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奈落の果ての冒険譚  作者: 黒瀬雷牙
第七章 憎悪の羅刹編

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第八層踏破

 激闘を終えた冒険者たちは、傷を癒しながら少しずつ立ち上がった。数日かけて拠点も立て直され、サンライズシティへの帰還の準備が整う。


 クロスたちは街に戻り、仲間たちの怪我もほとんど癒えていた。


「ふぅ……やっと一息つけるな」


 クロスは重い息をつき、肩の荷を下ろすように剣を傍らに置いた。


「クロス、大丈夫?無理してへん?」


 マリーが優しく声をかける。


「うん、大丈夫だ。でもアルガードさんはまだ……」


 クロスは心配そうに入院中のアルガードのことを思う。リゼルグの「カーズドバレット」による呪いのため、傷は未だ癒えない。


「あの呪い、術者を倒さなきゃ解除できへんのやな……」


 マリーが小さく呟く。


「クソッタレが…必ず仇は取る。俺が、あいつに倍返ししてやる」


 イグニスは拳を握りしめ、鋭い目で遠くを見つめる。


「私たちも、次の層に向けて準備しないとね」


 フローレンスが言い、仲間たちの表情を見渡す。


「まずは第八層を踏破だな!」


 ジャンも頷き、決意を示す。


 ちなみに、ヒルダ、イグニス、マチルダの三人はすでに第八層を踏破済みで、いつでも第九層に挑める状態にある。


 クロスは仲間たちの顔を見渡し、覚悟を固める。


「よし……なら、俺たちも第八層踏破を完了させて、第九層に備えよう。全員でな」


 吹雪の雪原で交わした激闘から数日。だが冒険はまだ終わらない。次なる戦いが、彼らを待ち受けていた。


【奈落 第八層 雪原エリア】


 クロス・ジャン・マリー・エリス・フローレンスに加え、ガイア・ダリウス・マーテルも加わり、八人のパーティは銀世界へと足を踏み入れた。吹きすさぶ冷たい風が、雪原に無数の結晶を描く。


「……冷てぇな」


 ジャンが肩をすくめ、息を白く吐く。


「気をつけや、雪で足元滑るで」

 マリーは慎重に進みながらも、どこか楽しげに声をかける。


 前方に、巨大な影がうねるように動いた。氷の巨人・グラシアルロードだ。身長は軽く十メートルを超え、氷の結晶が体表を覆い、全身から吹き出す冷気は周囲の雪を凍りつかせる。


「奴か……」


 クロスが剣を握り直す。雪原の地面に足を踏みしめ、仲間たちの位置を確認する。


「正面からの突破は難しい……攻撃の隙を狙うしかない」


 フローレンスが炎の剣に力を込め、氷の巨人を睨みつける。


 ガイアは大盾を前に構え、槍を高く掲げる。


「俺は盾で足止めする。奴の動きを封じる」


 ダリウスは長い鞭を自在に操り、巨人の足元や氷結した地面を攻撃範囲に入れる。


「氷に滑らされないよう、細かく距離を調整だ」


 マーテルは土魔法の結界を展開し、足元を固めつつ、雪嵐の勢いを弱める準備をする。


「地面を固める……それで僅かな隙を作れるわ」


「了解。俺たちはチャンスを見逃すな!」


 クロスが声を上げる。全員の動きが呼吸を合わせるように揃った。


 グラシアルロードがゆっくりと腕を振るうと、氷嵐が吹き荒れ、雪煙と氷の破片が舞い上がる。しかし、ガイアの盾が突風を受け止め、マーテルの土魔法が地面を固めることで、仲間たちはなんとか安定した姿勢を保った。


「よし、奴の左腕に隙ができた!ジャン、行け!」


 クロスの指示に、ジャンが素早く距離を詰め、氷の巨人の腕に向かって攻撃を繰り出す。


 氷の巨人は一撃を受けて咆哮し、体を振るう。だが、大盾で守るガイアと土魔法で支えるマーテル、鞭で翻弄するダリウスの連携により、仲間たちは致命的な一撃を避けられる。


「まだだ……一瞬の隙を見逃すな!」


 クロスが前に出る。雪原に反射する太陽の光が、彼の剣を青白く照らした。


 八人の連携が、氷の巨人に対抗する唯一の希望だ。雪嵐の中で光と影が交錯し、戦いの幕が静かに、しかし確実に開かれた。


 グラシアルロードは狡猾に氷嵐を操るが、ガイアの大盾が突風を受け止め、マーテルの土魔法が地面を固める。ダリウスの鞭が巨人の足元を攪乱し、クロスやジャン、フローレンス、マリーが攻撃の隙を逃さず叩く。


「ここだ、今のうちに!」


 クロスの号令で全員が集中攻撃を仕掛けると、氷の巨人は咆哮しつつも動きを制限される。


 雪嵐の中での攻防は激しかったが、八人の連携は完璧だった。巨人の一瞬の隙を見逃さず、各自の役割を完璧にこなす。攻撃は次々と命中し、氷の巨人は力尽き、雪原に崩れ落ちた。


