。ほんとに反応が素直でいい子だ。

 それじゃあみんなを一ケ所に集めてくれ。

 頼むぞ?(ナデナデ)


「うん、わかった!」


 すっかり笑顔に戻ったポン子は、意気揚々と走り出した。


 結果から言えば、うん、まあ、ポン子はみんなを一ヶ所に集めることには成功した。

 ポン子の犬種は牧畜犬として用いられているので、こういったことは得意なのだ。

 ……得意なのだが、やり方がまずかった。

 

 最初は、押すなり引っ張るなりして穏便に集めていた。が、当然素直にいう事を聞く子ばかりではないので、吠えて脅かしたり、ワンパン入れたり噛み付いたり等、荒々しい行動に出た。

 その結果、一ヶ所に集まったものの、怒声や泣き声で、元の騒々しさに戻ってしまった。

 ポン子も、ネコミミの子と取っ組み合いを始めてしまったし(やはり猫との相性は悪いみたいだ)


「ふふっ、りょーの人選ミスね」


 状況を楽しむように笑うアンジェ。

 いや、集めることには成功したんだから、ポン子を選んだのは間違いではないぞ。あとは静かにさせるだけだし。


「ああ、それは簡単」


 アンジェは再び黒板に手をかける。すると妖獣たちは動物的勘で危機を察知したのか、こちらを向いておとなしくなる。


「ほら、次はりょーの出番よ?」


 出番て、集めた後どうするかなんてまだ考えてないぞ。



 しばらく考えたが、思い浮かんだのは今朝方の自称神様の演説だ。あれと似たようなことをやればいいのか?

 効果は薄そうだが、それしか思い浮かばんしな、やってみるか。

 目線を妖獣たちに向ける。たくさんの目線が返ってくる。こ、これは緊張するな。


「えーと、みんな、こんにちは?」


 とりあえず挨拶。となりでアンジェの笑いを押し殺した声が聞こえるが、気にしない。


「みんな元気、かなー」


 緊張のせいか、少し言葉が途切れ途切れになる。

 しかし、妖獣たちは『げんきー!』と返事を返してくれる。なんだか、お子様番組のお兄さん役みたいな気分だ。


「みんなにお願いがあるんだけど、いいかな?」


 なるべく簡単な言葉を使う。じゃないとめるくの二の舞になるからな。


「君たちは妖獣になって、人の姿に近くなった。だからこれからは人間のルールを知っておいてほしいんだ。君たちの家にもルールがあるだろ?」


 確か、子供の頃見たテレビのお兄さんは、こんな感じで問いかけていた。んで、なにかしら答えが返ってきて、それを肯定しつつ、大事なことに賛同させる、という形で番組が終っていた、はず。これならいけるかな。


 どうやらこのシチュエーションはうけたようで、妖獣たちは嬉々として答えてくれる。


「ごはんのまえにおてをする」

「つくえにのぼらない」

「まてっていわれたらまつ」

「ばんってやられたらたおれる」

「みて、あれポン子のご主人! かっこいいでしょ?」


 うん、……うん? 

 少しおかしいのがあったがまあいいか。話を続けよう。


「そう、おんなじように人間たちの間のルールがあるんだ。それを教えてくれる人が来るから、みんなその人の言う事をちゃんときくんだぞ?」


 返事をするなり、首を縦にするなりで了承の意を伝えてくれる妖獣たち。

 不満な子もいるみたいだが、アンジェが黒板のそばに立っているのを見て、しぶしぶ同意する。

 よし、なんとかなった。あとは先生に頼もう。体育館の隅で、完全に空気と化していた教頭の所へ向かう。

 話は聞こえていたでしょう? 今度こそよろしくお願いしますよ、教頭。


「や、私は高等部の免許しか持っていませんのでな。初等部みたいな子たちの相手はちょっと……」


 お役所仕事みたいなことを言う教頭。じゃあ、音楽なり家庭科なりの先生を連れてきてくださいよ。それなら大丈夫でしょう?


「や、なるほど。それは名案ですな。すぐに呼んできましょう」


 教頭はすたすたと体育館を出て行く。あれは、早くこの場を離れたくて仕方がなかったって感じだな、まったく。


 さてと、そろそろ教室に戻らないとな。香苗がうまく言ってくれてるといいんだが。

 俺は、両手で手を振るポン子や投げキッスしているアンジェに見送られながら、体育館を後にした。


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