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春先の予言に注意

『今宵、天より流星が降り注ぎし時、従属させられし獣どもは解き放たれ、人の世は混乱の渦に陥るであろう』


 差出人の書いてない封筒に入っている物なんてこんなもんだ。

 たいていの人間は「ああ、春だから頭の沸いてる人が活動し始めちゃったかー」ぐらいにしか考えないだろう。

 無論俺もそうするつもりだった。しかし、わざわざ


千石せんごく 亮司りょうじ様』


 と俺宛に来ていて、しかも、愛犬「ポン子」の写真が同封されていたとあっては、話は別だ。

 ということは、この予言みたいなのに書かれている『獣』というのは、ポン子のことを示していて、『解き放たれ』は誘拐宣言と取れる。

 

 たしかに、うちの愛犬ポン子は、栗毛色に、足と首元は、靴下とマフラーのような愛らしい白、顔の周りは美女のような黒の毛並みで、まるで水晶のような澄んだ目をしている。ここいらでポン子ほどのシェットランドシープドック(通称シェルティー)はまずいないだろう。

 

 おもわず誘拐したくなる気持ちはよくわかる。(親バカだとはよく言われる)

 が、『従属させられた』というのは気に食わん。

 ポン子は大事な家族だ。従属関係を強制しているわけでもないし、ポン子だって俺のこと家族だと思ってくれているはずだ。

 

 だからこんな戯言、無視しよう、と思いつつやっぱり心配になってポン子の様子を見に庭に出てみる。

 もう十時だし、さすがにポン子もお休み中だろう。

 と思ったのもつかの間、ポン子は俺の気配を感じ取ったのか、勢いよく犬小屋から飛び出すと、尻尾をはち切れんばかりにふりながら、うれしそうに俺の周りを跳ね回る。

 ああ、なんと愛らしいことか。あのクソみたいな封筒をよこしたやつにもこの光景を見せてやりたいものだ。


「なーポン子? 俺たちは家族だよなー?」

 

 頭をわしわしと撫でながら語りかける。

 ポン子は、嬉しそうに目を細め、耳をピクピクさせる。

 愛いやつめ。

 まあ、何を言ってるかは伝わってないだろうけど。

 

 さて、今のところ何も起きそうにないし、部屋に戻って勉強でもしよう。あの国語教師め、新学期早々宿題なんて出しやがって。学校自体に恨みはないが、つい学校のある方角を睨んでしまう。

 

 ちょうどそのときだ。学校の裏山あたりから空に向かって閃光が走った。

 そして、ひときわ大きな光を放ったかと思うと無数の流星のようになり、そのうちの一つはこちらに向かってきた。

 

 あんなの避けんの無理だ! どうしよう!?

 まともに思考が働かないが、とりあえずポン子だけは助けなければと、脊髄反射で光からかばうように抱きかかえる。

 すると周りのものが全てスローモーションに見え、今までの思い出がよみがえってくる。

 

 嬉しそうにボールを追いかけるポン子。

 おなかを見せて撫でるのを催促するポン子。

 風呂上りで室内を走り回り、家中びしょびしょにしたポン子。

 ってポン子の思い出ばっかりじゃないか!


 これが走馬灯ってやつかー、なんて思ったところで、視界が光に包まれた。

 ああ、父さん、母さん、あとついでに姉さん、先立つ不幸を許してくれ。それと、もし、もしポン子が無事だったら、俺の代わりにポン子の世話を頼んだ!!

 そう祈りながら、俺はついに意識を手放した。

 

『ペットは家族に入りますか?』       

     ―完―

↓      

↓   

 なにやら揺すられているような感じがする。死後の世界ってのは、ぐらぐら揺れるんだろうか。真っ暗で何も見えない。


「……じん……きて……ねえってば!」


 誰かの声が聞こえる。体がいっそう激しく揺れている感じがする。

 天国って明るそうなイメージがあるから、もしかしてここは地獄?

 いやだなぁ、俺そんなに生きているうちに悪いことしたっけなぁ。


「むぅ~、なかなか起きないな」


 でも、こんなかわいらしい声が聞けるならい地獄でも良いかもしれない。

 ってか、しゃべってんの、誰?


「よぉし、こーなったら」


 スーハーと深呼吸している音が聞こえる。

 どなたか知れませんが、まだ見えぬ誰かさん、いったい何をなさるおつもりで?


「せーのっ!」


 掛け声の後に聞こえてきたのは、犬の遠吠えだ。

 この遠吠えは、よく知っている。

 ポン子だ!


「ポン子!」

 

 俺は、無理やり体に力を入れて、起こす。

 どうやら庭で気絶していただけのようで、見慣れた風景が目に飛び込んでくる。

 よかった、とりあえず俺はまだ生きているみたいだ。


「よかった~、ご主人、心配したぞ?」


 うんうん、本当によかった。それで?先ほどから俺に話しかけているのはどなたさん?

 声のするほうに顔を向けると、見知らぬ少女がそこにいた。

 全裸で……。


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