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奈落の果ての冒険譚  作者: 黒瀬雷牙
第一章 旅の始まり編
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4人パーティ

 奈落から戻った翌日。クロスは、手に入れたアイテムを売るため、いつもの雑貨屋へ足を運んだ。

 余っていたコウモリやネズミの牙は、全部で40Gになった。


「鉄鉱石なら、100Gで買うぞ?」


 店主の言葉に、クロスは首を横に振る。


「いや、これは残しておくよ」


 いつか手に入れるべき強い装備のために、素材は蓄えておくつもりだった。


 鍛冶屋を出たクロスは、食料の補充のためスーパーに立ち寄った。すると、品出しをしているマリーの姿を見つける。


「マリーじゃないか。このスーパーで働いてたのか?」


「あらっ、クロスさん。おひさしぶりやなぁ。うち、ここのスーパーでバイトしとるんよ」


「そうなのか。俺は奈落探索一本でやってる」


「えぇっ、ほんまに!? すごいなぁ……うちは、まだ奈落一本はようせんわ。クロスさん、ほんまにすごいと思うわ」


 そう言って穏やかに微笑むマリーに、クロスは(怖いと言いながら、なぜ奈落に通っているのだろう)と少し気になったが、仕事中に話し込むのも悪いと思い、軽く手を振った。


 買い物を終えて帰路についたクロスは、ふと工事現場の前で足を止めた。


「あれは…ジャン?」


 作業着姿のジャンが、先輩らしき男に怒鳴られながら作業している。


「……よくやるぜ。見てるだけで嫌になる」


 人と関わるのは苦手じゃない。注意を受けるのもまだ我慢できる。

 だが、怒鳴られるのは心が拒絶する。


 自分がどこかの会社に入り、誰かの下で働く未来は想像できなかった。

 「社会不適合者」――そう呼ばれるのかもしれない。

 けれど、クロスには目指すものがある。


 行方知れずの両親を見つけること。そのためには、奈落の更なる深層に辿り着くしかない。


 その時だった。


「ちょっとクロス、話があるんだけど」


 呼び止めたのは、叔母のジーナだった。


「あんた……奈落に行ってるでしょ」


 筋トレに書紀の読み漁り、ボロボロの姿で帰る毎日。

 もう隠し通すのは無理だと悟ったクロスは、観念してすべてを打ち明けた。


「どうせ、ダメだって言われると思って……」


「馬鹿ね。早く相談してくれればよかったのに」


 ジーナは少し呆れながらも、新品の青銅の鎧を手渡した。


「叔母さん、これは……」


「本当はもっと良いのを買いたかったんだけど。鎧って、すごく高いのよ」


「……ありがとう!」


「でも、ひとつだけ約束して」


 ジーナは真剣な眼差しでクロスを見つめる。


「あなたは、私にとって息子同然なの。絶対に、死なないで」


「うん、約束する」


 その夜――

 クロスが眠った後、ジーナは部屋の隅に置かれた遺影の前に座って祈った。


 それは、クロスの父であり、ジーナの兄である――ジークの写真だった。


「クロスも、兄さんやお義姉さんと同じように奈落を目指しているわ。……どうか、クロスを…」


 言葉を飲み込み、ジーナは手を強く合わせる。


「どうか、クロスをお守りください」



 《一週間後》


 怪我も癒え、体調も万全となったクロスは、冒険者ギルドを訪れていた。


「今日の依頼はこれだけね」


 受付嬢から渡された依頼票を見て、クロスは眉をひそめる。


 …………

【死人剣士の遺骨を四つ納品】

 報酬 600G

 …………


「今の自分じゃ……無理だな」


 諦めて掲示板を眺めていると、「初心者歓迎」の張り紙を見つけた。さっそく募集主に声をかける。


「私はエリス。よろしく頼むわ」


 振り返ったのは、杖を携えたローブ姿の女性。落ち着いた雰囲気の中に鋭さを秘めていた。


「クロスです。よろしくお願いします」


 エリスはもう少し仲間を集めたいと言い、待機を続けた。目的は一層中間地点に自生する“魔力草”の採取。彼女の本業は薬屋で、奈落産の薬草は地上よりも品質が高いらしい。


 それからしばらくして――


「クロスじゃねーか、今から奈落か?」


 声をかけてきたのは、ジャンだった。


「ちょうどよかった!」


 事情を話すと、ジャンは即座に参加を決めた。新しい装備も揃えてあるという。


 さらに数十分後――


「私も同行しても、よろしいでしょうか?」


 声の主は、真紅の髪を揺らした冷静そうな女性だった。


「ちょうどよかった! 俺はクロス。ぜひ同行してくれ!」


「私はフローレンス。王国騎士のフローレンス=ギルクラウド。よろしくお願いします」


 こうして四人の冒険者が集い、エリスをリーダーに奈落へと向かうことになった。


 奈落に到着した4人はさっそく、死人剣士の遺骨を目指して突き進む。エリスはみんなに向かって言った。


「今日はみんなで力を合わせて、無事に魔力草を持ち帰るわ」


 クロスは少し緊張していたが、エリスの言葉に勇気をもらい、うなずいた。ジャンも同じように頷き、フローレンスは冷静に周囲を見渡していた。


「俺も、頑張るぜ。さっさと死人剣士の遺骨もゲットだ!」


 ジャンが言い、クロスも頷く。それぞれの思いが胸に渦巻き、奈落に向かう冒険の一歩を踏み出した。

キャラクター紹介 No.6

【エリス=マギア】

薬屋・マギアドラッグを営む風と氷属性の魔導士。冷静沈着で仲間想いな性格の裏には、奈落病によって家族を失った過去がある。妹ミリスと共に、奈落病の特効薬を作るという強い信念を抱き、奈落探索に挑み続けている。魔物と化した母を自ら討った過去を持ち、その痛みと向き合いながら進む姿は、誰よりも強く、優しい。


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