四人と死で五人だ
若干僕自身の身近な人物がモデルになっているので内輪ネタっぽいものがなくもないかもしれませんが基本的には多くの人に楽しんでもらえるギャグを入れたつもりです。感想待ってます。
突然だが僕はこの世で一番頭が良い高校生だ。異論はパンダのみ認める。
だから遅刻くらいは笑って許されて然るべきだと思っていたが融通が利かない担任は小言を言ってくる。いやいやアンタだっていつも二、三分遅れてくるじゃん、なんて言おうものなら更に長くなりそうなので止めておく。我らが担任、村下先生はそういう男なのだ。
まあ遅刻って言っても五分程度遅れただけだし、まだ出席すらとりはじめてないんだ。いちいちガタガタ言うことないじゃんね?
「翔野中太!」
ぶつくさ文句をこぼしていたら僕の名前が呼ばれた。どうやら出席をとりはじめてたみたいでボヘーッとしてる僕が返事をしないので何度も呼んだらしい。
「おい、チュータ休みなのか!」
村下先生が気だるそうな表情で神経質に眼鏡の位置を直しながら怒鳴った。“チュータ”なんて変な名前にした親が恨めしい。僕は優等生なので「ヘエイ!」と元気よく返事をすると何故か教師に睨まれた。なんでだろう。
出席もとりおえたようで、いつものように中身のないSHRが始まるものかと思っていたが、何やら教室の空気がそわそわし始めた気がしないでもない。
「えー、これよりみんなに殺し合いをしてもらいます」
抑揚のない声で言い放つ村下の言葉に僕は耳を疑った。なんだって?
突然のバトロワ宣言に教室はざわめく。当然抗議の声が上がるものかと思っていたが、あれ? あっるぇ? なんかみんな、バットやら竹刀やら手榴弾やらマシンガンやら合口やらを鞄から取り出して殺る気満々なんだけど……
「え、なにこれ意味わかんない……今日ってエイプリルフールだっけ」
なんて言ってみても誰も何も言ってくれない。そもそも今日は十二月だし……僕の誕生日はちなみに四日だし。
冗談にしても趣味が悪い、僕がもっと面白いことを言ってやる。そう思って懇親のギャグを炸裂させようと思っていた矢先、後ろの席から女子の声が飛んできた。
「ちょっとチュータ、先生の話聞いてなかったの? 昨日、言ってたじゃない!」
そう僕に声をかけたのは幼馴染の茅賀沙希だった。可愛らしいサイドテールに、黒目がちな大きい瞳、よく通るソプラノ。趣味は振り込め詐欺。これでおせっかいな性格さえ直れば天才の僕とも釣り合うのに。
「昨日? 言ってたっけ、そんなん」
優等生の僕が聞き逃しなんて考えにくいんだけど、という言葉は飲み込んでおいた。実際聞いた覚えも無い。
「ほら、昨日帰りのHRで『明日は二人一組のペアで二年生同士の殺し合いをするからペアと道具を準備しておくように』ってさ」
「ふん、気が進まないな。僕らはみんな友だち同士なんだ! 殺し合いなんて出来るはずがない!」
「それから先生はこうも言ってたわ。『最後まで残った一組には全教科の単位とパンダ一年分を贈呈する!』ってね」
みんなで殺し合うことに関しては一向に構わないが道具なんて準備してない。ペアもいない。
「もうっ、チュータのことだからペアがいなくて困ってるんじゃないかと思ったのよ。なんならあたしがペアを組んであげてもいいよ?」
そこまでして僕と組みたいならしょうがない。僕はお言葉に甘えることにした。
「じゃあ、僕とペアを組むか、沙希」
「うんっ! じゃあペア料二十万ね!」
僕は胸ポケットから二十万支払うと、沙希の話にもとづいて教室を後にした。彼女曰く、開始時間は九時からで、それまでに各ペアそれぞれ学校のどこかしらに身を潜めて開始を待つことになっているらしい。
僕らはあえて教室に残ることにした。みんなが散り散りになるならここにいるのが一番みんなからは離れるし、誰もいないと思って油断して戻ってきた奴を殺せる。問題はどうやって殺すかなんだけど。
九時までに武器を調達しようと思って教室を探したけどロクなものがない。はあ……とため息をつきながらポケットに手をつっこんだら何やら固い感触。
そっとそれを取り出すとシャコ貝だった。ああ、そういえば昨日寝ぼけて眠ったまま潮干狩りに行ってそのまま起きたんだったな。これを武器にすればいいか。
沙希はというとメリケンサックを手に装着して殺る気満々だ。
時計が九時を示した瞬間、耳をつんざくような轟音が聞こえ、眩しい閃光とともに教室の壁が崩れた。
「はっはっは! ここで会ったが百年目え! 死んでもらうぜ翔野おおお!」
壁から現れたのは同級生の村木拓哉だった。と思うや否や、持っていたマシンガンを連射してきやがった。
だが甘い、僕は持っていたシャコ貝で全てガードした! 別名人食い貝とも呼ばれるシャコ貝だが(豆知識だよ……ふふん)、こいつはその中でもかなりの大型、二メートルは軽くあるのだ! どうしてそんなもんが僕のポケットに入っていたかというと僕のポケットは某ネコ型ロボットのポケットと同じ仕組みになっているからなのだ!
