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奈落の果ての冒険譚  作者: 黒瀬雷牙
第六章 無限樹海編

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奈落へおつかい

【サンライズシティ アビスレストラン】


 街の活気に迎えられながら、クロスたちはアニサの実家である「アビスレストラン」へと足を運んだ。

 厨房から響く包丁の小気味よい音と、香ばしい匂いが店いっぱいに広がっている。


「おお! よく帰ったな、アニサ!」


 豪快な声とともに現れたのは、大柄で筋骨隆々の店主、アニサの父だ。

 クロスたちが黄金の果実を差し出すと、その目が一瞬で輝いた。


「こりゃあ…夢にまで見た食材じゃねぇか! よくぞ持ってきてくれた!」


 大将は感極まった様子で果実を両手に掲げ、厨房の奥へと駆け込んだ。その背中からは、料理人としての興奮と誇りが伝わってくる。


 やがて、大将はふと思い出したようにクロスへ顔を向けた。


「そうだ、お前たち。ついで…いや、これは正式なお願いだ。第六層の魚を仕入れてきてくれねぇか?」


「魚、ですか?」


「ああ。あそこにしかいない珍しい奴らだ。今度の特別メニューに使いたくてな」


 クロスは仲間たちと顔を見合わせる。ギルドを通せば正式依頼になるし、報酬も悪くない。


「わかりました。ギルド経由で引き受けます」


「恩に着るぜ!」


【サンライズシティ 冒険者ギルド】


 クロス達はさっそく、ギルドで依頼を受理する。


…………

Bランク依頼

【第六層魚類の納品】

 報酬 6,000G

…………


 指定された種類はいくつかあったが、どれでも条件を満たせるとのこと。


「せっかくだし…戦ってなかった六層主、レヴィアトルを狙ってみるか」


 レヴィアトルとなれば、依頼難度はAランクになる。しかしクロスの提案に、エリスが口元を上げた。


「いいわね。どうせ行くなら、大物を仕留めてみましょう」


 マリーもメイスを肩に担ぎ、笑みを浮かべる。


「魚も取れて、層主も倒せる。一石二鳥やな!」


 こうしてクロスたちは、再び奈落へと向かう。

 目指すは第六層の支配者、海を割る海竜・レヴィアトル。


 転移陣の前で、エリスが一歩進み出た。


「じゃあ、行くわよ。ブリージア・ドーム!」


 淡い水色の光が杖先から広がり、それぞれの頭部に透明な球体が浮かび上がる。球体の内側は乾いた空気が満ち、第六層特有の水没環境でも呼吸を維持できる魔法障壁だ。


「これで息苦しさはなしやな」


 マリーが軽く頷き、転移陣が光を放つ。


【奈落 第六層 深海エリア】


 海藻の森の奥、渦を割って現れたのは全長数十メートルの海竜・レヴィアトル。

 黄金の瞳がぎらつき、尾が水を裂く。


「来るぞ!」


 クロスの号令に合わせ、ジャンが斧を構え、フローレンスが剣を抜く。

 マリーが光魔法を展開し、仲間たちの身体能力を底上げする。


「ルクス・フォルティス!」


 眩い光が全員を包み、動きが一段と鋭くなる。


 巨体の突進を受け流し、ジャンが斧で押し返すと同時に、エリスが冷気を纏わせた矢を放った。


「フロスト・アロー!」


 矢が鱗を貫き、凍結のひびが広がる。


「今だ!」


 クロスの指示でフローレンスが急接近し、魔力で燃え続ける紅蓮の斬撃を放つ。


「緋断っ!!」


 水中にもかかわらず炎は消えず、海竜の鱗を焼き裂いた。レヴィアトルが苦悶の咆哮を上げ、水流が乱れる。


 さらにエリスが魔法を重ねた。


「ブリザード!」


 レヴィアトルの巨体を氷が覆い尽くし、動きが鈍った瞬間、ジャンが全力で斬りかかる。


「止めだ…覇刃!!」


 海竜の首が大きく傾き、そのまま渦の底へ沈んでいく。


 泡が漂う静寂の中、マリーが笑みを浮かべる。


「やっぱ、みんな前より強くなっとるわ」


 クロスは短く頷き、仲間たちを見回した。


「そうだな……連携も、力も、全部な」


 その時、アニサが腕を組んで口を開く。


「……あのさ、これ魚類の依頼じゃなかったっけ?」


 全員の動きが止まる。


「いや、海竜って魚……じゃないよな?」


 冷静すぎる一言に、ジャンが額を押さえた。


「……確かに、これはただの竜だな」


 フローレンスも苦笑する。


「層主倒すのが目的みたいになってたけど、納品物は別だったわね」


「まあええやろ。周りに魚モンスターおったし、そいつらまとめて狩ればええ」


 マリーの提案に、クロスが頷く。


「よし、適当に確保して帰るぞ」


 近くの群れからギルド指定の魚モンスター・銀ひれウオやアビスシャークを次々に仕留めていく。

 エリスの氷魔法で動きを止め、ジャンとフローレンスが仕留める。マリーは光魔法で視界を確保し、作業は短時間で終わった。


【サンライズシティ 冒険者ギルド】


「依頼品確認、間違いなし。これで完了だ」


 受付嬢が笑顔で報告書に判を押す。報酬の袋を受け取ったクロスは、仲間たちと視線を交わした。


「竜も魚も狩ったし、結果オーライってことで」


 アニサはため息をつきながらも、口元に微笑を浮かべる。


「……まあ、父さんは喜ぶね」


【アビスレストラン】


 戻ったクロスたちを、厨房から飛び出した大将が迎える。

 黄金の果実と、珍しい魚の山を前に、満面の笑みを浮かべるその姿に、全員が思わず笑みを返した。


 こうして、第六層の魚類調達依頼は、ついでに層主討伐というおまけ付きで幕を閉じた。

─アビスレストラン特製、新メニューのお知らせ!─


黄金の果実と第六層産の希少魚を使った、期間限定メニューが完成しました。その名も…


「アビス黄金フィッシュステーキ ~深海の果実ソース添え~」


肉厚な銀ひれウオを香草バターで香ばしく焼き上げ、黄金の果実を煮詰めた甘酸っぱい特製ソースを贅沢にかけました。

深海魚特有の濃厚な旨みと、果実の爽やかな香りが絶妙にマッチする、当店自慢の一皿です。   

                     ──店主


数量限定につき、お早めに!

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