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奈落の果ての冒険譚  作者: 黒瀬雷牙
第七章 憎悪の羅刹編

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受け継がれる強さと絆の力

【奈落 第八層 クリスタルヴィレッジ 広場】


 クロスとヘティリドは互いに最後の力を振り絞り、一進一退の攻防を続ける。しかし、ヘティリドの方がまだまだ上手だった。


「終わりだ…これで死ね!!」


 黒く渦巻く瘴気の中、ヘティリドの不倶戴天拳がクロスに迫る。肩越しに伝わる圧力は、これまでのどの攻撃よりも凶悪で、避ける間もなく殺意が迫る。


 しかしその瞬間、倒れ伏す仲間たちの声が、戦場に響き渡った。



 かつて、奈落の入口で命を繋いでくれた初めての仲間――あのときも満身創痍で、絶望の淵に立たされていた。今、再び倒れながらも、揺るぎない力と信頼をクロスに託す。


「行け…クロス!」


 その声には、初めて出会った時の恐怖を乗り越え、共に歩んだ日々の重みが込められていた。誰よりもクロスの背中を押したいという想いが、雪原の戦場に強く響く。



 かつて、奈落で出会い、仲間を導いてくれた仲間ーーあのときも、危険な瘴気に包まれた村を救うため、誰よりも真っ先に身を挺した。今、倒れながらも、彼女の心に宿る強い意志と、クロスへの深い信頼が声となって雪原に響く。


「行け、クロス!」


 その一言には、彼女がずっと背負ってきた村と仲間たちへの想い、そして、静かに育んできたクロスへの信頼が凝縮されていた。光と祈りが、クロスの力を後押しする。



 四年前、冒険者ギルドで出会い、共に命をかけて奈落の冒険を重ねた――あの日の初対面の緊張、互いに支え合った経験が、胸に甦る。長い年月の中で、クロスをリーダーとして認め、信頼を寄せてきた。

 倒れながらも、エリスは叫ぶ。


「行け!クロス!!」


 その声には、初めて共に冒険したあの日からの思い、幾多の戦いを共にした絆、そして仲間を信じる揺るぎなき意思が込められていた。絶望の雪原に響く声は、クロスの背中を押し、全ての力を引き出す力となる。



 奈落第二層でタイラントワームに挑み、初めて自らの魔力と剣技を融合させ、仲間を守り抜いたあの日――その経験は、彼女の胸に深く刻まれている。父の名に縋るだけではなく、自らの力で道を切り拓く決意を抱き、炎のように燃える意志を知った瞬間でもあった。

 倒れながらもフローレンスは叫ぶ。


「行け、クロス!」


 その声には、仲間のために戦う強さ、自分を信じる力、そして何よりも、共に歩むクロスへの揺るぎない信頼が込められていた。絶望の中でも、炎の剣が心に灯った瞬間の決意が、クロスを支える光となる。



 仲間たちの思いが、クロスの全身を震わせる。胸の奥で、父ジークの声と光が重なり、雷の力が覚醒する。握りしめたブルーチタンの剣は、青白く光り、表面に細かい稲妻が踊る。


「――天雷断罪(てんらいだんざい)!」


 剣を振り抜くと、雷光と光の閃光が一瞬にして戦場を包み、黒い瘴気が裂け散る。ヘティリドの体に突き刺さった瞬間、爆発する雷光が全身を貫き、膝をついた六大将の瞳に、これまで見たことのない絶望が宿る。


 圧倒的な力を誇示していたヘティリドでさえ、仲間たちの想いと、父の力、そしてクロス自身の覚醒した雷の力には抗えなかった。


 吹雪の中で光と雷の奔流が渦巻き、瘴気は浄化されていく。クロスは全身を震わせながらも、剣を握り続ける。戦場には、勝利への希望と、仲間たちの絆が刻まれた。


 ヘティリドの体は、天雷断罪の衝撃で吹き飛ばされ、雪原に大の字で倒れ込む。その瞳はまだ冷徹な光をわずかに残すものの、戦意は完全に崩れ去った。


 クロスは荒れた呼吸を整え、倒れた仲間たちに目を向ける。マリー、ジャン、エリス、フローレンス――全員が傷つき、倒れている。しかし、彼らの想いが、クロスに力を与えたのだ。


「……これで、終わりだ。ヘティリド……俺は、もう誰も失わない」


 凍てつく雪原に、静かな勝利の光が差し込む。


 吹雪と雷光に包まれた戦場で、ヘティリドは意識が遠のくのを感じていた。長く孤高の六大将として恐怖を撒き散らし、誰も寄せつけぬ力を誇ってきた自分。しかし――その最後の瞬間、胸の奥に、初めて理解しきれぬ感情が芽生えた。


 クロス――彼の背には確かに力があった。父ジークの面影と、彼自身の意思が重なり、仲間の想いと共に光を放っていた。


(……俺には……わからぬ……仲間の力……人の受け継ぐ強さ……)


 己の孤独、誰にも頼らず、誰にも認められずに貫いてきた日々。それが自分を六大将たらしめ、恐怖の象徴として生き抜かせた。しかし今、クロスの姿に、自分が手にしたことのない力があることを見せつけられる。


(羨ましい…………誰かと共に、力を分かち合い、信頼される……)


 黒い瘴気を裂き、雷光に貫かれる体。抗えぬ力の奔流に、ヘティリドは己の孤独と、幼い頃には知ることのなかった“受け継がれる強さ”への羨望を噛みしめる。


(……俺は……孤独だけで……ここまで来た……だが……あいつは……人と共に……強くなる……)


 膝から力が抜け、冷徹な六大将としての威圧も薄れていく。その瞳の奥に、わずかに嫉妬と憧れが混ざった光が揺れた。


(……そうか……これが…………俺が知らなかった……力……)


 そして、黒い瘴気と吹雪の中、ヘティリドは静かに姿を消した。孤高の戦士としての歴史は終わるが、雪原に残ったのは、クロスという“次に受け継がれる強さ”を知った戦慄と羨望だけだった。

奈落六大将について(2)


ヘティリドを含む彼らは、悠久の時の中で積み重なった人々の負の感情から生まれた存在です。

怒り、憎しみ、悲しみ、妬み、恨み、不安――これらの感情が結晶し、形を取ったのが六大将であり、奈落に恐怖をもたらす力の源となりました。

彼らはただの敵ではなく、人の心に宿る負の感情の化身。だからこそ、クロスたちのように仲間と支え合い、信頼を結ぶ力こそが、六大将すら抗し得ない“本当の強さ”なのかもしれません。

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