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奈落の果ての冒険譚  作者: 黒瀬雷牙
第一章 旅の始まり編
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レアモンスター

 クロスたちにとって、入り口付近はもはやただの通過点に過ぎなかった。モンスターたちも本能的に敵わないと悟っているのか、襲いかかるどころか、むしろ進路を開けてくる。


 熟練の冒険者たちは、進路を阻むモンスターを枝を払うように斬り捨てる。モンスターたちが避けるより、歩きながら一太刀くれてやる方が早いほどだ。時折アイテムが地面に転がっているのは、そうした流れで倒された残骸に過ぎない。


 だが、それほどの安全地帯にも落とし穴はある。実際、奈落で最も死者数が多いのは、他ならぬこの第一層なのだ。奈落を知らぬ新米冒険者や、軽い気持ちで足を踏み入れた観光者が、ろくな準備もせず命を落とす。襲ってくるのはモンスターだけではない。駆け出しを狙った盗賊や無法者もまた、この層には潜んでいる。


 実際、クロスも以前、入り口近くでジャンが盗賊と戦っている場面に出くわした。その場面に遭遇しなければ、油断して奥へ進み、モンスターの餌になっていたかもしれない。


 奥へと進むにつれて、モンスターの様子が変わってきた。彼らは明らかに戦う意志を見せている。つまり、クロスたちの力量なら勝てると踏んでいるのだ。


 突如、3体の死人剣士が目の前に現れた。無言で剣を振り上げ、襲いかかってくる。


「甘いです」


 フローレンスが素早く身を滑らせ、その剣撃を鋭く弾く。


「おらぁあッ!」


 ジャンがその隙を逃さず、斧を頭上から振り下ろす。バランスを崩した死人剣士の頭部は、音もなく真っ二つに割れた。現場作業で鍛えられた彼の筋力と重い鉄斧の相性は抜群だ。


「ウィンド!」


 エリスが風の魔法を唱える。鋭い風刃が残る2体に命中し、動きを鈍らせた。この世界では奈落誕生以降、魔法を使える者が産まれるようになり、限られた才能を持つ者のみが鍛錬の果てに使えるようになる。魔法使いは全人口の約1〜2割と言われている。


「行くぜ!」


 クロスが剣を横に薙ぎ払う。怯んだ2体をまとめて斬り伏せる。一連の連携は、このパーティでの初戦とは思えぬほど見事だった。倒した敵の遺骨をエリスが拾い上げ、4人は先へ進む。


 奈落は依然として薄暗く、視界を覆う霧のような空気は変わらない。だが、クロスは前回の探索で身に染みた教訓から、常に警戒を怠らなかった。


「エリス、こんな遺跡みたいなところに草が生えるのか?」


「生えてるわけじゃないのよ。このエリアにいる冬虫夏草ってモンスターがドロップするの。地上のそれとは違って、膝ほどの高さがあるわ」


 なるほど、とクロスは頷く。しばらく歩くと宝箱を発見、中には鉄鉱石が入っていた。


 奈落では手に入れた物資は原則として話し合いで分配される。しかし即席のパーティでは、こうしたアイテムを巡って争いに発展することもある。深層になれば命を懸けてでも奪いたくなるようなレアアイテムが存在するからだ。


 今回はエリスの依頼で探索に来ているため、目的の魔力草以外のアイテムは3人で分けることになっていた。分配は帰還後に行う予定で、エリスが管理を担っている。


 やがて、再び敵の気配が近づく。現れたのは死人剣士2体と冬虫夏草2体。先ほどと同じ種類でも、奥に進むほど個体の強さが増す。


 クロスが先手を打ち、死人剣士に斬りかかる。しかし今度は一撃で倒れない。すぐにフローレンスが追撃を入れるが、それでも仕留めきれない。


 もう一体の死人剣士がクロスへと向かい、2体の冬虫夏草がフローレンスに襲いかかる。


「くらえッ!」


 ジャンが背後から飛び出し、斧で死人剣士を一撃。斬られた体が爆ぜるように霧散し、遺骨だけを残した。ジャンの破壊力は桁違いだ。


「ウィンド!」


 エリスの風魔法が冬虫夏草2体を巻き込む。相性がいいのか、刃のような風がモンスターの体を引き裂き、2体同時に消滅。1つの魔力草がドロップした。


 最後の死人剣士の一撃をフローレンスが剣で弾き返し、クロスが刃を振るって止めを刺す。


 ジャンが草を拾い上げる。


「これが魔力草か?……くせえな」


 手にした草は不思議な形をしており、色合いも独特で、鼻を突く匂いがする。


「そうよ。すぐに手に入ってラッキーだったわ。さあ、戻りましょう!」


 エリスは気にした様子もなく、魔力草をポケットに収めた。


 だが、帰路を塞ぐように現れた影が、彼らの足を止める。装備は他のモンスターとは一線を画し、空気までも変える重圧を放っていた。


「……なんだあれ、ヤバそうだぞ」


「レアモンスターね。避けられないなら、やるしかないわ」


 クロスの記憶が書紀の知識を引き出す。奈落にはごく稀に出現するレアモンスターが存在し、次の層の敵に匹敵する強さを誇る。しかし、その分、倒せば必ず貴重なアイテムを落とす。


 その姿は、鎧と兜を纏い、剣と大盾を構えた屈強なアンデッド――レアモンスター「死人騎士」。


「強敵だ。力を合わせて、乗り越えよう!」


 クロスの声に、ジャン、エリス、フローレンスが頷く。4人の覚悟が、静かに重なった。

キャラクター紹介 No.7

【フローレンス=ギルクラウド】

赤髪をなびかせて剣を振るう、気品あふれる女騎士。

王国最強と謳われた伝説の騎士《ヴァンガード=ギルクラウド》の娘として知られ、その実力は折り紙付き。父譲りの武勇とプライドを胸に、仲間を守る盾となり、敵を斬る刃ともなる。

丁寧な言葉遣いと落ち着いた振る舞いからは想像もつかないほど、戦場では果敢で鋭い。奈落のモンスターすら斬撃一閃で黙らせ、仲間との連携を即興でこなす器用さも併せ持つ。

初対面ではどこか距離のある雰囲気を漂わせるが、根は義理堅く、信頼した仲間にはとことん尽くすタイプ。クロスたちとの冒険の中で、彼女の秘めた熱さと誇り高き騎士の魂が、少しずつ明らかになっていく。


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