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奈落の果ての冒険譚  作者: 黒瀬雷牙
第八章 地獄の死闘編

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怒りのアンガレド

 地獄エリアを進む冒険者一行の前に、巨大な影が立ちはだかった。


 奈落六大将・怒りのアンガレド。


 戦いの気配が一瞬にして空気を張り詰めさせる。


「待っていたぞ、冒険者ども…我が名は奈落六大将・怒りのアンガレド!ペシミスティに続き、ヘティリドまで失った俺の怒り、貴様らに刻み込んでくれるわ!!」


「来やがったな……!」


 クロスが剣を握り締める。


 しかし、戦闘開始の瞬間、悲鳴が響いた。

 堅牢な前衛として一行の盾となるガイアの頭部に、無数の死角から放たれた弾丸が直撃する。

 その場にガイアは倒れ、命はすでに尽きていた。


「ガイア……!」


 ダリウスが叫ぶ。仲間たちも一瞬、絶望に凍りつく。


 その瞬間、フローレンスの胸に熱い感情が駆け上がる。ガイアに告げられていた言葉、そして今失った命。


「……絶対に許さない!」


 彼女は剣を握り、狙撃手を探す。


 次の標的はイグニスだった。

 弾丸は精密な弧を描き、彼を襲う。だが、イグニスの目にはその軌道がすべて読めていた。絶対的なセンスで身を翻す。弾丸は空を切る。


 イグニスはすぐに敵の位置を割り出すと、矢を放った。しかし、その矢を悠然と避ける者の姿が現れる。

 ──リゼルグだ。


「やっぱり、あいつか……」


 イグニスは歯を食いしばり、敵を引き受ける覚悟を固める。


 その間に、アンガレドの咆哮が地獄エリア全体に轟く。その叫びに呼応するかのように、アビスオーガや獄龍たちが集まり、仲間を襲わんと動き出す。


「マーテル、エリス! そっち頼む!」


 クロスが声を張る。


 マーテルとエリスは俊敏に動き、次々に迫る化け物級の敵を引き受ける。残るメンバーは、アンガレド本体と真正面から対峙する形となった。


 そして、フローレンスはリゼルグに向かって真っ直ぐに剣を振りかざす。


 戦場は一気に混沌と化す──。


 地獄エリアの空気は鋭く裂け、アンガレドの咆哮がこだまする。その圧倒的な存在感に、クロスたちも一瞬息を呑む。


「皆、油断するな……確実に連携だ!」


 ヒルダが冷静に指示を出す。タイマンではヘティリドに全く歯が立たなかった彼女は、奈落六大将の強さを誰よりも理解していた。


 アンガレドは、一瞬の間を置くと、鬼炎を纏う拳を放った。


鬼炎万丈(きえんばんじょう)


 その一撃必殺の炎は、直撃すれば誰ひとりとして耐えられない。冒険者たちは即座に避け、直接受け止めることはできない。


「くっ……避けろ!」


 クロスが声を張る。続けざまに、アンガレドは足元から広範囲の火焔を巻き上げる。


四面楚火(しめんそか)


 辺り一帯が灼熱の炎に包まれ、魔法も剣も、直接受けることは不可能だった。だが、ヒルダは冷静に判断する。


「正面からは無理でも、連携で動きを封じる!」


 クロスが前に出て牽制し、ジャンが横から斬撃を入れて注意を分散。

 マリーが光魔法で動線を制御し、マチルダの範囲魔法で攻撃の起点をずらす。

 ダリウスは炎の届かない位置から鞭で牽制し突撃を支援。


 直接受け止めることはできなくても、6人の確実な連携でアンガレドの動きを制限することはできる。


 ヒルダの指示に従い、息の合った連携で次第にアンガレドを追い詰めていく冒険者たち。

 炎が燃え上がる地獄エリアの中で、彼らは全身全霊で攻撃を避けながら、確実に反撃のチャンスを窺う。


 ヒルダの指示で6人は小刻みに動き、互いの位置を意識しながらアンガレドを追い詰める。

 しかし、その機敏さがアンガレドの怒りに油を注いだ。


「ふん……動き回るばかりか……!」


 アンガレドの瞳が血走る。両手を高く掲げると、熱線が渦巻く。


呵責炎天(かしゃくえんてん)


 その熱線は空間を焼き尽くす勢いで、攻撃範囲は計り知れない。


「ダリウス、気を――!」


 叫ぶ間もなく、回避に遅れたダリウスの体を炎が包む。一瞬のうちに灰と化し、戦場にはただ熱風だけが残った。


 仲間たちは息を飲む。


「ダリウス……!」


 クロスの叫びが、地獄の炎にかき消される。ヒルダは冷静さを失わず、仲間に指示を飛ばす。


「まだ動ける! 一人の犠牲で怯むな! 次は連携でアンガレドを縛る!」


 小刻みに動く5人の戦いは、苛烈な攻撃の連続によってますます危険なものとなった。

 だが、アンガレドの怒りが強まるほど、彼らの連携は試され、次第に互いの動きが鋭く噛み合い始める。


 ジャンの斧が一閃する。──奥義、覇刃。

 その斬撃がアンガレドに直撃し、巨体を揺らす。


「……おお、懐かしい感覚だ!」


 アンガレドは斬撃を受けながら、高らかに笑った。脳裏に蘇るのは、かつて自分を苦しめた二人。


 アレクシオ=リオンドールと

 ギルバート=アルバトロス。


「また、あの時のように戦えるのか……!」


 怒りと快感が入り混じり、アンガレドの笑い声が戦場に響き渡る。


 ジャンはその笑顔を見て、はっきりと理解する。


 ──こいつが、父の仇だ。


 しかし、衝動のまま無鉄砲に突っ込んだ瞬間、アンガレドの前蹴りがジャンの腹に直撃する。体は宙を舞い、戦場の縁にある穴に向かって吹き飛ばされる。


「ぐ……っ!」


 ジャンの視界が天と地を逆転し、深淵の底へ落下していく。


「ジャン!!…クソッ!」


 アンガレドの前には、クロス・マリー・ヒルダ・マチルダの残り4人。

 火焔と怒号の嵐の中、仲間たちは決して視線を逸らさない。


ボスモンスター紹介 No.10

【怒りのアンガレド】

憤怒の赤鬼という異名を持つ、六大将の一角を担う武闘派の怪物。全身を覆う鎧のような筋肉と、戦闘のたびに増す殺気が特徴。

普段から短気で、特に仲間が倒された時の怒りは常軌を逸し、周囲の空気を焼き焦がすほどの魔力を発する。

理性よりも本能を優先し、勝つためなら己の肉体が砕けても構わないという危険な戦闘狂。

得意武器は己の拳と脚のみ。武器を持たずとも岩盤を粉砕し、鋼鉄を握り潰す圧倒的な膂力を誇る。

その戦い方は豪快にして苛烈、まさに“生きる暴風”の異名にふさわしい。

六大将の中でも突出した近接戦闘能力を持つが、激情が暴走すれば味方すら巻き込む欠点もある。

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