二メートルのシャコ貝を盾にしながら村木のマシンガンを防ぐ。防いでいるうちに彼のマシンガンがカチッ、カチッと音をたてて弾丸を発射しなくなった。
「ちいっ、汚えぞ、シャコ貝なんて……! 俺はホタテの方が好きなんだよおおお!」
そう叫び、弾が切れたマシンガンを投げ捨てながら、村木が突進してくる。馬鹿め、飛んで夏に入る虫の火とはこのことだ――!
「シャコ貝ガ――――――ド!」
突進してくる村木をシャコ貝でガード……そしてシャコ貝はとんでもない勢いで閉じ、村木の足が挟まれた!
「な、なんだこいつは!」
「はあん、だから僕が言っただろう?(モノローグでな)シャコ貝は人食い貝の異名を持つんだよ! 不用意に足をつっこんだ馬鹿は挟まれて抜けることはできねえんだよおおおお!」
「ば……馬鹿な! つーかそのシャコ貝まだ生きてたのかよ!」
「そのまま挟まれてシャコ貝に食われて死んじまえ!」
「なんてな……」
みっともないくらいに狼狽していた村木は表情を一変、不敵な笑みを浮かべた。
「この知ったか野郎が。シャコ貝が人食いだなんて言われていたのは昔の人が勘違いしていただけのことなんだよ! 本来のシャコ貝っていうのはたとえ足が挟まれたところで、その閉じ方は緩慢で抜こうと思えば簡単に抜けるのさ!」
「抜こうと思えば抜ける……? なに突然下ネタ言ってるんだよ村木くん」
「下ネタじゃねーよ! お前の発想が下ネタだよ!」
そんなツッコミを入れつつ、シャコ貝から足を引き抜くと村木は今度こそ僕に一撃を与えようとこぶしを振り上げた。
まずい、やられる――
「チュータに乱暴しないでっ」
と、その横からメリケンサックを装着したこぶしが村木に炸裂し、彼はサッカーボールよろしく教室から廊下へ転がり飛んでいった。あの勢いでメリケンサックで殴られれば間違いなく死んでいるだろう。
「大丈夫だった? チュータ」
「うむ、よくやったぞ苦しゅうない」
沙希が助けてくれたのだ。そういえばこいつも一緒にいたの忘れてた。
「よかった……! チュータが無事で……」
沙希が安堵したように言う。僕が無事でよほど嬉しいのだろう、モテる男はつらい。
「助けてあげたから四十万ね!」
僕は内ポケットから四十万支払うと、次に来る敵を待った。
教室で待ち伏せるという作戦は思いのほかうまくいく。何せ他の面子は別の場所で殺し合っている。ここに戻ってきた奴だけ殺せばいいのだから、最後の一組になるのには最良の手じゃないか。まあ流石天才の僕が思いついた手というところだろうか。
教室の外から激しい轟音が聞こえてくる。盛大に殺し合っているんだろう。ここなら体力を温存しつつ待ち伏せできるのにな、あいつら馬鹿なんだろうな。
そんなことを思いニヨニヨほくそ笑んでいたら乾いた音をたてて教室のドアが開き、間抜けそうな茶髪が顔を出した。赤倉博也である。
「やっぱり教室で待ち伏せてたな……ふっ、俺は読んでいたぜ翔野! お前にはここで死んでもr」
シャコ貝で撲殺した。つくづく間抜けである。無様にも床に横たわる赤倉の荷物を漁り、武器になりそうなものを調達した。
長ネギと鍵盤ハーモニカなんて持っていやがったのでそれを剥ぎ取っておく。どうしてこんなもんが武器になると思ったんだよ、この茶髪の……あ、駄目だもう名前が出てこない。なんていったっけ、この人。
沙希がはしゃぎながら手を叩く。
「凄いね、瞬殺じゃない。かっこ良かったよ! チュータ」
全く、何を今更……当たり前じゃないか。
「褒めてあげたから五十万ね!」
僕はブレザーのポケットから五十万支払うと、長ネギと鍵盤ハーモニカを手に持って次に誰が来てもいいように備えた。
それからやはり一人、二人と教室に戻ってきた生徒を殺していった。こう見えても僕は元剣道部で初段に合格して二段には落ちる程のもの凄い実力者なので長ネギを剣に、鍵盤ハーモニカを盾にばったばったと殺していった。最悪危なくなったらシャコ貝に隠れて形勢を立て直せばいい。合計で十人近くはあの世へ送っただろうか。やはり僕は天才だ!
