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奈落の果ての冒険譚  作者: 黒瀬雷牙
第八章 地獄の死闘編

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第九層踏破

【奈落 第九層 地獄エリア】


 クロスたちは、アルガードたちと共に第九層の最奥へと進んだ。そこに待つのは、奈落最後の魔法陣。


 来たばかりの頃、手も足も出なかったヘルハウンドたちは、今のクロスたちの力を前にして道を譲った。かつての敵も、今や進むべき道を開く存在に変わっていた。


 アビスオーガや獄龍を蹴散らしながら、パーティは進み、ついに最後の聖なる魔法陣へと辿り着く。

 その場で全員が深呼吸をひとつ。胸に覚悟を刻み、日を改めて、この奈落での最終決戦に挑む決意を固めたのだった。


【サンライズシティ】


 サンライズシティで一旦解散したクロスたち。

 だが、最終決戦を前に、誰もが再び歩みを止めるわけにはいかなかった――。


 クロスは両親を探す旅の果てに仇であるヘティリドを討った。しかし、それだけでは心は晴れない。最奥には、六大将に殺された両親の手がかりや、奈落の真実に触れられる最後の場所かもしれない…


 ジャンは、妹を救うために始めた冒険を超え、アルガードの背中を追う旅になった。最奥には、アルガードの戦いの極致、すなわち「真に強き者の証」が待つかもしれない。自身の成長のため、彼はその場所へ向かう。


 エリスは、奈落病や未知の病に対抗する薬の素材を求めていた。最奥には、奈落病の源泉や、希少素材が眠っている可能性がある――つまり、薬の完成に直結する。目的を果たすため、最奥へ向かう必要がある。


 マリーはキキモラ村の悲劇を繰り返さないために戦う。キキモラ村は救われたが、奈落の瘴気は消えない限り終わりはない。奈落の瘴気を断つには、最奥の根源の力を封じるしかないかもしれない。悲劇を繰り返さないために、彼女は足を止められない。


 フローレンスは父の仇、六大将討伐のために戦ってきた。最奥には残る六大将…決戦の舞台が待っている。父の遺志を継ぐため、最奥へ向かう覚悟は揺るがない。


 こうして、それぞれが自分の理屈を胸に、クロスたちは、最終決戦に挑む。


【奈落 第十層 神殿エリア】


 暗黒の玉座の間。重厚な闇に包まれた空間は、長きにわたり六大将の支配下にあった。


 玉座に座る不安のシャスエティは、闇に沈む瞳で何度も階層の奥を見つめていた。普段は冷静で計算高い彼だが、今は手にした杖を握る指に力が入らない。


「……もう、間もなくか……」


 冷たい吐息が闇に溶ける。情報によれば、第九層を突破した冒険者たちが、最終決戦の場である第十層の最奥へ向かっているらしい。


 数百年にわたって敗北を知らなかった自負が、今や不安と焦燥に変わる。あの短期間でヘティリド、アンガレド、そして虚淵のバロム――冒険者たちは次々と強敵を討ち、六大将の威厳を脅かした。


 シャスエティはゆっくりと立ち上がり、暗闇に向かって低く呟いた。


「……このままでは、我らも……」


 その肩を、恨みのグラージャが冷たい目で見据える。傍らには妬みのジェラシア。彼女は静かに舌打ちをした。


(…来るなら来い。だが、俺は()()()()()も用意している)


