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奈落の果ての冒険譚  作者: 黒瀬雷牙
第七章 憎悪の羅刹編

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クロスの覚醒

【奈落 第八層 クリスタルヴィレッジ 広場】


 黒い瘴気に包まれたヘティリドは、傷だらけの体でも圧倒的な力を誇示していた。クロスの属性を持たない剣撃はほとんど通じず、削ることしかできない。しかし、マリーの放つ光属性魔法は例外で、黒く渦巻く瘴気を切り裂き、ヘティリドの体に確かな痛みを与える。


 クロスは剣を振り、マリーは杖から光の魔力を解き放つ。二人の連携は戦局をわずかに押し返すものの、ヘティリドの攻撃力は圧倒的で、どれも致命の一撃。マリーの補助魔法がなければ、二人とも即死は避けられなかった。


 ――そして、ついに。


「不倶戴天拳!」


 父を葬ったヘティリドの拳が、クロスの肩をかすめ、膝をつかせる。痛みと衝撃に意識が揺らぎ、視界が白と黒に染まり始める。


 薄れゆく意識の中、クロスの目に映るのは…父、ジーク=ユグフォルティスの姿だった。


 ーーーー


「父さん……俺は……まだ、あきらめられない……」


 クロスの心の奥底で、光の中で父が微笑む。戦場の恐怖も、絶望も、一瞬だけ薄らいだ。


〈クロス…ユグフォルティスの血を引くお前の中には、俺と同じ力が眠っている。今こそ解き放て〉


「解き放て…って、何を?」


〈全てを破壊する、神の雷を…〉


 ーーーー


「トドメだ!」


「あかん!立つんや!クロス!!」


 覚醒したクロスはヘティリドの攻撃を紙一重で躱す。そしてそのまま、反撃の一撃を放った。


閃雷断光(せんらいだんこう)!」


 クロスの握るブルーチタンの剣は、青白く光る金属で、雷の力を帯びると表面に細かい稲妻が走る。振るうたびに雷光が閃き、暗黒の瘴気を切り裂き、暗い雪原を光で塗り替えた。


「バカめ、貴様の無属性攻撃など……っ!?」


 剣撃と共に放たれた閃雷断光は、黒い瘴気を裂き、ヘティリドの体を貫く。膝をついたヘティリドは吹雪の中に沈むように崩れ落ちる。その戦意は大きく揺らぎ、戦場はクロスの反撃の起点となった。


 クロスとマリーの連携により、ヘティリドは膝をつき、雪原に崩れ落ちる。傷だらけの体に黒い瘴気がまとわりつくが、その瞳にはまだ冷徹な光が宿っていた。


ーーーー


 何百年、負けたことはない。

 無敗の記憶が、血と瘴気の感覚とともに蘇る。戦いに臨む度、誰もが恐れ、屈したその圧倒的な力。だが今、目の前で輝く光は、己の支配できぬ力を示している。


 そして、六大将の一角である不安のシャスエティの顔が脳裏をよぎる。

 あれこれ指示を出し、俺を信用せず、戦場を疑いで覆う。奴の存在は常に不安の種だ。

 ここで負ければ、奴の言う通りだったことになる。俺の無敗の歴史も、憎悪も、全てが否定される。


 絶対に、負けるわけにはいかない。


ーーーー


 ヘティリドは体内に瘴気を集め、拳を握りしめる。胸の奥底から湧き上がる怒りと憎悪が、黒い瘴気と混ざり合い、凄まじい圧力を戦場に放つ。


「貴様ら…絶対に潰す!!」


 そして、その手から解き放たれたのは、奈落の名にふさわしい究極奥義。


黄泉滅裂(よみめつれつ)――っ!!」


 黒い瘴気が爆発し、吹雪を切り裂き、雪原全体を震わせる。絶望の衝撃が広がり、クロスとマリーを取り囲む。戦場には再び、死と憎悪だけが支配する。


 圧倒的な力を誇示するヘティリドの奥義「黄泉滅裂」が吹雪を切り裂き、雪原全体を震わせる。絶望の衝撃波は、クロスとマリーを直撃寸前まで追い詰めた。


 クロスの剣が一瞬止まる。全力でも、この奥義には抗えない。

 そう思われた瞬間、マリーは杖を高く掲げる。全身から光の魔力が迸り、限界を超えた力が爆発する。


「クロス、任せて……!」


 光の奥義、「ディバイン・ライトニング」が戦場に閃く。漆黒の瘴気と光がぶつかり合い、黄泉滅裂の衝撃波を完全に相殺する。眩い稲妻が吹雪を切り裂き、ヘティリドの奥義を押し返した。


 しかし、その代償はあまりにも大きい。全魔力を使い果たしたマリーは、その場に膝をつき、杖を握りしめたまま崩れ落ちる。


「マリー……!」


 クロスは叫ぶも、マリーの瞳にはまだ微笑みが残る。


「うち…みんな、守れたやろ……」


 光の余韻が残る戦場に、倒れたマリー。だがその光は、クロスに希望と力を託す灯となる。ヘティリドの圧倒的な力に立ち向かうための、最後の希望――光と雷の連携が、これから戦局を変えていく。


「ヘティリド……俺は、もう後ろを向かない!」


 黒い瘴気の渦の中、ヘティリドが笑う。


「無駄だ……お前など、俺の前では赤子同然だ!」


「そんなこと、もう言わせねぇ!」


 クロスは叫び、剣を振るう。 ヘティリドも拳を構え、二人の間に凄まじい圧力が立ち込める。雪煙が渦巻き、冷たい風が戦場を吹き荒らす。


「覚悟しろ、人間!」


「お前だけには…絶対に負けねぇ!」


 二人の視線がぶつかる。その瞬間、戦場は静止したかのように感じられる。まさに一触即発。


 クロスとヘティリド、命を賭けた戦いの幕が再び上がる。

クロスの覚醒について


雷を帯びた剣がヘティリドを追い詰めた一撃は、偶然ではなく、ユグフォルティス家に代々受け継がれる血の力によるものでした。

そのルーツは、遥か昔、神話の大陸にまでさかのぼります。古の伝承によれば、ユグフォルティス家は雷の神の血を引く家系であり、その力は極限の戦場でこそ真価を発揮すると言われています。世代を超えて積み重ねられた戦士たちの意志と信念が、血と魂の中に刻まれているのです。

クロスは父・ジークの想い、そして家系に脈打つ“雷の血”を覚醒させることで、初めてヘティリドに匹敵する力を引き出しました。単なる魔力や技の威力ではなく、家族の歴史、神話に刻まれた血筋そのものの強さが、彼の中に眠っていたのです。

そして、彼の剣が放つ光と雷は、ユグフォルティス家の伝説を新たに刻んでいくのです。

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