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奈落の果ての冒険譚  作者: 黒瀬雷牙
第七章 憎悪の羅刹編

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憎しみのヘティリド

【奈落 第八層 クリスタルヴィレッジ 広場】


 結界の割れ目から黒い影が滑り込み、魔獣たちが牙を剥く。クロス、ジャン、エリス、マリー、そして数名のベテラン冒険者たちは、一瞬の躊躇もなく反撃に転じた。剣と斧が振るわれ、風と氷が渦巻く。魔獣は次々と倒れ、雪煙が舞い上がる。


 だが、息を整える間もなく、戦場に冷たい瘴気が広がった。奈落六大将・憎悪のヘティリドが姿を現す。


 その瞳は獲物を捉え、近くにいたジャンに牙を剥いた。


(コイツ…やばい、なんてもんじゃねぇ!!)


 絶体絶命の状況で、ジャンは斧を握りしめるも、圧力に押され動きは鈍る。だが、風魔法を操るエリスが素早くジャンの横に立ち、竜巻と突風でヘティリドの動きを抑えた。


「ジャン!しっかり!!」


「エリス!わりぃ、助かった」


 二体一…いや、援護にベテラン冒険者も加わり、数対一の戦いが始まる。斧と剣が振るわれ、炎と雷が飛び交う。ヘティリドの黒い瘴気は凶悪だが、冒険者たちの連携でわずかに隙が生まれる。


 一方、戦場の後方ではクロスとマリーが死霊に対峙していた。ヘティリドの「怨憎会苦」により、冷気と腐敗臭を帯びた無数の死霊が現れ、仲間たちの足元を囲む。


 クロスは剣を高く掲げ、死霊の攻撃を受け流しながら前進する。マリーは杖を握り、回復魔法と攻撃魔法を交互に放ち、死霊を削っていく。


「マリー、後ろの奴らも任せたぞ!」


 クロスが声をかけ、マリーは微笑みながら答えた。


「任しときや、クロス。みんな無事に戻すんや」


 死霊が襲いかかる中、クロスとマリーは一歩も退かず、魔力と剣の連携で死霊を撃退する。雪原には光と闇が入り混じり、戦場の激しさはさらに増す。


 ベテラン冒険者たちもそれぞれ魔獣や死霊を相手に戦線を維持する。全員が命を賭して、クロスたちを支えていた。


 広場の雪は血と瘴気に染まり、ジャンとエリス、そしてベテラン冒険者達による数体一の戦い、クロスとマリーによる死霊処理、そしてベテランたちの援護が入り乱れる。戦況は依然として絶望的だが、全員の意志は揺るがない。


 戦況は混沌を極める。ジャンとエリス、ベテラン冒険者たちが必死にヘティリドの攻撃を受け止める中、クロスとマリーは死霊の処理を続けた。


 だが、ヘティリドの圧倒的な力の前では、誰もが徐々に疲弊し、動きが鈍る。


 その瞬間、雪煙の中から三人のベテラン冒険者・ガルド、リィナ、セラフィナが立ち上がる。ボロボロの体に傷を負いながらも、三人は戦場の死角からヘティリドを狙い、後方から奇襲を仕掛ける。


「隙だらけだぜ、クソ野郎!」


 炎の大剣が瘴気を切り裂き、白鷹の矢が黒い影を貫き、氷紋魔法が瘴気の動きを封じる。ヘティリドは一瞬たじろぎ、身体に確かな痛みが走る。


「ぐ…この死に損ないどもが…!!」


 その隙を見逃さず、ジャンと他のベテラン冒険者たちが猛攻を仕掛ける。斧や剣が叩き込み、竜巻と雷が追撃する。クロスの剣も死霊を払いのけつつ前進し、戦場全体が嵐のような攻撃に包まれる。


「これで…倒れやがれー!!」


 最後に、ジャンの覇刃が炸裂する。漆黒の瘴気を切り裂き、ヘティリドの体に大ダメージを刻み込む。


(この技は…アレクシオの…!)


 しかし、その強烈な一撃も、六大将の体を完全には貫けなかった。


(…だが、まだ未熟…!)


 ヘティリドは漆黒の瘴気を纏い、冷酷な笑みを浮かべる。怒りと憎悪を全身に込め、周囲の冒険者たちを一掃する奥義…


「調子に乗るなよ人間ども…終焉遊戯(しゅうえんゆうぎ)!!」


 憎しみの名を関するヘティリドは、ダメージを受けるほどより強大な憎しみを糧に、強くなる。黒い瘴気の衝撃波が雪原を覆い尽くし、ガルド、リィナ、セラフィナは抵抗も叶わず絶命。ジャンとエリス、そして近くにいたベテラン達も戦闘不能の重傷を負い、雪に倒れ込む。


 だが、その沈黙を破るかのように、死霊を払いのけたクロスとマリーが立ち上がる。冷たい風に吹かれ、雪に染まった戦場を見据え、二人は互いに息を整える。


 その視線の先には、漆黒の瘴気に包まれ、勝ち誇ったように立つヘティリドの姿。冷酷な笑みを浮かべ、雪と死の匂いに染まった広場を見下ろしている。


「…ふふ、まるでジークの生き写しだな」


 ヘティリドの声が戦場に冷たく響く。


「父さんの仇と、ムラサメさんの想い…俺が必ず、おまえを倒す」


 クロスは剣を握りしめ、決意を声に乗せる。


「やれるものなら、やってみろ。小僧!」


 ヘティリドは挑発するように声を上げる。


 雪煙と瘴気が舞う広場で、二人は互いににらみ合う。刹那の沈黙の中、緊張が張り詰め、全てが一触即発の状態となる。


 冷たい風が吹き抜け、血と瘴気の匂いが鼻を突く。死と絶望を背負った二人の戦いの火蓋は、今まさに切って落とされようとしていた——。


奈落六大将について(1)


奈落六大将…その名は恐怖と絶望の象徴であり、数百年もの長きにわたり、誰一人として勝利を収めた者はいませんでした。四年前、ムラサメが悲しみのペシミスティを討ち倒すまでは、その無敗の歴史は揺るぎないものでした。しかし、長きにわたる戦いの中で、冒険者たちは力を磨き、命をつなぎ、戦いの連鎖を積み重ねてきました。そして今、クロスやジャン、エリス、マリー、さらにクリスタルヴィレッジを護るベテランたちの力が、その歴史の積み重ねと重なり合い、ついに六大将に匹敵する戦いの火花を戦場に散らそうとしております。

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