4人パーティ
奈落から戻った翌日。クロスは、手に入れたアイテムを売るため、いつもの雑貨屋へ足を運んだ。
余っていたコウモリやネズミの牙は、全部で40Gになった。
「鉄鉱石なら、100Gで買うぞ?」
店主の言葉に、クロスは首を横に振る。
「いや、これは残しておくよ」
いつか手に入れるべき強い装備のために、素材は蓄えておくつもりだった。
鍛冶屋を出たクロスは、食料の補充のためスーパーに立ち寄った。すると、品出しをしているマリーの姿を見つける。
「マリーじゃないか。このスーパーで働いてたのか?」
「あらっ、クロスさん。おひさしぶりやなぁ。うち、ここのスーパーでバイトしとるんよ」
「そうなのか。俺は奈落探索一本でやってる」
「えぇっ、ほんまに!? すごいなぁ……うちは、まだ奈落一本はようせんわ。クロスさん、ほんまにすごいと思うわ」
そう言って穏やかに微笑むマリーに、クロスは(怖いと言いながら、なぜ奈落に通っているのだろう)と少し気になったが、仕事中に話し込むのも悪いと思い、軽く手を振った。
買い物を終えて帰路についたクロスは、ふと工事現場の前で足を止めた。
「あれは…ジャン?」
作業着姿のジャンが、先輩らしき男に怒鳴られながら作業している。
「……よくやるぜ。見てるだけで嫌になる」
人と関わるのは苦手じゃない。注意を受けるのもまだ我慢できる。
だが、怒鳴られるのは心が拒絶する。
自分がどこかの会社に入り、誰かの下で働く未来は想像できなかった。
「社会不適合者」――そう呼ばれるのかもしれない。
けれど、クロスには目指すものがある。
行方知れずの両親を見つけること。そのためには、奈落の更なる深層に辿り着くしかない。
その時だった。
「ちょっとクロス、話があるんだけど」
呼び止めたのは、叔母のジーナだった。
「あんた……奈落に行ってるでしょ」
筋トレに書紀の読み漁り、ボロボロの姿で帰る毎日。
もう隠し通すのは無理だと悟ったクロスは、観念してすべてを打ち明けた。
「どうせ、ダメだって言われると思って……」
「馬鹿ね。早く相談してくれればよかったのに」
ジーナは少し呆れながらも、新品の青銅の鎧を手渡した。
「叔母さん、これは……」
「本当はもっと良いのを買いたかったんだけど。鎧って、すごく高いのよ」
「……ありがとう!」
「でも、ひとつだけ約束して」
ジーナは真剣な眼差しでクロスを見つめる。
「あなたは、私にとって息子同然なの。絶対に、死なないで」
「うん、約束する」
その夜――
クロスが眠った後、ジーナは部屋の隅に置かれた遺影の前に座って祈った。
それは、クロスの父であり、ジーナの兄である――ジークの写真だった。
「クロスも、兄さんやお義姉さんと同じように奈落を目指しているわ。……どうか、クロスを…」
言葉を飲み込み、ジーナは手を強く合わせる。
「どうか、クロスをお守りください」
《一週間後》
怪我も癒え、体調も万全となったクロスは、冒険者ギルドを訪れていた。
「今日の依頼はこれだけね」
受付嬢から渡された依頼票を見て、クロスは眉をひそめる。
…………
【死人剣士の遺骨を四つ納品】
報酬 600G
…………
「今の自分じゃ……無理だな」
諦めて掲示板を眺めていると、「初心者歓迎」の張り紙を見つけた。さっそく募集主に声をかける。
「私はエリス。よろしく頼むわ」
振り返ったのは、杖を携えたローブ姿の女性。落ち着いた雰囲気の中に鋭さを秘めていた。
「クロスです。よろしくお願いします」
エリスはもう少し仲間を集めたいと言い、待機を続けた。目的は一層中間地点に自生する“魔力草”の採取。彼女の本業は薬屋で、奈落産の薬草は地上よりも品質が高いらしい。
それからしばらくして――
「クロスじゃねーか、今から奈落か?」
声をかけてきたのは、ジャンだった。
「ちょうどよかった!」
事情を話すと、ジャンは即座に参加を決めた。新しい装備も揃えてあるという。
さらに数十分後――
「私も同行しても、よろしいでしょうか?」
声の主は、真紅の髪を揺らした冷静そうな女性だった。
「ちょうどよかった! 俺はクロス。ぜひ同行してくれ!」
「私はフローレンス。王国騎士のフローレンス=ギルクラウド。よろしくお願いします」
こうして四人の冒険者が集い、エリスをリーダーに奈落へと向かうことになった。
奈落に到着した4人はさっそく、死人剣士の遺骨を目指して突き進む。エリスはみんなに向かって言った。
「今日はみんなで力を合わせて、無事に魔力草を持ち帰るわ」
クロスは少し緊張していたが、エリスの言葉に勇気をもらい、うなずいた。ジャンも同じように頷き、フローレンスは冷静に周囲を見渡していた。
「俺も、頑張るぜ。さっさと死人剣士の遺骨もゲットだ!」
ジャンが言い、クロスも頷く。それぞれの思いが胸に渦巻き、奈落に向かう冒険の一歩を踏み出した。
キャラクター紹介 No.6
【エリス=マギア】
薬屋・マギアドラッグを営む風と氷属性の魔導士。冷静沈着で仲間想いな性格の裏には、奈落病によって家族を失った過去がある。妹ミリスと共に、奈落病の特効薬を作るという強い信念を抱き、奈落探索に挑み続けている。魔物と化した母を自ら討った過去を持ち、その痛みと向き合いながら進む姿は、誰よりも強く、優しい。