そして、沙希に支払った額の合計が五百万に達した頃……
おそらく次が最後だろうと踏んでいた。ポケットから懐中時計を取り出して時刻を見る。余談だが腕時計は手に吸い付くような感覚が気持ち悪くてたまらないのでしない主義である! 時刻はというともう十一時にさしかかる。ここまで時間がたてば二年生はほぼ全滅していると思っていた。
「ぬわーーーーーっ!!」
突然、廊下から絹を裂くような叫び声が聞こえた。
「ど、どうしたのかしら?」
「ふん、ついにお出ましか。僕のスーパースペシャルシャコ貝と長ネギのサビにしてくれる」
今、叫び声の主を殺したのが最後の一人だろう。何よりこの高校に生きた人間の気配があまりにも減った。
廊下に出ると、血だまりの上に立っていたのは植本怪斗だった。たった今、彼に殺されたであろう死体も転がっている。
僕らの姿を確認すると、植本は肩をすくめ、
「驚いたな……まだ生き残っている奴らがいたのか。もう二年生は全員血祭りにあげたと思ってたのに」
と、薄ら笑いをうかべながらいった。
「もう僕たち以外には二年生はいないのか」
「ああ、俺が皆殺しにしちゃったよ」
僕は頭に血が昇る感覚を覚えた。二年生を皆殺しだと!? やっていい事と悪い事があるだろう!
「お前は絶対に許さん! 何よりパンダ一年分のためだ!」
僕は長ネギとハーモニカを構え、ついでにハーモニカで“かえるのうた”を演奏してやった。
「なんだ、その曲は!?」
「知らないのかい? これは僕が生まれて初めて弾けるようになった曲だ!」
そして僕は植本が戸惑っている隙に長ネギで必殺の一撃を与えてやろうと斬りかかった。
「くらえ! 長ネギブレードおおお!」
しかし植本は僕に対してシニカルな笑みを浮かべると、長ネギを両の手で受け止めてしまった!
「長ネギ白羽取りさ!」
彼はそう叫ぶと、その手で受け止めている長ネギをその場でガブリガブリとかじり、全て飲み込んでしまった。
「残念だったねえ、長ネギは俺の大好物さ!」
背筋に冷たい戦慄が走った。なんということだろう、僕の唯一の武器が彼の胃に飲み込まれていった!
「気をつけて、チュータ! 彼は学校に五十の舎弟を持つ、とんでもない凶暴な殺戮者なの!」
「そ、そうだったのか!」
「教えてあげたから二百万ね!」
僕は尻ポケットから二百万支払うと、鍵盤ハーモニカを構えなおした。そんな奴なら流石の僕でも厳しいかもしれない。
僕はこういうときのために眼鏡に内臓しておいたスカ○ターを起動させた。
ス○ウターに奴の戦闘力が表示される。《戦闘力五》だと? ゴミめ……
「ふん、そんな上辺だけの数値に惑わされているようじゃ俺には勝てないよ」
「なんだと?」
植本はシニカルに笑みをたたえたまま、
「見るがいい……これが俺の真の力だ!」
そう言うと彼の周りに言いようもないオーラが漂い始めた……
「植本流必殺最終奥義その十二! 植本スパーク!」
スカウ○ーの数値が……十、二十、五十……七十、馬鹿な、まだ上がり続けている!?
