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奈落の果ての冒険譚  作者: 黒瀬雷牙
第六章 無限樹海編

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神果の聖域

【奈落 第七層 隣村・集会所】


 夕餉の香りが広場を包み、村人たちの表情からわずかに険しさが消えていく。囲炉裏の火が揺れる集会所の奥で、村長は湯気の立つ椀を手にしていた。


「ふーむ、確かに腕は立つ…悪くない」


 長老の声音はまだ硬いが、わずかに和らいでいる。

クロスはその隙を逃さず、静かに口を開く。


「黄金の果実を探しているんだ。どこで手に入るか、知っていたら教えてほしい」


 村長は深く息を吐き、しばし沈黙した後、重い口を開いた。


「……あるにはある。『神果の聖域』と呼ばれる場所だ。口にしたものに力を与える黄金の果実に、どんな疲れも吹き飛ぶ神聖の水…村から半日ほど北、霧深い峡谷の奥に隠されておる」


 マリーが小さく息をのむ。


「聖域、か…そら簡単には行けへん場所やな?」


 村長は頷き、さらに言葉を続けた。


「そこを守るのが――《獣神白王》と呼ばれる魔物だ。七層でも滅多に姿を見せん、白銀の毛並みを持つ獅子よ」


 エリスが険しい顔で問い返す。


「レアモンスター……ですか?」


「ただのレアではない。あれはこの地の守護者であり、何百年も生きてきたと言われる。聖域に入ろうとする者はすべて、その牙と爪で追い払われる」


 村長の瞳がわずかに細くなる。


「だが――その肉こそが、神獣の肉と呼ばれるものだ。食べた者は病を癒し、力を得ると伝わっておる」


 アニサが目を輝かせる。


「じゃあ……もし白王を倒せれば、黄金の果実も神獣の肉も、両方手に入るんですね!」


 その言葉に、エリスがすぐさま声をかけた。


「待って。話を聞く限り、相当な危険よ。神果の聖域に行くのは、命懸けの覚悟が必要になるわ」


 クロスは言葉を飲み込み、仲間たちを見回す。

 マリーも少し困ったように眉を寄せた。


「せやけど…あんなん聞かされたら、挑戦してみとうなるんも本音やね」


 沈黙が落ちる中、ジャンが椅子に深く座り直し、口の端を上げた。


「おいおい、俺たち、もう何度も命懸けやってんだろ? 今さら怖気づくほうがらしくねぇ」


 その軽い言い回しに、空気が少しだけ緩む。

 クロスはゆっくりと息を吐き、村長に向き直った。


「……行こう。だが、全員で準備を整えてからだ」


 村長は長く目を閉じ、やがて静かに頷いた。


「ならば、道を教えてやろう」


 こうして、クロスたちの次なる目的地は神果の聖域に決まった。


【奈落 第七層 神果の聖域・外縁部】


 霧に包まれた峡谷を抜けると、空気が一変した。

 湿った土の匂いと、どこか甘やかな香りが入り混じり、耳を澄ませば水の滴る音が微かに響く。


「……ここが、神果の聖域」


 エリスが息を呑む。


 だが、その静寂を破るように、茂みから銀色の閃光が飛び出した。

 全身を白銀に輝かせた巨大なイノシシ・銀猪。

 突進をかわしたクロスが剣を振るい、フローレンスがすかさず炎を纏った斬撃を叩き込む。


「行くで!ミリアド・ライトレイ!」


 最後はマリーの光魔法が炸裂し、銀猪は呻き声を上げて崩れ落ちた。


「……これ、肉がすごく柔らかそう」


 アニサは戦利品の銀猪の肉を手早く回収する。


 休む間もなく、今度は鋭い角を持つ黒い鹿が木々の影から飛び出した。

 その額には鬼のような骨質の角が二本、妖しい光を放っている――鬼鹿だ。

 ジャンが進路を塞ぎ、クロスが一閃。マリーの光球が目を眩ませ、フローレンスの炎がその命を断った。鬼鹿の肉もまた、アニサの籠に収められていく。


 現れるモンスター達は、同じ第七層でも一回り強い。クロス達は少しずつ削られていった。


「ここにいる魔物、やっぱり強いわね」


 エリスが額の汗をぬぐう。


「そりゃそうだ。黄金の果実や神聖の湧水を口にしてるんだろ?」


 ジャンが肩で息をしながら答える。


 やがて、霧が晴れた先にそれはあった。

 金色の実をたわわに実らせた林――黄金の果実の群生地。

 さらに奥には、透明で淡い光を帯びた泉が湧き出している。


「……神聖の湧水、だ」


 クロスが呟くと、仲間たちの顔に達成の笑みが浮かぶ。


 しかし、その水面に波紋が走った瞬間――

 森の奥から重く威厳ある足音が響いた。


 姿を現したのは、白銀のたてがみと琥珀色の瞳を持つ獅子。

 その存在感だけで、空気が張り詰める。


《獣神白王》

 村長の言葉が脳裏によみがえる。


 白王はクロスたちを睨みつけると、ゆっくりと口を開いた。


「……ジーク、か?」


 突然の名に、クロスは目を見開いた。

神果の聖域について


神果の聖域は、奈落第七層のさらに奥にある、特別な結界に守られたエリアです。

常に霧が立ちこめ、外の世界から切り離されたような場所で、中は豊かな自然と不思議な力に満ちています。


ここでは「黄金の果実」や「神聖の湧水」といった貴重な資源が手に入ります。

ただし、それらを口にして力を得た魔物たち――銀猪や鬼鹿のような手強い連中がうろついているので、簡単には近づけません。

さらに奥には、聖域の守護者とされる伝説級モンスター《獣神白王》が住んでいると言われています。

その肉は「神獣の肉」と呼ばれ、奇跡のような効能を持つとも噂されますが……

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