最強戦力の離脱
【奈落 第八層 クリスタルヴィレッジ 広場】
雪に覆われた広場は、死霊との戦いで荒れ果て、焦げた匂いと血の匂いが混ざっていた。
吹雪の向こう、倒れた仲間の胸には黒い弾丸が深く突き刺さっている。
「……リゼルグ」
アルガードは低く呟いた。その瞳は、獲物を逃さない猛禽のように鋭く光っていた。
次の瞬間、耳を裂く銃声が響く。アルガードは地面を蹴って身を翻し、弾丸を紙一重で避ける。雪煙の中、銃口の閃光がわずかに見えた。
「位置は……あそこだ!」
瞬時に雪を蹴り、低い姿勢で広場の端へ走る。
だが、再び銃声。弾丸は石壁を砕き、破片が頬をかすめた。
リゼルグは巧みに位置を変えながら狙撃を続けている。
「動きが読めるか……試してみるとしよう」
アルガードは雪玉ほどの氷片を手に取り、わざと別方向へ投げた。弾丸が氷片を撃ち抜く音が響く。その一瞬で敵の居場所を確定した。
槍を握り直し、雪を切り裂くように突進するアルガード。
【奈落 第八層 廃屋の屋根上】
リゼルグは黒いコートを翻しながら冷笑した。
「やはりお前は面白い……真っ直ぐに来るとは」
銃口が再び光る。だがアルガードは雪上を転がり、狙撃線を外すと同時に屋根へ飛びついた。
槍の切っ先がリゼルグのコートを裂く。
「速いな……だが、まだ甘い!」
至近距離で銃が火を噴く。衝撃でアルガードの肩が弾かれ、鮮血が舞う。それでも槍を止めはしない。
「……これで終わりだ!」
渾身の一閃が銃身を斬り飛ばす。リゼルグは即座に短剣を抜き反撃するが、アルガードはその腕を掴み、雪の上に叩きつけた。
白い吐息が夜の冷気に溶ける。
冷たい夜風が吹き抜ける中、リゼルグの黒いコートがはためく。彼の手に握られた銃・灰燼ノ眼がかすかに妖しく輝いた。
「これが最後の一撃だ」
狙い定めたリゼルグは、魔力を込めた一発の弾丸を放つ。
「カーズドバレット」
呪われた弾丸は空間の歪みを作り出し、通常の遮蔽も魔法も貫通する。
弾丸は鋭く飛び、アルガードの左肩を貫いた。凍てつく痛みと鋭い鈍痛が体を貫き、魔法の治癒も拒絶された。
「ぐっ……この……!」
血が勢いよく噴き出し、アルガードはよろめく。だがその瞳は揺るがなかった。
「ここで……倒れるわけにはいかん」
血に濡れた槍を握りしめ、激しい怒気を放つ。気迫で追い詰めるアルガードに対し、リゼルグは冷酷な微笑みを浮かべた。
「お前の力は認める。しかし、ここまでだ」
リゼルグの姿が煙のように揺らぎ、ふっと消えた。
アルガードは荒い息をつきながら周囲を見回した。
血の流れは止まらず、傷は深刻だ。
「……無理はできん」
遠くで仲間の声が響く中、彼は力尽きる前に退く決断を下した。
最強戦力の戦線離脱…だが、このアルガードがここで死ぬわけがない。
【奈落 第八層 クリスタルヴィレッジ 暗がりの広間】
ヒルダの剣が黒い瘴気の刃を受け止める。鋭い衝撃が手首を揺さぶり、彼女は一歩後退した。
「まだ終わらせんぞ……!」
冷たい息が白く空間を揺らす中、ヒルダは鋭い目でヘティリドを睨む。彼の瞳は憎悪の炎に焼かれ、まるで死神のように冷酷だった。
「ふはははは……お前の全てを奪い尽くしてやる」
ヘティリドの瘴気が激しく蠢き、空気が歪む。ヒルダは全力で剣を振るい、一撃を放つが、ヘティリドは容易く避けた。
「甘い……その程度で、俺には届かん」
ヘティリドが反撃の刃を振り下ろす。瘴気が渦巻く一撃は、ヒルダの防御を引き裂き、胸を深く裂いた。
「ぐっ……!」
ヒルダは膝をつき、血を吐きながらも、なお剣を構える。しかし、その動きは鈍り、目には疲労と痛みが滲んでいた。
「お前の力は……その程度か……」
ヘティリドは冷酷な微笑を浮かべ、さらに瘴気を集める。
「終わりにしよう……ヒルダ」
しかし、ヒルダは震える手で剣を握り直した。
「まだ……終わらん……」
その声はかすれていたが、消えそうな灯火のように強く輝いていた。
ヘティリドの瞳が冷酷に輝いた。
「お望み通り、殺してやる」
その刹那、彼の拳から禍々しい黒い瘴気が噴き出した。拳を震わせ放たれた必殺技——
「不倶戴天拳」
強烈な拳撃が、ヒルダの全身を貫かんと轟音を立てて襲いかかる。
ヒルダは剣で懸命に防ごうとしたが、瘴気の力に押し込まれ、衝撃で膝から崩れ落ちた。
「ぐっ……!」
だが、その絶体絶命の瞬間、闇を裂くような鋭い声が響く。
「そこまでだ!」
炎の大剣を携えたガルドが疾走し、巨大な一閃を放つと、不倶戴天拳の瘴気が断ち切られた。
続いて、白鷹射手リィナの冷静な矢がヘティリドの瘴気の中に放たれ、命中する。
さらに、氷紋魔女セラフィナが呪文を唱え、瘴気を凍てつかせて霧散させた。
三人の連携により、ヒルダはその場に崩れ落ち、救われる。ガルドがヒルダの肩に手を置き、静かに言った。
「もう大丈夫だ。あとは俺たちに任せろ」
ヒルダはかすかに頷き、血の滲む剣をゆっくりと収める。
「……ありがとう。私は……戦線を離脱する」
深い呼吸を繰り返しながら、ヒルダは戦場の暗がりから離れていった。
ヘティリドは鋭い眼差しで三人を見据え、再び戦意を漲らせる。
「なるほど、ではお望み通り…貴様らからまとめて葬ってやる!」
戦いは、ヘティリド対ベテラン三人の激闘へと突入した。
キャラクター紹介 No.41
【氷紋魔女 セラフィナ】
「氷紋魔女」の異名を持つ魔法使い、セラフィナ。
冷静沈着で、戦況を的確に判断しながら戦うベテランの魔導士だ。
彼女の氷の魔法は、敵の動きを封じ、味方を守る防御と攻撃の両面で大きな力を発揮する。
結界の維持も彼女の重要な役割の一つであり、村の安全を守る要となっている。
普段は穏やかな微笑みを絶やさず、仲間思いの優しさも秘めているが、戦場では一変し、冷徹な魔女の顔を見せる。




