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奈落の果ての冒険譚  作者: 黒瀬雷牙
第八章 地獄の死闘編

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最強の男と地獄巡り

 奈落第九層での壮絶な戦いを終え、冒険者たちは疲弊しつつも無事に生還した。

 戦線を切り開き、防壁を維持したマーテルとエリス、イグニスの援護、そしてアンガレドを討ち果たしたジャンたちの活躍は、全て街に伝わることとなる。


 サンライズシティに戻ると、街の人々は安堵と歓喜の声を上げた。

 アンガレド討伐の大吉報、そしてリゼルグが倒されたことで、長く苦しめられていたアルガードの呪いもついに解かれた。戦線に復帰した彼の姿に、仲間たちは目を潤ませながら微笑む。


「みんな…本当にありがとう…!」


 アルガードは静かに拳を握り、感謝と喜びを胸に刻む。


 今回の一連の大活躍により、ジャンはついに冒険者ランキング2位へと躍り出た。

 戦場での決定的な力と冷静な判断力は、多くの冒険者から称賛され、街の評判もまた大きく高まる。


「……俺もここまで来ましたよ、アルガードさん」


 ジャンは静かに斧を握り直し、仲間たちの笑顔を見渡す。激闘の末に得た平穏、そして仲間と共に歩む未来――

 その希望が、確かに戦士たちの胸に灯っていた。


【奈落 第九層 地獄エリア】 


 空気はさらに重く、足を踏み入れた瞬間から全身に圧迫感がのしかかる。

 復帰したアルガードが、クロス達を連れて慎重に進軍していく。


「ここから先は、簡単には進ませてくれないよ」


 低く言い放つアルガードの手には、蒼い光を放つ一本の槍、ロンギヌス。

 それは第九層で偶然手に入れたという、古代の神槍であった。


 その瞬間、岩陰から複数のヘルハウンドが飛び出す。炎の息を吐き、鋭い牙をむき出しにして迫るが…


「邪魔だ」


 アルガードが槍を一閃すると、青白い衝撃波が走り、群れをまとめて貫き倒した。

 さらに奥から現れたアビスオーガ、獄龍でさえ、彼の前ではひと突きで沈む。

 槍の性能も確かに異常だが、それ以上に、振るう本人の技量と膂力が桁違いだった。


「……武器のおかげさ」


 そう言って笑うが、クロスたちは心の中で(いや、絶対アルガードさんの腕力だろ…)と確信していた。


 戦闘の合間、古びた石の祭壇で宝箱を発見する。

 罠を解除し、ひとつずつ開けると――


 幻の金属 オリハルコン

 灼熱の剣 レヴァンティン

 天界の杖 アテナの錫杖


「これは……!」


 フローレンスがレヴァンティンを握り、その刃から溢れる炎を見て目を輝かせる。

 エリスはアテナの錫杖を手に取り、天界の加護を感じ取った。杖の先端からは澄んだ光が舞い、彼女の魔力を底上げする。


 二人は新たな力を得て、その場で軽く構えを試す。

 炎と光が交錯し、仲間たちの表情にも希望が差し込む。


「よし……この調子で奥まで行くぞ」


 アルガードがロンギヌスを肩に担ぎ、第九層の更なる深部へと歩みを進めた。


 第九層からの帰還。

 戦利品のオリハルコンやミスリルを抱えて、一行はサンライズシティへと戻った。

 長く張り詰めていた緊張がほどけ、街の空気がやけに心地よく感じられる。


「さて……これをどう加工するか、だな」


 クロスは手に入れたオリハルコンの塊を肩に担ぎ、マリーとともに鍛冶屋へ向かった。鍛冶屋の店先で、分厚い腕をしたオヤジが顔を上げる。


「おう、クロスじゃねえか。それと……マリーちゃんもいるじゃねえか!」


 その声色がほんの少しだけ甘くなるのを、クロスは見逃さなかった。カウンターにオリハルコンを置くと、オヤジはごつい指で叩き、金属の音を確かめる。


「……こいつを武器にするには、相応の加工がいる。普通なら100,000Gはかかるな」


「じゅ…じゅうまん……!?」


 クロスの額に汗がにじむ。だがその時、店の奥から顔を出した見習いの小僧が笑顔で口を挟んだ。


「親方、クロスさんは常連ですし、50,000Gでいいんじゃないですか?」


「ふむ……まぁ、そりゃそうだな」


 さらに小僧はマリーの方を向き、満面の笑みで言った。


「マリーちゃんは……10Gでいいよ」


「は……?」


 店内の空気が一瞬止まった。クロスは呆れた顔で、オヤジに視線を送る。


「悪いなクロス……俺達マリーちゃんの大ファンなんだ」


「……知ってたよ。かなり前から」


 こうして、ほぼタダ同然の加工費で作られたオリハルコンメイスは、マリーの手に渡った。黄金に輝く柄と、青白く光る打撃面。握った瞬間、全身に力がみなぎるような感覚が走る。


「……ありがとう、親方!」


 マリーが笑顔で礼を言うと、鍛冶屋のオヤジは鼻を赤くしながら「おうよ!」と応えた。


 こうして、ジャンはアストラル=レヴァント、

 マリーはオリハルコンメイス、

 エリスは天界の杖・アテナの錫杖、

 フローレンスは灼熱の剣・レヴァンティンを手に入れた。


 いずれも、奈落の最奥に挑むにふさわしい力を宿した至宝。

 その輝きは、これから待ち受ける深淵の戦いを予感させるように、静かに光を放っていた。



オリハルコンメイスについて


オリハルコン――古来より「神々の金属」と呼ばれ、地上では滅多にお目にかかれない幻の鉱物。

その強度はミスリルを凌ぎ、魔力伝導率も極めて高い。

鍛冶の達人でも加工は至難の業で、ほんの欠片でも国家予算に匹敵する価値を持つ。

マリーが手に入れたオリハルコンメイスは、素材の潜在力を極限まで引き出すため、熟練の鍛冶職人が何日も炉に張り付き、魔力と火力を絶妙なバランスで注ぎ込んで仕上げた逸品だ。

その一撃は、いかなる鎧も砕き、いかなる障壁も穿つ。

さらに魔法の増幅効果により、マリーの聖撃はこれまで以上に強烈な浄化の力を帯びることとなった。

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