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幾眼の魔女  作者: 魔女C
1/1

1話 これは託された魔女のお話

はじまりです。


文字数(空白・改行含まない):1881字

「魔女さま、質問です」


 誰も寄り付かないような森の奥、妖精の住んでいそうな幻想的で神秘的な空間にあるツリーハウスの前、一人の少女が魔女に聞く。


「なにかしら?」


「自分にとって、大切な人や物を守るためにはなにをすればいいんでしょうか」


 少女はつい昨日読んだ小説の題材としてあった言葉をそのまま聞いていた。

 この小説は目の前の魔女から譲ったモノ。


「そうねえ……」


 少しの沈黙。

 静かな森で小鳥のさえずりが響き渡る。


「まず私は、常日頃『そのモノの望んでいることはなにか』ということを考えるようにしてるの」


「望んでいること……」


 返ってきた言葉は、小説とはまた違ったものだった。

 まだ10歳にもみたない少女の目線に合わせるため、屈伸する形でしゃがみこんだ魔女は話を続ける。


「私の言い方の場合は主に『大切な人』に寄っちゃうけどね!」


 魔女は可愛らしくウインクをする。

 しかし少女はそれには気付かず、さらに聞く。


「その人の望むことって、聞かないと分からないものなんですよね?」


「そうね」


「それじゃあその事を知らないうちに相手にとって嫌なことをしてしまったらどうしましょう」


 無知な少女は至極真っ当なことを躊躇いもなく魔女にぶつける。

 そうなってしまった時は仕方がないとか、素直に謝ればいいだとか、心を読めだとか……そんな現実的な返しはいくらでもできる。

 魔女は呆れることなく、投げられた質問を一つ一つ丁寧に答えていった


「まずはその人の眼を見ましょうか」


「眼……ですか。でもどう見たらいいのか……」


 そう言いながら少女は前を向き、師匠の目を見る。そして目が合う。姿勢を低くしている魔女の眼と、少女の眼が一直線に並ぶ。


「今の私の瞳、どう見えるかしら?」


 突然に言われ、少女の目線はあちらこちらに散らばる。思わず下ろしてしまった瞼をゆっくりと持ち上げて、再び目線を合わせる。

 魔女は片眼に前髪がかかっており、近くで見ても片方の眼しか確認することが出来ない。

 なので確認できる方の眼をよく見て、それは素直に答えた。


「晴れた日のような、『空色』です」


「ふふ、嬉しいわ。それじゃあ、そのお空以外に何か見えるものはないかしら?」


 魔女の空色が少女の瞳に少しだけ近付く。

 少女は一瞬後ろに下がろうとした体を、ぐっと堪えてまじまじと見つめ返す。

 魔女の視界にも少女の琥珀色の瞳が綺麗に映る。


「ごめんなさい……わからないです」


「だと思ったわ。……それでは明日から新しい授業をしましょうか」


 そう告げた魔女は、なんとなくの気持ちで少女の頭に手を乗せる。

 瞳の色彩に負けず劣らずの美しい銀髪がそよ風になびく。


「私にわかるものなんでしょうか」


 頭に手を置かれた少女は、素直に言葉を吐く。それを聞いた師匠は「ふふ」と笑顔でいるだけ。

 魔女はいまだ少女の頭を撫でていた。何かある事に撫でられるその頭……少女は頭を撫でられるのが好きとか嫌いとか、そんなことは一切口にしてなかった、態度にも表さないでいた。

 自然と、少女は自分の眼を気にする。


 先程師匠から言われたこと、その者が望むことはなにか。眼を見れば分かる。


 もしや自分は魔女から頭を撫でられるという行為を望んでいたのだろうか、自然と『好き』という感情が瞳に映っていたのだろうか。

 だから魔女はことある事に頭を撫でてくるのか……


 そういうことなのかまだよく理解はしていないまま、少女の眼は三度(みたび)魔女の眼を捉える。


「あなたにとってこれは望まぬことではない。じゃないかしら?」


「!!」


 少女は告げられた言葉を脳内で繰り返した。


『望むこと』そうでなくとも『望まぬこと』をしないという選択肢もあるのだろうか……

 目の前の相手は少女が魔女と呼んでいる存在、それは少女だけでなくこの世界全ての存在からも『魔女』として認知されている存在。

 深い深い森の奥に静かに暮らしているとっても強い魔女。それは瞳など関係なく、もしかしたら本当に思っていること感じていることを簡単に読むことが出来るかもしれない。


 しかし少女は知っている。




 目の前で指に小鳥を乗せニコニコと遊んでいる魔女は、"人の考えを覗く"という行為が大っ嫌いである。

 それが身内であろうと敵であろうと。

 絶対的なパーソナルスペースを覗かれるなんてたまったものではない。と聞かされているが……


「さ、早く戻って夕ご飯にしましょう、今夜は料理向きの森キノコを使って……!」


 魔女はさっと立ち上がり小鳥とお別れすると、落ちかけの日に照らされたツリーハウスの中へと入っていった。

 撫でられることへの名残惜しさも儚げに、少女は魔女の後を追う。


 目前にあるのは少女が幼い頃から住んでいるツリーハウスへだ。

まだ語るには浅すぎます

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