 戦闘が終わった瞬間、パーティの誰一人として大きな傷を負わなかった。息を整えながら、クロスは仲間たちを見回す。


「……やれやれ、無事に踏破できたな」


「ふぅ……皆のおかげで無傷や」


 マリーが笑顔で肩をすくめる。


「これで第八層もクリア……か」


 フローレンスが静かに剣を握り直す。


「全員揃っての踏破だ。次もこの調子で行こう」


 クロスが仲間たちを見渡し、確かな信頼と覚悟を胸に刻む。


 吹雪の雪原に、八人の足跡だけが残った。無傷での踏破は、完璧な連携の証。


 一行は、第八層と第九層の間の安全地帯にて聖なる魔法陣に触れる。


 サンライズシティに帰ろうとした時、マリーが一言小さく呟いた。


「なぁ、この先どうなっとるんか、気にならんか?」


「…確かに」


 クロス達は少しだけ第九層をのぞいてみた。


【奈落 第九層 地獄エリア】


 肌を刺すような熱気が押し寄せた。

 雪原の白は、跡形もなく赤黒い岩肌と硫黄の臭気に塗り替えられる。

 天井からは赤い溶岩が滴り、地面には亀裂が走り、間欠泉のように炎が噴き出す。


「……まるで別世界やな」


 マリーが額の汗を拭いながら、視線を巡らせる。


「さっきまで極寒だったのにな」


 ジャンが不快そうに眉をしかめる。氷の息は、いまや熱風と硫黄に変わっていた。


 遠くで、低く唸る音が響いた。地面を伝ってくる振動は、まるで何か巨大なものがゆっくりと這いずり寄ってくるようだ。


「気を抜くな。ここは()()って呼ばれてる階層だ。何が出てもおかしくない」


 クロスは剣を抜き、周囲を警戒する。


 視界の奥、燃え盛る溶岩の裂け目から、ゆらゆらと黒い影が浮かび上がった。

 その影はやがて形を持ち、炎を纏った四足獣のような姿へと変わる。真紅の双眸が、侵入者たちを鋭く射抜いた。


「……あれは《ヘルハウンド》やな」


 マーテルが呟き、杖を握る手に力を込めた。


「試運転にはちょうどいいですね」


 フローレンスの炎の剣が、熱気に呼応するかのように揺らめく。


 次の瞬間、地面を割って飛び出したヘルハウンドが、真っ赤な炎の息を吐きかけてきた。

 ガイアの大盾が即座に前へ出て防御するも、衝撃と熱で盾の表面が赤く変色する。


「……っ、今ので盾の表面が溶けたぞ!?」


 ガイアが驚愕の声を上げる。


「はえぇな……!」


 ジャンが後方に飛び退く間もなく、獣の巨体が目の前を掠め、地面に爪を突き立てる。その衝撃で溶岩が飛び散り、熱風が全員を包んだ。


「この動き、雪原の巨人どころやない……!」


 マリーの額にも冷や汗が浮かぶ。


 クロスは一瞬、攻めに転じようと踏み込んだが、次の瞬間、獣の口から再び炎が奔った。

 その熱量は、先程よりもさらに強烈。盾で受けても、数秒持ちこたえられるかどうか怪しい。


「……撤退だ! 今の俺たちじゃ長く持たない!」


 クロスの即断に、全員が頷く。


 マーテルが急ぎ土壁を展開して炎の追撃を遮り、その隙に全員が魔法陣へと駆け込む。


 光に包まれ、視界が赤黒い地獄から白い拠点の石床へと切り替わった瞬間。誰もが息を荒げ、互いの無事を確認し合った。


「……あれは、本気で死ぬとこやったな」


 ジャンが苦笑混じりに呟く。


「せやな……第九層、洒落ならんわ」


 マリーの声も、珍しく震えていた。


「無理に進んでも全滅だ。力をつけてから、改めて挑もう」


 クロスが深く息を吐き、決意を新たにする。


 こうして第九層の洗礼を受けた一行は、次なる挑戦に備え、再びサンライズシティへと帰還するのだった。


ーーー 第七章 憎悪の羅刹編 完 ーーー

ボスモンスター紹介 No.9

【グラシアルロード】

第八層・雪原エリアに棲む巨人種のボスモンスター。

身長十メートルを超える巨大な体を氷の結晶が覆い、全身から凍てつく冷気を放つ。雪原の風景に同化し、遠くからでも存在感を放つ圧倒的な威圧感を誇る。

戦闘では氷嵐を操り、腕を振るうたびに周囲の雪を凍らせ、敵の足元を不安定にする。物理攻撃はもちろん、極寒の気候そのものを武器として活用できる。知能は高く、戦略的に動くため、正面突破だけでは倒すことが困難。

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