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未秘の恋  作者: さき
6/7

*6

――なんなのよ、これ。

感傷に浸っていたら、突き放されて。

もう、ただでさえわけわかんないのに、もっとわかんなくなった。

何かが頂点を突き破って、感情が振り切れた。


「あのっ!もう一つの約束ってなんですかっ!」


さっきとは立場が逆転。


「覚えてなかったことは謝ります」

「……」

「それは…じゃあ、それはコウくんが……タカヤギ先輩が迎えに来なかったことでチャラにしてください」

「……う、マジで…」

「……マジです」

「……恥ずかしくて、言いたくないんだけど……」


恥ずかしい約束?

ますます気になるし、もうこうやって話すこともこれからないかもしれない。

学年も違うし、部活も違う。

体育館の使用が一緒になることはあっても、たぶん話すことはないだろう。

それに、これ以上コノミ先輩に目を付けられたくなかった。



一歩近づくタカヤギ先輩。

今度は後退せずに、タカヤギ先輩の顔を見上げる。


恥ずかしそうに顔を赤らめてタカヤギ先輩は私に耳打ちをした。


「――――――」


はっと驚いてタカヤギ先輩の顔を見てしまう。

タカヤギ先輩は顔を手で覆い、指の隙間から見える目を泳がせた。


もう一つの約束…そんな約束をした覚えはなかった。

―――でも、その言葉がうっすらと記憶に積もった埃を払い落す。


「あの…」

「恥ずかしくて言いたくなかったのに…モモが言わせるから…」

「えっと…」

「俺はさ、その…。その約束守ってほしいと思ってるんだけど」

「……え?」

「今じゃなくていいから…いつかそうなればいいなって、さ……思ってる」

「だって…」

「ごめん…そんな困らせたくて言ったんじゃないんだけど…そうだよな、こんなこと言われても困るよな。モモだって…」

「違うんです!…だって、コノミ先輩…」

「…はっ!?なんでそこでコノミが出てくんの?」

「…だって、コノミ先輩と付き合ってるんじゃないんですか?」

「マジかよ…」


へなへなと座り込むタカヤギ先輩。

「――そのデマ、1コ下にも広がってるのかよ…」

「…え?」

「あんさ、それデマだから。コノミはほんとにただのクラスメイトだから」

「…そうなんですか?」

「うん。それよく言われて、否定しても否定しても効果ないし、最近もうどうでもいいやって思ってたけど……モモに勘違いされるのは避けたいから。ここでちゃんと言っとく。コノミとはそんな関係じゃない」

「……」


それは、タカヤギ先輩に――コウくんに彼女はいないって解釈してもいいのだろうか。


「モモの事情とか知らないから、押しつけがましいのわかってる」

「……」

「でも、俺は本気なんだ。10年もそんなこと思ってたなんて…自分でも気持ち悪いと思うけど…」

「…あ、わたし…」


嘘だ、と思った。

馬鹿みたいにおとなしく待って、それじゃだめだって気付いて。

自分から探しに行って、でも現実が希望と違うことを恐れて、縮こまっていた。

そんなときに偶然が重なって出会えた。

その出会いは想像していたものよりもドラマティックで、そして衝撃的だった。

でも、逆転に次ぐ逆転。


「…ずっと待ってました。コウくんは約束守ってくれるって信じてました」

「……え?」

「迎えに来てくれるって信じてました」

「…うん」

「それでっ、もう一つのっ、約束…ッ…忘れててごめんな…さ――」


一度限界を超えた感情が再度高ぶって、今度は堰き止めていた涙が出てきた。


「もう…もういいから。ごめん、ほんとはこんな風に泣かせたいわけじゃないんだ」

「…ちがっ、うんです…」


ああもう、いつもの平然とした私はどこにいったんだろう。

――昔からコウくんのことだけが私の心を揺さぶってきた。


「でもッ……その約束っ、守りたいんです。今から、じゃ…遅いですかっ…」


腕をぐっと引かれたと思う間もなく、私の嗚咽はすべて先輩の胸の中に吸い込まれていた。

言いたいことがいっぱいあるのに、声が詰まって何も伝えられない。


吐き出せるだけの息を吐いて、吸い込む。

お日様と洗剤の匂いも一緒。

そこにあるのは安心感。


「ありがと、モモ」


優しい声音が心に響いた。

心の中でしか「こちらこそありがとう」って言えなかった。

けれど、先輩――コウくんは優しく私の背中を叩いて「わかってる」って伝えてくれた。




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