2話「仕方がなかったってやつだ」
「なんとか助かったな」
俺は盗賊が消えて行った方向を見つめる。結局男たちはペンダントだけもらうと満足したのかそのまま消えて行った。どうやら、本当に命を奪う気は無かったらしい。
「ああそうだ、警察に連絡したいからスマホを貸してくれないか?」
俺は座り込んでいる少女に聞く。自分のスマホはどこかに落としてきたのか消えてしまっていた。
「....?聞こえてるか?」
「...どうするんですか」
少女が振り絞るように言う。あのペンダントはそこまで価値のあるものだったのだろうか。
「日本の警察を信じろ。意外とすんなり帰ってきたりするものだ」
正直盗品が、盗まれた本人にどれくらい帰ってくるのか知らなかったが、俺は適当に答える。
「...返ってなんてきませんよ。そんな面倒な依頼をこなす冒険者なんてそういない..」
少女は暗い顔で言う。俺はその言葉を怪訝な顔で聞く。
(こいつ、今冒険者と言ったか?そんな言葉漫画でしか...)
そこで俺は少女の傍らに生えている植物に目をやる。見たことのないものだ。とても地球のものとは思えない。思い返してみれば先ほどのペンダントも奇妙な石をはめていた。まさかここは日本ではない?いやまさか、俺がいた世界とは違う別の..
「手伝ってください」
少女が低い声で言う。
「手伝う?」
「せめて責任を持って私とペンダントを探すのを手伝ってくださいよ!」
少女は俺の胸ぐらを掴み、叫んでいた。
「多分、あの盗賊は最近噂になっている"アライグマ"だと思います」
「ずいぶん可愛らしい名前だな」
俺は少女と野原を歩いていた。時折馬車が通り過ぎるが乗せてくれようとするような人間はいない。
「ハヤトさんは、記憶がないんでしたよね?」
少女が気まずそうに聞く。先ほど俺の胸ぐらを掴んだとは思えないほど気弱だ。
「...ああ、そうだ」
道中この少女、"ミカ"に大体のことは教わった。どうやらこの世界には魔法が存在するらしい。どこかのゲームで聞いたことのあるような設定だ。俺が記憶喪失ということにしたのはその方がこの世界のことを聞くのに都合が良かったからだ。いちいち説明するのもめんどくさい。それに自分ですら状況を把握しきれていないのだ。
「ハヤトさんが記憶喪失で混乱していたのは分かっています。でもあれは私の母がプレゼントしてくれたもので、とても大切なんです」
どうやらミカは俺がペンダントを有無も言わさず差し出した事実をなんとか自分なりに咀嚼しようとしているようだった。俺は自分の身を削りたく無かっただけだが。
「その、一緒に探してくれて、無事見つかったら、その、お礼をしますし!」
なぜ俺にお礼までしてれるのかは分からなかったが、これはこの世界を知る良い機会だ。それにいざとなれば俺だけ逃げれば良い。とにかく今はこの世界を知ることが重要なのだ。
「...最初から君を助けるつもりだったよ。ペンダントを渡したのは俺だしね」
嘘である。
「あ、ありがとうございます!そうだ、まずギルドにハヤトさんを登録しないといけませんね!あぁ、でもその前にハヤトさんを知ってる人がいないか声をかけて...」
どうやらミカは俺が記憶喪失であることを気にしているらしい。
「俺のことは後回しでいいんだ。君のペンダントの方が大事だ」
俺の命が大事に決まっている。我ながら薄っぺらな言葉だと思ったが、ミカは俺をすっかり信頼したようだ。涙を浮かべながら感動している。
「じゃ、じゃあやっぱりまずはハヤトさんの登録をしなきゃですね!あ、ほらあれが冒険者ギルドですよ!」
ミカが指差す方を見ると壁に囲まれた街の中でも一際大きい建物が見えた。
("冒険"か、保守的な俺とは無縁の言葉だが、皮肉なものだな)
俺は自嘲気味に笑った。
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