蘇る鉄の剣
クロスは、錆びついた鉄の剣をなんとか再生できないかと考え、古文書を読み漁っていた。やがて一つの記述が目に留まる。
「朽ちた装備は、鉱石を用いれば鍛冶屋で修復できることがある」
その一文に望みを託し、鉄鉱石を二つと錆びた剣を手に、街の鍛冶屋を訪れる。
「こいつを直すには、あと鉄鉱石が三つ。それと手間賃が1,000Gってところだな」
鍛冶屋の親父が鼻を鳴らしてそう言った。だがクロスの手持ちは、わずか200G。持っているアイテムをすべて売っても、死人剣士の遺骨で100Gがいいところ。到底足りない。
「……奈落で稼ぐしかねぇな」
決意を固めてギルドに足を運び、掲示板を見つめていたところ、背後から声がかかる。
「クロスさん、奈落行くんやね?」
振り向くと、そこにはマリーの姿があった。
「ああ。鉄鉱石を探しがてら、金も稼ぎたいんだ。マリーも行くなら、一緒にどう?」
「あ、もちろん! こっちこそ、よろしゅうお願いします!」
他に仲間も見つからず、二人はすぐに依頼を選び、奈落へ向かうことになった。
…………
【死人剣士の遺骨を四つ納品】
報酬 600G
…………
「遺骨はひとつ持ってる。あと三つ集めればいいな」
「はよドロップしてくれたら、ええんやけどなぁ」
奈落へ向かう道すがら、クロスはマリーに話しかける。
「マリーはどうして奈落に?」
「うちの父は神父でな、村で病気が流行ってるんよ。なんとか治したくて頑張っとるんやけど……うちは、その手助けがしたいん。『百薬の水』っていう、どんな病にも効く水を探してるんよ」
「そうか……俺は、両親を探してる。生きてるかは分からないけどな」
「……それぞれ理由があるもんなぁ」
命を賭けて奈落に挑む者には、皆それぞれの理由がある。それが覚悟となり、深淵を踏破する力になるのだ。
【奈落 第一層 遺跡エリア】
今回は入口からモンスターの襲撃に見舞われたが、二人は落ち着いて撃退した。
「クロスさん、動きがキレてきたなぁ」
「マリーこそ、あのメイス強いな。回復も助かってる」
「いやいや、うちなんかまだまだやよ。クロスさんのフォローがあるからやし」
順調に死人剣士を倒していき、ついに目的の遺骨を手に入れる。
「よし、これで揃ったな」
道中、宝箱も見つかり、素材やアイテムもいくつか手に入れた。
街に戻ると、ギルドで報酬600Gを受け取り、二人は300Gずつ分け合った。アイテムの分配も済ませる。
「鉄鉱石、うちの分も持ってってええよ。剣、直したいんやろ?」
マリーが自分の分も差し出してきた。
「いいのか?」
「うん、大丈夫やよ(^^) それで剣が強うなるんやったら、うちもうれしいし」
クロスは感謝の意を込めて、残りのアイテムと100Gを彼女に渡す。
「これでフェアってことで」
「えっ、こんなにも……ありがとなぁ、クロスさん!」
信じるべきは、共に戦う仲間。クロスはそう感じていた。
だが、剣の修復に必要な鉄鉱石はあと一つ。金もまだ足りず、食費を考えれば休んでいる暇はない。
それからクロスは「二日潜って一日休む」生活を続けた。時にはジャンやマリーと再会しながら、少しずつ成果を積み上げ――
ついに鉄鉱石と1,750Gを揃えた。
「おっちゃん、頼むぜ!」
鍛冶屋に材料と費用を渡すと、親父は頷いた。
「任せな、明日の朝には仕上げてやる」
剣を預けたクロスは、その日は奈落を休み、久々に街でのんびりと過ごした。
《翌朝》
完成した剣を受け取った瞬間、クロスは歓声を上げた。
「やったぜ! ありがとう、おっちゃん!」
ギルドへ向かうと、マリーの姿があった。
「おはよう、マリー。今日も一緒に行くか?」
「おはようさん、クロスさん。うちは今日はちょっと奥まで行ってみようと思っててな、『百薬の水』に一歩でも近づきたいんよ」
「この剣の力を試したいからな。どこまでも付き合うよ」
そこへ、もう一人の声が加わる。
「私も行くわ。人食い草の体液が欲しくてね」
エリスが合流し、三人で奈落へと向かうことになった。
…………
【猫人間の牙を2つ納品】
報酬 600G
…………
三人は装備も整い、以前よりはるかに頼れる仲間となっていた。
【奈落 第一層 遺跡エリア】
エリアに入ってすぐ、アンデッドの襲撃に遭う。どうやら彼らはレベルに関係なく襲ってくるようだ。
続く道中、群れるゴブリンや魔力草を落とす冬虫夏草が立ちはだかる。
激しい戦いの中で、三人は息を合わせ、確実に敵を撃破。魔力草はエリスが丁寧に回収する。
一段落ついたところで、三人は小休止を取った。静けさの中、クロスは新たな剣を手に立ち上がる。
「さあ、もうひと踏ん張りだな」
深まる奈落の闇の中、三人の足取りは少しずつ、しかし確かに前へと進んでいく――。
キャラクター紹介 No.9
【鍛冶屋の親父】
サンライズシティの鍛冶屋を一人で営む職人。
無愛想でぶっきらぼうだが、その腕は一級品。特に鉄製の装備修復と強化においては、街一どころか、ギルドの幹部も密かに頼るほどの凄腕。
普段は渋い顔で「手間賃だ」と高額を吹っかけてくるが、マリーには何かと甘く、こっそり材料や手間を“サービス”しているらしい。彼女が店に来ると、なぜか声のトーンが1.2倍高くなり、笑みすら浮かぶ。
クロスは気づいていないが、今回の剣の修復費用も、実はかなり割引されていた。
「へっ……世話の焼けるガキどもだ。だが、道具に恥じる戦い方だけは、するなよ」