獣神白王
【奈落 第七層 神果の聖域・黄金林】
黄金の果実の林に、低く重い声が響いた。
「……ジーク、か?」
名を呼ばれたクロスは、剣を握りしめたまま一歩踏み出す。
「俺は……ジークじゃない」
白王はじっとその瞳でクロスを見据える。琥珀の瞳が、まるで魂の奥底を覗き込むように揺れた。
「……だが、その目、その構え……確かにジークの血を引いている」
沈黙を破ったのは、白王の低い唸り声。
視線がゆっくりと仲間たちへ移っていく。
「……炎を纏うその気配、ヴァンガードを思い出すな」
フローレンスは思わず目を見開く。
「お前の立ち姿は……ギルバートを彷彿とさせる。そしてそこの女。その笑みは少しだけ、アシュリーの面影がある」
ジャンとマリーは小さく息を呑む。
「……ほんの僅かだが、グロリアの風を感じる」
エリスの瞳が鋭く光る。仲間たちは互いに顔を見合わせ、白王の言葉に戸惑いを隠せなかった。
クロスは深く息を吸い、はっきりと告げる。
「俺はクロス。ジークの……息子だ」
白王の瞳が細められ、わずかに空気が震える。
「……そうか。奴の息子か」
その声音には、戦いを挑む者への警戒と、再会を喜ぶかのような響きが入り混じっていた。
…………
《二十数年前 神果の聖域》
若き日のジーク、ヴァンガード、ギルバート、グロリア、アシュリー、そしてムラサメ。
彼ら六人は、それぞれの役割を全うし、互いに信頼し合う強力なチームとして神果の聖域に挑んだ。
ジークは冷静沈着に戦況を見極め、的確な指揮を執った。
前衛には炎の剣士ヴァンガード、豪腕の斧使いギルバート、そして日本刀を軽やかに操る剣士ムラサメが立ち、白王の猛攻を受け止めた。
後衛では、氷の魔法で敵の動きを封じるグロリアと、癒しの魔法で仲間を支えるアシュリーが冷静に支援を続けた。
巨大な獣神白王は、その圧倒的な力で何度も彼らを押し返す。鋭い牙と爪が閃き、氷と炎が交錯する激闘が繰り返された。
戦いは苛烈を極めたが、彼ら六人は決して諦めなかった。勝利こそ掴めなかったものの、彼らの統率された戦いぶりは白王に強烈な印象を残し、ついには認めさせるに至った。
「見事だ、冒険者達よ。黄金の果実も神聖の湧水も好きに使うといい…名を聞いても良いか?」
撤退の時、ジークは静かに語った。
「俺はジーク!ありがとう、白王。また会いにくるよ…次は俺達が勝つ!」
一人一人が名を名乗り、死闘を繰り広げたばかりのジーク達と白王は、まるで友人のように語り合った…
…………
「結局、奴らは戻って来なかったな」
白王が轟音と共に姿を現した。全身を覆う純白の毛皮が、神秘的な光を放つ。
その圧倒的な存在感に、クロスたちの身体が自然と緊張した。
「若き冒険者たちよ。お前たちの力を見せてもらおう」
白王は豪快に前足を地面に打ちつけ、一気に飛びかかる。
クロスは剣を構え、ジャンは素早く前に出て拳を振り下ろした。フローレンスは炎を纏った剣を振り回し、マリーは光の魔法で援護。エリスは冷静に魔法を紡ぎ出す。
だが、白王の動きはあまりにも速く、強靭だった。彼らの攻撃はほとんど通じず、一瞬の隙をつかれて吹き飛ばされる。
何度も攻撃を受けながらも、クロスたちは倒れなかった。白王の攻撃の中に、どこか懐かしいリズムと力強さを感じ取ったのだ。
激しい戦闘の末、白王は大きく息を吐き、威厳を保ちながらも穏やかな声で言った。
「お前たちの力、覚悟、そして連携……確かにジークたちの面影を感じた。認めよう」
クロスたちは息を整え、固く頷いた。
「俺たちは聖域の守護者ではない。だが、この地で得られる力を必要としている」
白王は深く頷き、静かに告げた。
「ならば、黄金の果実も、神聖の湧水も好きに使うが良い。お前たちの目的のためにな」
その許可の言葉に、クロスたちは感謝の意を示しつつ、未来への戦いに向けて決意を新たにした。
「ところで…お前たちの話を聞かせてくれないか?実はこう見えて、冒険譚が大好きなのだ」
白王の言葉に、クロスは少し驚きながらも微笑んだ。
「ええ、喜んで。俺たちの旅はまだ始まったばかりです」
仲間たちもそれぞれに笑顔を交わし、静かに黄金の果実が揺れる林の中に穏やかな空気が流れた。
これから続く長い戦いの中で、彼らは互いに支え合いながら、新たな伝説を紡いでいくのだろう。聖域の風がやさしく頬を撫で、静かに物語は次の章へと歩みを進めていった。
キャラクター紹介 No.37
【獣神白王】
巨大な神獣であり、神果の聖域を守る白き獣王。全身を純白の毛皮で覆い、琥珀色の瞳は魂の奥底を見透かすかのように鋭い。圧倒的な力と神秘的な存在感を放ち、聖域の自然と調和しながらも、訪れる者に試練を与える。
かつてジーク率いる冒険者たちと激闘を繰り広げ、その戦いぶりに敬意を払い、彼らを認めた。現在はクロスたちの覚悟と連携に、かつての仲間の面影を見出し、資源の利用を許可している。
冷静かつ威厳に満ちた性格ながら、冒険譚を愛する一面も持つ。




