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奈落の果ての冒険譚  作者: 黒瀬雷牙
第九章 最終決戦編

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絶望の開戦

【奈落 第十層 神殿エリア】


 奈落の底。広大な神殿エリアには、冷たい石床と高くそびえる柱、漆黒の闇を纏った空間が広がる。光は届かず、瘴気が静かに漂い、時折遠くから響く低い唸りが神殿全体に反響する。


 六大将の残る三体


 懸念の蜘蛛・不安のシャスエティ

 怨恨の黒薔薇・恨みのグラージャ

 嫉妬の獣姫・妬みのジェラシア


 所在は不明。どこから襲いかかってくるかもわからない。だが、その緊張感が冒険者たちの覚悟をより一層引き締めた。


 神殿に立つのは、クロス、ジャン、マリー、エリス、フローレンス、アルガード、ヒルダ、イグニス、マチルダ、マーテルの十名。これまでの戦いで培った力と連携、そして心の強さを糧に、彼らは最終決戦の舞台へと一歩を踏み出す。


 石床に響く足音、瘴気に漂う冷たい空気、そして遠くで鳴る魔力の共鳴。すべてが、これから始まる戦いの前触れを告げている。


 冒険者たちは互いに視線を交わす。言葉は少なくとも、目に宿る決意は揺るがない。ここで、全員の力を合わせなければ、奈落の支配者たちに打ち勝つことはできない。


 広大な神殿エリアの奥深く、残る三体の六大将が、暗闇の中から彼らを待ち受ける。最終決戦、ついに幕を開ける。


 冒険者たちが神殿の中心に足を進めた瞬間、空気が変わった。瘴気が一層濃く垂れ込み、影が柱の隙間でうごめく。


「……ここか」


 クロスが低く呟く。だがその直後、視界の端で異変が起きた。


 蜘蛛の六大将、シャスエティの仕掛けた罠だった。石柱の影から突然、無数の影が冒険者たちを包む。光を遮り、足元を滑らせる幻影。まるで神殿全体が意志を持って動くかのようだ。


「くっ……分断されてる!?」


 ジャンが叫び、マリーは魔力を集中させるが、前後左右の仲間の姿が霧のように消えていた。


 その混乱の中、最大級の魔力を誇るグラージャが闇の中心に姿を現す。漆黒の瞳が光を反射し、口元に薄く笑みを浮かべた。


「よく来たな……貴様らの力、どこまで通用するか、見せてもらおうか」


 次の瞬間、グラージャの掌から無数の闇の魔弾が飛び出した。光速で宙を裂き、神殿全体に暗黒の雨が降り注ぐ。石柱や床を叩く衝撃音が反響し、霧のような闇が一瞬で視界を奪った。


「避けてっ!」


 フローレンスの声が轟く。剣を振りかざし、魔弾を斬り裂く。だが魔弾は瞬く間に数百にも膨れ、完全に防ぎきれるものではなかった。


 マチルダとマーテルは互いに距離を取り、魔法陣を描くことで闇の魔弾を分散させる。イグニスは風の矢を放ち、魔弾の軌道をわずかに逸らす。だが、分断された仲間たちは孤立し逃げ場を失っていく。


「くそ……これがシャスエティの作戦か……!」


 アルガードが唸る。蜘蛛のように神出鬼没、罠を仕掛け、仲間の連携を断つ。まさに狡猾な策略だ。


 神殿の闇の中、冒険者たちは個々の力を頼りに前進するしかなかった。分断された状態で、グラージャの闇の魔弾が迫る。最終決戦の幕は上がったばかりだが、すでに死の気配が冒険者たちを包む。



  過去、六大将のひとりであるペシミスティは、ただひとりムラサメとの対決で倒された。

 だがその勝利も決して安易ではなかった。ムラサメほどの剣士が、命と引き換えに妖刀を振るったのである。精神干渉を得意とするペシミスティに対して、心を極めたムラサメの剣技と意志が完璧に相性し、初めて倒すことができた…という特殊な条件が重なった結果にすぎなかった。


 リゼルグや手下の魔物がいたとは言え、奈落六大将のヘティリドやアンガレドを一体ずつ相手にしても、多くの仲間と犠牲を要した戦いであったのだから、今回のように精鋭十名で三体を同時に相手にすることの危険さは想像を絶する。


 冒険者たちは、冷たい石床の上で互いに視線を交わす。誰もが心の奥底で理解していた。ここで一歩間違えれば、誰1人として生還は不可能であると。


 分断され、闇の魔弾が無数に降り注ぐ神殿の中。

 これが、奈落最深部で彼らを待ち受ける、絶体絶命の死闘なのだ。


 闇の魔弾が神殿の石床を叩きつけ、粉塵と瘴気が舞い上がる。十名の冒険者は互いの位置を確認できず、孤立状態に追い込まれた。


「くっ……距離を保つしかないか」


 アルガードは重盾を構え、闇の魔弾を受け止めながら進む。盾を通して伝わる衝撃に、腕の感覚が徐々に痺れていく。


 一方、フローレンスは剣を握りしめ、魔弾を斬り裂きながら柱の影に身を隠す。振り向くたびに、別方向から新たな闇の魔弾が飛び込む。


「マリー、そっちの味方は無事か?」


 エリスの声が霧の向こうから響く。


「わからん……でも、止めなあかん!」


 マリーはメイスを回転させ、光魔法を纏わせて一連の魔弾を弾き飛ばす。


 神殿の奥深く、グラージャの漆黒の瞳が冒険者を追い詰める。闇の魔弾の嵐はまるで意思を持つかのように、十名を狙い撃ちにする。


 その瞬間、シャスエティが姿を現す。細身の身体を蜘蛛のように柱の間で翻し、幻影をさらに複雑に絡めて冒険者の動きを制限する。


「はぁ……これじゃ完全に分断されるわ……」


 ジャンは息を荒げ、孤立した状況で背後から迫る幻影を斬り払う。


 分断された仲間たちの体勢は徐々に崩れ始める。魔弾の衝撃で盾がひしゃげ、魔法陣の結界はひび割れ、風の矢は集中砲火の前にかすかな逸れを生むのみ。


 しかし、十名の冒険者はまだ諦めていない。互いの存在を信じ、分断された状態でも必死に生き残ろうとする意志が、暗闇の中で僅かな光となって輝く。


 最前線で踏みとどまるアルガード、魔弾を跳ね返すフローレンス、支援魔法で防御を補うマーテルとヒルダ、そして光と風を操るマリーとイグニス。


 絶体絶命の状況の中、冒険者たちは、まだ死を拒む。

――奈落最深部での戦いは、ここからが本番なのだ。

神殿エリアについて


今回の舞台「神殿エリア」は、奈落探索の最終地点にして、別名 “奈落の底” と呼ばれる場所です。

冷たく硬い石床、天を衝く柱、光を拒む漆黒の闇。

この地は侵入者を迎え入れるのではなく、圧し潰すために存在しているかのようです。

漂う瘴気は他階層より濃く、遠くから響く魔力の唸りが常に耳にまとわりつき、精神を削る。

過去、この地に辿り着いた冒険者は、長い奈落探索の歴史の中でただ一組。

それが、クロスの父・ジーク率いる伝説のパーティでした。しかし、彼らは神殿エリアで六大将と遭遇し、ムラサメを除いて全滅。

ムラサメは命からがら奈落からの生還を果たした唯一の人物となりました。


この事実が、“奈落の底”という名にさらなる重みを与えています。

今回、精鋭十名が挑むこの地で、過去の悲劇は繰り返されるのか、それとも新たな歴史が刻まれるのか――。

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