 シャスエティの胸中には、冒険者たちの到来がもたらす恐怖と、それに対抗する焦燥が入り混じる。これまで積み重ねてきた自信は、確実に揺らぎつつあった。


 彼の手が杖を握る力は、微かに震えている。

 暗黒の玉座の間に漂う重苦しい空気…それは、数百年の無敗が初めて揺らぐ瞬間の予兆だった。


【サンライズシティ クロスの家】


 夕暮れに染まる街路。冒険者たちは、最終決戦に向けてそれぞれの準備を整え、家を出ていた。


 クロスは、親代わりの叔母ジーナに見送られる。ジーナはいつもの穏やかな笑みを浮かべながらも、瞳の奥にはわずかな心配の色が宿っていた。


「……気をつけてね、クロス。あなたなら、きっと奈落の最奥にたどり着けるって、ずっと思っていたのよ」


 ジーナの声に、クロスは軽く頭を下げる。


「はい、ジーナ叔母さん……必ず、無事に戻ってきます」


 その背中を見つめながら、ジーナの頭の中には、かつての兄・ジークの姿が重なった。勇敢で優しい兄も、戦いの果てに奈落に挑んだことを思い出す。


「……クロス、あなたも兄さんみたいに、強くなるのね……」


 クロスはギルドの扉を押し開き、仲間たちの待つ冒険の道へ一歩を踏み出す。夕日に照らされた彼の影は、かつての兄ジークの影と、まるで重なるかのように揺れていた。


【サンライズシティ ジャンの家】


 ジャンは、妹マロンに見送られていた。マロンは18歳になり、大人びた落ち着きと責任感のある表情を見せている。それでも、兄を見送る瞳には心配と不安が滲む。


「兄さん……本当に行っちゃうの?」


 ジャンは微笑み、膝を少し曲げてマロンの目線に合わせる。


「うん。でも、必ず帰ってくる。絶対に約束するよ、マロン」


 マロンは小さく息をつき、目にわずかに涙をためながらうなずく。


「……わかった、気をつけてね」


 ジャンは妹をぎゅっと抱きしめ、そのぬくもりを胸に刻んだ。覚悟を胸に、奈落の最奥へ向かう一歩を踏み出す。


【サンライズシティ マギアドラッグ】


 エリスは、妹のミリスに見送られていた。成長したミリスは、落ち着いた雰囲気を漂わせつつも、姉への心配は隠せない。


「お姉ちゃん、無事に帰ってきてね」


 エリスは微笑み、優しく妹の肩に手を置く。


「もちろんよ。必ず戻るわ、ミリス」


 ミリスは小さくうなずき、目にうっすらと光るものをためながら、姉の手を握り返す。


「約束……ね」


 エリスは頷き、深呼吸をひとつしてから、薬草店の扉を背に奈落の最奥へ向けて歩き出す。妹の祈りを胸に、彼女は覚悟を固めていた。


【サンライズシティ とあるアパート】


 マリーは荷物を整え、メイスを背に背負いながら深呼吸をひとつする。鏡に映る自分の顔を見つめ、静かに声を出す。


「うち、行かなあかんねん。村のため、みんなのため……迷っとる場合やない」


 自分自身に言い聞かせるように、再度息を整え、足を前へ踏み出す。決意が胸に染み渡る。


【サンライズシティ フローレンスの部屋】


 フローレンスは剣を握り、父の遺影の前に立つ。静かに息を整え、深く頭を下げる。


「父さん、私はここで止まれない。残る六大将、必ず討つ…父さんの仇を、私の手で」


 遺影に映る父の顔を見つめながら、短く息を吐く。肩に剣を担ぎ、部屋の扉を開ける。最奥の戦いに向け、彼女は力強く一歩を踏み出した。


【サンライズシティ 冒険者ギルド】


 朝の光がギルドの大広間を満たす中、クロス、ジャン、エリス、マリー、フローレンスは揃って集まった。互いに短く頷き合い、静かな緊張が空間を支配する。


 クロスは叔母ジーナに見送られた余韻を胸に、拳を握りしめる。ジャンは妹マロンに「必ず帰る」と約束した言葉を思い出し、視線を前に据える。エリスはミリスの優しい笑顔を思い浮かべ、覚悟を固めた。


 マリーは自分自身に言い聞かせ、メイスを握る手に力を込める。フローレンスは父の遺影に誓った決意を心に刻み、剣の柄を確かめる。


 五人の目が互いに交わり、静かに戦意を共有する。長い旅路と数々の戦いを経た今、彼らは最終決戦の地へ向かうために、この場に集ったのだった。


 やがて、アルガードたちも集まり、いよいよ奈落第十層への出発の時が来る。


 目指すのは、奈落第十層。

 最後の戦いが待ち受けている。


ーーー 第八章 地獄の死闘編 完 ーーー

鏡花水月について


クロスが手にした「鏡花水月」。ただの刀ではない。呪いを祓い、月光のような清浄な力を宿す、最強クラスの妖刀だ。

刀は持ち主を選ぶ――その言葉通り、鏡花水月はクロスを選んだ。柄を握る手に吸い付くように馴染み、力と意思がひとつになる感覚は、冒険者としての成長と覚悟を象徴していた。

これまでの旅路で得た仲間との絆、過酷な戦いの果てに刻まれた経験、すべてがこの一振りの刀に宿る力となる。

鏡花水月は、ただの武器ではなく、クロス自身の象徴でもある。最終決戦に向かう彼の手元で、月光は静かに、しかし確かに輝きを増していく。


 ――さあ、冒険者たちの真の戦いが始まる。

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