一体どこまで上がるのだろうと僕が危惧するまでもなく、ぱりんっ、という音をたてて僕の○カウター兼眼鏡が砕け散った。
「そんな……スカウタ○でも感知しきれないだと!」
それはいいとして、砕け散った眼鏡の細かい破片が目に入って死ぬほど痛い。何も見えない。
「大丈夫? チュータ!?」
沙希の心配そうな声が聞こえる。が、何も見えないし目はのたうち回りたくなるほど痛い。
「この奥義の効果……それは相手の眼鏡を粉々に破壊することだあああああ!」
そっちが目的だったのかと今更悔やんだところでどうしょーもない。
「沙希! 悪いけど植本を食い止めてくれ! 僕は今は戦えない!」
「わかったわ! 五百万ね!」
ロクに見えていない目で五百万の入った財布ごと投げ渡すと、沙希と植本が戦う音が聞こえてくる。
しかしここまで絶望的な状況になってしまうとは……目が痛いし見えないしで鍵盤ハーモニカやシャコ貝もどこにあるのかさえ分からなくなってしまった。
仮に破片が取れたとして、眼鏡がなければ僕の視力じゃロクにものを見ることがかなわない。
沙希も植本相手にどこまで持つか分からないし……
「植本流最終奥義その十五! 植本サンダー!」
植本が高らかにそう叫ぶと、凄まじい轟音と揺れとともに僕たちに衝撃がはしった。「きゃあっ」と悲鳴を上げて沙希も吹っ飛んだようだった。
ロクに目は見えていないが、それぐらいは分かる。が、やはり目はかすみ、ぼやけている。こんな状態じゃ戦えない!
「ふん、ここまでだな」
植本が不敵な声で言う。
「ちくしょう……」
ここまで来て終わるのか? 僕のパンダ一年分の夢は? グレートスペシャル優等生である僕がこんなところで死ぬのか?
「もう、終わりだ……」
あまりの絶望にやる気を失っていた僕はそのまま膝を折り、廊下に倒れこんだ。
ばごん!
すると僕が倒れた衝撃により床を割れていき、ガラガラと音をたてて植本の足場は崩れ落ちていった。
「そんな、そんなーっ!」
植本は下へ下へと落ちていき、僕が倒れた衝撃によってさらに天井、壁が崩れ植本に向かって落ちていった。
「うわああああ……」
そのまま植本は埋もれていった。あれでは助かるまい。
僕たちは……勝ったのだ!
「やった……あたしたち勝ったのね!」
「ああ……僕らの勝ちだ……!」
そう、これでパンダ一年分は僕のものだ! 僕は震えるほどの喜びを味わっていた。
やっと見えるようになってきた目で茅賀沙希を見つめる。
その姿はぼんやりとしか見えない。でも、彼女も僕と同じ気持ちなのだろう。
この勝利は二人の協力なくしては得られなかった。僕は自分とパンダ一年分を手に入れてくれた沙希を今までになく愛おしく思った。
沙希が僕の手を優しく握った。
「ねえ、チュータ……あたしの最後のお願い、きいてくれる?」
はっきりとは見えないが彼女は顔を赤らめながら言ったんだろう。彼女の目にはきっと僕と同じものが揺れているに違いなかった。
「沙希……」
僕はかすむ目で彼女を見つめた。彼女の願いがもはや金などの即物的なものではないことは明白だ。彼女はきっと……
「あたしのお願いきいてくれる?」
僕は大きく、強くうなずいた。
そしたら首がとれてしまった。
「えっ」
自分の頭部が、鈍い音をたてて床に転がる。僕は死んでしまった。
上から沙希の声が聞こえた。
「死んでくれる? っていうお願いだったんだけど……やっぱり聞いてくれたね」
沙希の高らかな笑い声が廊下に響いた。
僕は彼女に首をはねられたのだ。何故?
そこで僕はようやく気がついた。僕は沙希から「二人一組」と聞いてそれを鵜呑みにしていたが、そんなルールは存在しなかったのだ!
彼女は僕と協力して他の生徒を皆殺しにした後、最後に油断した僕も始末する画策を練っていたのだ!
思い返してみれば今までの敵の中にペアで襲ってきた奴なんか、一人もいない! 考えればすぐわかることだったのに……
死んでしまった今こんなことに気がついても全てが手遅れだった。
僕は薄れ行く意識の中、沙希をねめつけた。沙希はシニカルな笑みを僕に向けると颯爽と去っていった。
全ては彼女の思惑通りことが進んでしまった……。
僕の意識は闇へ飲まれていった……。
「うわあああああっ!」
僕は素っ頓狂な叫びをあげながら目を見開き、“布団から”体を起こした。
「ゆ……」
ゆらゆらと首をふりながら呼吸を整えた。
「夢オチかよ……!」
今にして考えれば夢に決まっているのだが……。
そもそも首をはねられたのにいつまでもモノローグが続いていたのがおかしい。
っていうか学校でバトロワなんてあるわけない。茅賀沙希なんて幼馴染のガールフレンドなんて、いない。
そして僕が今通っている学校は男子校だ。
「はあ……学校行かなきゃ」
最後まで読んでくれた方は本当に感謝です。タイトルの元ネタはアレです。
ちなみにPixivにも同じ小説を投稿しました。