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奈落の果ての冒険譚  作者: 黒瀬雷牙
第七章 憎悪の羅刹編

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3対1の戦い

【奈落 第八層 クリスタルヴィレッジ 広場】


 雪に覆われた広場に、割られた結界から黒い影が滑り込む。魔獣たちが牙を剥き、仲間たちに襲いかかる。


「来るぞ!」


 クロスは剣を高く掲げ、ジャンは巨大な斧を振り回す。風魔法を操るエリスは、氷の竜巻で魔獣の動きを制御する。三人はベテラン冒険者たちと呼吸を合わせ、雪煙と魔力が渦巻く戦場を駆け抜けた。


 魔獣たちは次々と倒れていくが、数は尽きず、絶え間なく迫る。後衛に回った白魔道士マリーは、回復魔法で仲間たちを支えながら、路地裏を注意深く見回す。


 そのとき、雪に埋もれ、血を流して倒れている仲間の姿が目に入った。


「フローレンス……!」


 マリーは駆け寄り、慎重に彼女を抱き起こす。冷たい雪の中で震えるフローレンスの額に手を当て、回復魔法を施す。魔力の光がゆっくりと温かさを取り戻させ、彼女は弱々しく目を開けた。


「……マリー……」


 フローレンスの声はかすれ、体はまだ力なく震えている。マリーは安心させるように微笑み、静かに頷いた。


「大丈夫や、無理せんと……すぐ治したるから」


 回復を終えたマリーは、フローレンスを安全な場所へ運びつつ、雪原の戦場へ戻る準備を整える。


【奈落 第八層 クリスタルヴィレッジ 暗がりの広間】


 一方、広場の奥では、ヘティリドが漆黒の瘴気を纏い、冷酷な瞳で戦場を見下ろす。彼を迎え撃つのは、三人のベテラン冒険者——


 炎の大剣を操るガルド

 白鷹射手リィナ

 氷紋魔女セラフィナ


 ヘティリドの瘴気の刃が振るわれる。衝撃波が雪原を蹴散らし、雪煙と黒煙が戦場を覆う。


「面白い……貴様ら、私を止められるか」


 ガルドは炎の大剣を前に構え、剣先から炎を迸らせる。瘴気を焼き払い、衝撃を相殺する。


 リィナは冷静に矢を連射、狙いを正確に絞る。矢は瘴気を貫き、ヘティリドの動きを一瞬止める。


 セラフィナは氷紋を描き、瘴気を凍結させて動きを制御。雪原に薄く張った氷の壁が、黒い刃の軌道を切り裂く。


 三人の連携は完璧に近い。しかし、ヘティリドの攻撃は凶悪で、範囲瘴気や衝撃波で圧力をかけ、絶え間なく彼らを追い詰める。


 ガルドは大剣で防ぎ、リィナは精密射撃で牽制、セラフィナは氷魔法で戦場を制御する。


 ヘティリドは一瞬の隙も与えず、黒い瘴気の拳を振るう。三人は協力して凌ぐものの、戦況は一進一退。雪原に光と影、炎と氷、瘴気と鋼が混ざり、戦場は激烈を極める。


 3対1という不利を悟ったヘティリドは、口元に冷ややかな笑みを浮かべた。


「ふはは……そう甘くはあるまい」


 彼の手が不穏に空気を切る。黒い瘴気が集まり、地面を這うように渦巻く。


怨憎会苦(おんぞうえく)


 闇の魔法が発動され、ヘティリドの背後に無数の死霊が現れた。氷のような冷気と腐敗臭を帯びた死霊たちは、ベテランたちの足元を囲み、戦線を瞬く間に攪乱する。


「くっ……!」


 ガルドは死霊を斬り払おうとするも、数に圧され攻撃が分散する。


 その隙を逃さず、ヘティリドは拳を振り下ろす。


「不倶戴天拳!!」


 漆黒の瘴気が拳に集約され、ガルドの胸を真っ直ぐに貫く。衝撃で彼は後方へ吹き飛び、白い吐息が凍てつく冷気と共に消えていった。


 残されたリィナとセラフィナも、警戒を強める。だがヘティリドは手を翳し、瘴気を集めた技を放つ。


冥界裂断(めいかいれつだん)


 黒い瘴気が両腕から衝撃波のように放たれ、前方の空間を切り裂く。死霊の加護と瘴気の衝撃により、リィナとセラフィナはそれぞれ矢や呪文を放つ間もなく吹き飛ばされ、雪煙の中に姿を消した。


 戦場は瞬く間に、ヘティリドの暗黒の領域となった。荒れた雪原に、黒く渦巻く瘴気と怨霊の呻きだけが残る。


「なんだ? この程度か……」


 冷笑を浮かべながらベテラン三人を見下ろすヘティリド。


「先程の女剣士といい、冒険者は弱くなったな」


 その言葉と共に、かつて自身が認めた、たった二人の真の強者の姿が脳裏をよぎる。

 ジーク=ユグフォルティス。奈落誕生から数百年の歴史の中、唯一奈落の底に辿り着いたパーティのリーダー。

 アレクシオ=リオンドール。たった一人で六大将を壊滅寸前まで追い込んだ、歴代最強の冒険者。


 弱さを確認した今、残る冒険者を片付けるべく、ヘティリドは魔物と戦う広場へ、冷徹な足取りで歩を進めた。


 歩みを進めるヘティリドの胸に、広場の空気から懐かしい気配が流れ込む。

 視界に入ったクロス…その佇まいを一目見ただけで、ジークの息子であることを確信した。

 さらに肩を並べる仲間、ジャンの存在。かつてジークのパーティにいたギルバート=アルバトロスの血筋、そしてアレクシオの弟子エルドの孫でもあるジャンの斧さばき。その腕には、かつて自らが苦しめられた強敵たちの影が重なった。


 血脈と師弟のバトン。ジークとアレクシオが繋いだ命の軌跡を目の当たりにしたヘティリドの心は、戦慄と歓喜で満たされる。

 だが同時に、憎悪が牙をむく。この命の連鎖をここで断たねば、次に立ちはだかる時には、自分にとって真の脅威になるのだと、彼は痛烈に理解していた。

キャラクター紹介 No.42

【クリスタルヴィレッジのベテラン冒険者達】

クリスタルヴィレッジを護るベテラン冒険者たちの実力と経験は折り紙つきだ。剣や斧、弓、魔法といった技を自在に操り、雪に覆われた広場で魔獣や死霊の猛攻を受け止める。

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