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未秘の恋  作者: さき
1/7

*1

プロット無しで書いた作品。

タイトルだけで書きあげてみました。



私、香川桃香、16歳。

ずっとずっと、コウくんに片思い中です。



***



コウくんは同じマンションの隣の隣に住んでいた1つ年上の男の子。

ご近所さんということでお母さんどうしが仲良くて、物心がつく前から遊んでいた。


コウくんは私のことを「モモ」って呼んでいた。

コウくんはいつも優しくて、私がピンチの時は必ず助けに来てくれる正義の味方。


走ってこけた時に一番最初に来てくれるのはコウくん。

傷を水で洗い流す時にそばにいてくれたのも、痛いの痛いの飛んで行け~のおまじないをしてくれたのもコウくん。

コウくんがおまじないをかけてくれると、すぐに痛くなくなるから不思議だ。


公園で別の子におもちゃをとられて泣いている私をいつも助けてくれるのもコウくん。

泣いて何もできない私の代わりにおもちゃを取り返してくれた。

コウくんが泣き止まない私をよしよしってしてくれるのが大好きだった。


私はことあるごとに「コウくんのお嫁さんになる」って言っていた。


でも、コウくんは私が小学校に入る前に隣県に引っ越してしまった。

あの時、悲しくて悲しくて地団太を踏みながら泣き止まない私をコウくんは抱き上げて言った。


「絶対、モモを迎えに来るから」


その言葉を今も大事にしている。

裏切られてもいいから信じている。


未だ秘めたる恋が叶うことを心から信じて――



***



コウくんの話を久々に聞いたのは中学校2年の終わり。春休みのことだった。

それまで私は性懲りもなくコウくんの約束を信じて待ち続けていた。

まぁ、そんなにモテなかったってこともあるけど2~3人にお付き合いを持ちかけられたことはある。

私は、当たり障りのない言葉でお断りしたけれど、本当は「心に決めた人がいるから」。

私のなかのコウくんは今も色褪せることなく私の心に存在し続ける。


ある日、夕食の支度を手伝っていた私に母が唐突に話しかけた。


「あっ、そうそう。コウくん、A高校に進学するんだって」

「――え?」

「あら?覚えてない?幼稚園の頃によく遊んでもらってたコウくん」

「う…ん…。覚えてるけど…」


――忘れるわけがない。今も昔も私はコウくん一筋なのだ。


「今日ね、午前中デパートへ買い物に行ったら、コウくんのお母さんとばったり会っちゃって。こっちに戻ってきてたみたいよ、コウくん一家。それでコウくん、A高校に合格したんだって」


久しぶりに聞くコウくんの話。

短い時間しか話せなかったらしく、とりあえずA高校に進学したことしかわからなかったけれど、それを聞いて、いてもたってもいられなくなった。

私はもうただ泣くことしかできない幼稚園児ではないのだ。


「――ねぇ、お母さん」

「ん?どうしたの?」

「――私、B高校じゃなくてA高校受ける」

「――え?」

「絶対、A高校合格するから!」



A高校は県下ナンバー1の高校で、私が受けようと思っていたB高校は県下ナンバー2の高校。

B高校も安全圏に届いてなかった私にA高校は成績的に厳しかった。

だから、私はとにかく勉強を頑張った。

コウくんに会いたくて、ただひたすらに頑張った。

迎えに来てくれなければ、迎えに行けばいい。

シンデレラは王子様に迎えに来てもらったのかもしれないけれど、自分の足で舞踏会に行ったからこそ王子様に会うことができたのだ。


最初は志望校を変えることに難色を示していた両親や先生も私の頑張りと右肩上がりの成績にA高校の受験を応援してくれるようになった。


中体連も終わった。

私はバレー部で、県内でそう強くなかったから、そこそこ勝って、順当に負けた。

感傷に浸る暇なんてなかった。

――舞踏会はもうすぐ始まるから。


部活が終わってからは、何も考えずがむしゃらに頑張った。

ただただコウくんに会いたくて、近づきたくて。



そして次の春、私は見事合格をもぎとった。

これには私よりも周りの方が驚いた。

1年前と変わった私。

私の魔法使いはコウくんだったらしい。

魔法使いと王子様の一人二役。

なぜかわからないけれど、コウくんらしいと思った。

もしかしたら、痛いの痛いの飛んでけ~が効いていたのは魔法使いだったからだろうか。



コウくんが私の前からいなくなって10年。

私にとっては長いようで短かった。

――でも、コウくんにとっては?


私の中のコウくんはずっと最後に会った時のまま変わっていない。

けれど、私が成長したようにコウくんだって成長している。

きっと、私よりもずっと大きく変わっているだろう。


去年春をきっかけに自分の中で急激にそして異常に膨らんでいくコウくんのイメージ。

実際会った時にそのギャップで失望してしまうかもしれないとおびえながら、それでも10年近く会っていないコウくんに期待していた。



***



入学して早一か月。

学年に生徒が400人もいて、同じ学年の子でさえ学年色の青い上履きでしか判断がつかないほど顔を覚えていないのに、1コ上の先輩のことなんて全然わからない。

クラスの友達が同じ学年でかっこいい男の子の名前を言っていても「誰、その人?」と訊きかえすくらい。

時折、かっこいいと噂される先輩の名前がでるくらいで、野球部のエースとサッカー部のFWとバスケ部のキャプテンといった有名どころ。さもありなん、って感じ。

結局コウくんは何組なのか、何部なのかわからないまま時は過ぎて行った。


5月の中旬になるとクラスメイトとも打ち解け、過去の恋愛話をすることもあった。

私は少し嘘を混ぜて、適当にぼかした。

この歳であの言葉を信じているということがどれだけイタいことなのか自覚くらいはある。

集団生活を営む上で上手くやっていくためには変に目立ってはいけないという程度の処世術は備えているつもりだった。


部活は続けてバレー部に入った。

部活の先輩は優しかったけれどそこまで親しくなかったから、コウくんのことは結局訊けずにいた。



――ここにコウくんはいても、「私のコウくん」はいないのかもしれない。


2か月も経つとそう考えてしまうのも仕方のないことのように思える。

優しくて強くてみんなが憧れるような王子様。

まだ弱かった小学校時代は私の心の支えだった。

頑張ればいつかコウくんが迎えに来てくれる、そう思っていた。

中学時代になると、もう意地だったかもしれない。

ここまで信じてきて、ここで諦めるなんてできなくなっていた。


それでも裏切られたときが怖いから期待しないようにしてきた。

でも、自分の意思とは反対に膨らんでいくイメージと期待。


――私もそろそろ王子様卒業しなきゃいけないのかもしれない。


何度も何度も考えた。

きっと「私のコウくん」は同じ足のサイズの別の女性を見つけたのかもしれない、と。




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