表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奈落の果ての冒険譚  作者: 黒瀬雷牙
第七章 憎悪の羅刹編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/89

最強戦力の離脱

【奈落 第八層 クリスタルヴィレッジ 広場】


 雪に覆われた広場は、死霊との戦いで荒れ果て、焦げた匂いと血の匂いが混ざっていた。

 吹雪の向こう、倒れた仲間の胸には黒い弾丸が深く突き刺さっている。


「……リゼルグ」


 アルガードは低く呟いた。その瞳は、獲物を逃さない猛禽のように鋭く光っていた。


 次の瞬間、耳を裂く銃声が響く。アルガードは地面を蹴って身を翻し、弾丸を紙一重で避ける。雪煙の中、銃口の閃光がわずかに見えた。


「位置は……あそこだ!」


 瞬時に雪を蹴り、低い姿勢で広場の端へ走る。

 だが、再び銃声。弾丸は石壁を砕き、破片が頬をかすめた。

 リゼルグは巧みに位置を変えながら狙撃を続けている。


「動きが読めるか……試してみるとしよう」


 アルガードは雪玉ほどの氷片を手に取り、わざと別方向へ投げた。弾丸が氷片を撃ち抜く音が響く。その一瞬で敵の居場所を確定した。


 槍を握り直し、雪を切り裂くように突進するアルガード。


【奈落 第八層 廃屋の屋根上】


 リゼルグは黒いコートを翻しながら冷笑した。


「やはりお前は面白い……真っ直ぐに来るとは」


 銃口が再び光る。だがアルガードは雪上を転がり、狙撃線を外すと同時に屋根へ飛びついた。


 槍の切っ先がリゼルグのコートを裂く。


「速いな……だが、まだ甘い!」


 至近距離で銃が火を噴く。衝撃でアルガードの肩が弾かれ、鮮血が舞う。それでも槍を止めはしない。


「……これで終わりだ!」


 渾身の一閃が銃身を斬り飛ばす。リゼルグは即座に短剣を抜き反撃するが、アルガードはその腕を掴み、雪の上に叩きつけた。


 白い吐息が夜の冷気に溶ける。


 冷たい夜風が吹き抜ける中、リゼルグの黒いコートがはためく。彼の手に握られた銃・灰燼ノ眼(カタストロファ)がかすかに妖しく輝いた。


「これが最後の一撃だ」


 狙い定めたリゼルグは、魔力を込めた一発の弾丸を放つ。


「カーズドバレット」


 呪われた弾丸は空間の歪みを作り出し、通常の遮蔽も魔法も貫通する。


 弾丸は鋭く飛び、アルガードの左肩を貫いた。凍てつく痛みと鋭い鈍痛が体を貫き、魔法の治癒も拒絶された。


「ぐっ……この……!」


 血が勢いよく噴き出し、アルガードはよろめく。だがその瞳は揺るがなかった。


「ここで……倒れるわけにはいかん」


 血に濡れた槍を握りしめ、激しい怒気を放つ。気迫で追い詰めるアルガードに対し、リゼルグは冷酷な微笑みを浮かべた。


「お前の力は認める。しかし、ここまでだ」


 リゼルグの姿が煙のように揺らぎ、ふっと消えた。


 アルガードは荒い息をつきながら周囲を見回した。

 血の流れは止まらず、傷は深刻だ。


「……無理はできん」


 遠くで仲間の声が響く中、彼は力尽きる前に退く決断を下した。

 最強戦力の戦線離脱…だが、このアルガードがここで死ぬわけがない。


【奈落 第八層 クリスタルヴィレッジ 暗がりの広間】


 ヒルダの剣が黒い瘴気の刃を受け止める。鋭い衝撃が手首を揺さぶり、彼女は一歩後退した。


「まだ終わらせんぞ……!」


 冷たい息が白く空間を揺らす中、ヒルダは鋭い目でヘティリドを睨む。彼の瞳は憎悪の炎に焼かれ、まるで死神のように冷酷だった。


「ふはははは……お前の全てを奪い尽くしてやる」


 ヘティリドの瘴気が激しく蠢き、空気が歪む。ヒルダは全力で剣を振るい、一撃を放つが、ヘティリドは容易く避けた。


「甘い……その程度で、俺には届かん」


 ヘティリドが反撃の刃を振り下ろす。瘴気が渦巻く一撃は、ヒルダの防御を引き裂き、胸を深く裂いた。


「ぐっ……!」


 ヒルダは膝をつき、血を吐きながらも、なお剣を構える。しかし、その動きは鈍り、目には疲労と痛みが滲んでいた。


「お前の力は……その程度か……」


 ヘティリドは冷酷な微笑を浮かべ、さらに瘴気を集める。


「終わりにしよう……ヒルダ」


 しかし、ヒルダは震える手で剣を握り直した。


「まだ……終わらん……」


 その声はかすれていたが、消えそうな灯火のように強く輝いていた。


 ヘティリドの瞳が冷酷に輝いた。


「お望み通り、殺してやる」


 その刹那、彼の拳から禍々しい黒い瘴気が噴き出した。拳を震わせ放たれた必殺技——


不倶戴天拳(ふぐたいてんけん)


 強烈な拳撃が、ヒルダの全身を貫かんと轟音を立てて襲いかかる。


 ヒルダは剣で懸命に防ごうとしたが、瘴気の力に押し込まれ、衝撃で膝から崩れ落ちた。


「ぐっ……!」


 だが、その絶体絶命の瞬間、闇を裂くような鋭い声が響く。


「そこまでだ!」


 炎の大剣を携えたガルドが疾走し、巨大な一閃を放つと、不倶戴天拳の瘴気が断ち切られた。


 続いて、白鷹射手リィナの冷静な矢がヘティリドの瘴気の中に放たれ、命中する。


 さらに、氷紋魔女セラフィナが呪文を唱え、瘴気を凍てつかせて霧散させた。


 三人の連携により、ヒルダはその場に崩れ落ち、救われる。ガルドがヒルダの肩に手を置き、静かに言った。


「もう大丈夫だ。あとは俺たちに任せろ」


 ヒルダはかすかに頷き、血の滲む剣をゆっくりと収める。


「……ありがとう。私は……戦線を離脱する」


 深い呼吸を繰り返しながら、ヒルダは戦場の暗がりから離れていった。


 ヘティリドは鋭い眼差しで三人を見据え、再び戦意を漲らせる。


「なるほど、ではお望み通り…貴様らからまとめて葬ってやる!」


 戦いは、ヘティリド対ベテラン三人の激闘へと突入した。

キャラクター紹介 No.41

【氷紋魔女 セラフィナ】

氷紋魔女ひょうもんまじょ」の異名を持つ魔法使い、セラフィナ。

冷静沈着で、戦況を的確に判断しながら戦うベテランの魔導士だ。

彼女の氷の魔法は、敵の動きを封じ、味方を守る防御と攻撃の両面で大きな力を発揮する。

結界の維持も彼女の重要な役割の一つであり、村の安全を守る要となっている。

普段は穏やかな微笑みを絶やさず、仲間思いの優しさも秘めているが、戦場では一変し、冷徹な魔女の顔を見せる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