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奈落の果ての冒険譚  作者: 黒瀬雷牙
第七章 憎悪の羅刹編

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極寒の世界

【奈落 第七層と第八層の間 安全地帯】


 聖なる魔法陣の蒼い光が静かに輝く中、クロスたちは防寒装備を整え終えたところだった。サンライズシティの賑わいから離れ、奈落の深層へと再び足を踏み入れる緊張感が漂う。


「ここから先は、吹雪と極寒が待ってる。油断は禁物やで」


 マリーが毛皮のコートの襟を直しながら呟く。


「でも、あの雪原を越えたら新しい発見が待ってるんやろな」


 エリスが杖を握りしめ、冷静な表情で言った。


 クロスは深呼吸をひとつ。


「よし、みんな準備はいいか?この先は一段と厳しい戦いになる。特に、層ボスの噂も聞いている」


「雪と氷を操る強敵、だっけ?」


 フローレンスが剣を鞘から抜きながら応じる。


「そうだ。第八層は環境も敵も全く違う。だが、俺たちならきっと乗り越えられる」


 ジャンも意気込みを見せる。


「ここまで来たんだ。どんな試練があっても前へ進むだけや」


 八層に繋がる扉を潜ると、5人の影がその中に溶け込んでいく。


【奈落 第八層 雪原エリア】


 雪が舞い散る凍てついた大地。吹き荒れる風が肌を刺し、視界を白く染めている。


「……想像以上やな」


 マリーが吐息を白くさせながら言う。


「気温は氷点下20度は下回ってるだろうな。風も強い」


 エリスが観察する。


「まずはこの雪原を突破して、層ボスのいる神殿を目指す」


 クロスが地図を確認しながら言った。


 視界の悪さと冷気に苦戦しながらも、仲間たちは互いに声をかけ合い、助け合いながら進んでいく。


 吹雪が容赦なく吹きつける雪原を、クロスたちは重い足取りで進んでいた。凍てつく風が肌を刺し、息はすぐに白い霧となって消えていく。


「エリス、あの村のこと教えてくれる?」


 クロスが声をかけると、エリスが杖を握りしめ、慎重な表情で答えた。


「クリスタルヴィレッジ……ここからさらに奥、奈落の最新部に最も近い人の集落よ。厳しい環境の中で独自の生活を続けているらしい」


「そんな場所があるんやな」


 マリーが目を細める。


「そこに行けば、次の層の情報や装備の補給も期待できるはずや」


「でも、そこまでの道は危険がいっぱい。情報によると、氷の魔獣が多く出没してる」


 エリスの警告に、全員の表情が引き締まる。


 突然、視界の悪い吹雪の中から、鋭い咆哮が響いた。巨大な氷結狼の群れが、白い霧の中から襲いかかる。


「来たぞ!全員警戒!」


 クロスの号令で、一気に戦闘態勢に入る。


 ジャンが斧を振り上げ、最前線で敵の群れを迎え撃つ。凍てつく牙が空を裂き、迫り来る獣たちの勢いは凄まじい。


「俺が足止めする!みんなは攻撃に専念しろ!」


 ジャンはその身を盾にし、斧を豪快に振るいながら、数匹の氷結狼を相手に食い止める。氷の牙が斧に当たっても怯まず、仲間たちの安全を守り続けた。


 フローレンスは炎の魔力で剣を赤く燃え上がらせ、凍てついた氷を溶かしながら敵の懐に飛び込む。


「燃やし尽くす!」


 マリーは仲間の足取りを軽くする光の魔法を唱えつつ、遠距離からメイスを振るう。


 エリスは冷気の矢を放ち、氷結狼の動きを鈍らせ、風の魔法で味方の体温を守る。


 激しい戦闘は続き、倒しても倒しても、次々に現れる氷の魔獣たち。吹雪はますます激しさを増し、体力も精神も限界に近づいていく。


「もう一息や!踏ん張れ!」


 クロスの叫びに、仲間たちは必死に応える。


 激しい戦闘を乗り越え、クロスたちは深い呼吸を整えた。体は凍え、傷も刻まれているが、気持ちは折れていなかった。遠く、白銀の彼方に淡く光るクリスタルの輝きが見えた。


「見えた……あれがクリスタルヴィレッジか」


 マリーが小さくつぶやく。


「まだ道はあるが、ようやく目標が見えた」


 エリスが静かに言う。


「よし、休憩して体力を回復させよう」


 クロスが仲間を促し、彼らは村へと向かって歩を進めた。


【奈落 第八層 クリスタルヴィレッジ】


 吹雪の向こうに見えた淡い光の正体は、氷の結晶のように煌めく小さな村だった。クリスタルヴィレッジ。それは奈落の最奥に近い、人々が最後に辿り着く拠点だと聞いていた。


 村に一歩足を踏み入れると、驚くことに外の猛吹雪は嘘のように収まり、冷気は和らぎ、澄んだ空気が漂っている。雪原の厳しい環境からは想像もつかない静けさだった。


「ここまで来ると、自然の魔力も違うんやな」


 マリーが周囲を見渡しながらつぶやく。


「そして、ここが最後の補給地点……」


 エリスが杖を握りしめて頷いた。


 村の住人たちは獣人、冒険者、商人が混在し、互いに協力してこの厳しい環境を生き抜いていた。通貨は地上と同じGゴールドを使い、外部との交流も一定程度保たれているらしい。


「ここが俺たちの新たな拠点になるな」


 ジャンが村の雑貨屋で防寒装備の補充をしながら言った。


「でも気を抜くなよ。ここから先は、もっと厳しい戦いが待ってる」


 すると村の中心から、堂々たる二つの姿が近づいてきた。


「アルガードさん、ヒルダさん!」


 クロスたちの目に映ったのは、冒険者ランキングの頂点を占める二人だった。特にアルガードの鋭い眼光と、ヒルダの堂々とした佇まいは圧倒的な存在感を放っていた。


「久しぶりだな、クロス。君たちもよくここまで来た」


 アルガードの重厚な声が響く。


「皆、無事で何よりだ」


 ヒルダは優しく微笑み、クロスたちに頷いた。


【奈落 第八層 クリスタルヴィレッジ 宿】


 クリスタルヴィレッジの宿屋は、外の寒さとは打って変わって暖かく、木の香りと人々の笑い声が漂っていた。厚い毛皮の布団に包まれ、クロスたちは一息つく。


「やっとゆっくり休めるな」


 ジャンが腕を伸ばしながら笑みをこぼす。


「ここは居心地いいけど、いつ何があってもおかしくない場所や」


 マリーが窓の外の雪を見つめつつ言う。


「アルガードさんとヒルダさんも同じ宿にいるようね。情報交換も兼ねてしっかり休もう」


 エリスがそう促し、皆が頷いた。


 クロスは窓の外の雪景色を眺めながら心を落ち着ける。


「ここで力を溜めて、次に備える。必ずこの奈落の深層を踏破してみせる」


 そう誓い、仲間たちはそれぞれの思いを胸に静かな夜を迎えた。

クリスタルヴィレッジについて


奈落の奥深くに存在する、冒険者たちにとっての最後の拠点として設定しています。極寒の雪原に包まれた過酷な環境ながら、ここでは獣人や冒険者、商人が共存し、互いに助け合いながら独自の生活を築いています。


通貨は地上と同じ「Gゴールド」を使っており、地上との交流も途絶えていない点が特徴です。ここが物語の中で、新たな装備や情報を得る重要な拠点となり、奈落のさらなる深層への足掛かりとなる場所です。

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