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奈落の果ての冒険譚  作者: 黒瀬雷牙
第六章 無限樹海編

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黄金の果実を求めて

【奈落 第七層 作戦本部】


「イグニス、マーテル。第六層でリゼルグの痕跡を探す。手がかりを掴んだらすぐに報告を頼む」


 アルガードが冷静に告げる。


「了解。第六層はもう慣れた」


 イグニスが微笑み、弓を肩に掛ける。


「マグナ・スロットへ入り浸るのは控えてくださいよ」


 マーテルがイグニスを見つめると、イグニスは焦って目を逸らした。


 その一方で、アルガードとヒルダは第八層へと視線を向けていた。


「第八層は我々も慣れている。魔物も厄介だが、確実にリゼルグの足跡を追う」


 アルガードが重厚な声で言う。


「私も準備はできている。共に戦おう」


 ヒルダが剣を握り締め、覚悟を示す。


 二組のパーティは、それぞれの目的地へ向かって樹海の闇に消えていった。


 イグニスとマーテル、アルガードとヒルダがそれぞれ第六層、第八層へ向かう姿を、クロスたちは静かに見送った。


「行ってらっしゃい。無事を祈ってるで」

 マチルダが深く頭を下げる。


「くれぐれも無理せんようにな」

 ジャンが声をかけた。


 皆の視線が遠ざかる冒険者たちの背中を追う中、アニサがふと口を開く。


「みなさん、せっかくですし、私もトレーニングも兼ねて、黄金の果実や神獣の肉が手に入るという場所を探してみませんか?」

 彼女の瞳は希望と決意に輝いていた。


 クロスは少し考え込むが、やがて頷く。


「悪くない。村の復興にもつながるし、情報収集も兼ねて動こう」


 マリーも笑顔で答えた。


「せやな、うちも楽しみにしてるわ。ええ情報見つけたいな」


 こうしてクロスたちは獣人の集落や周辺の村々で、黄金の果実や神獣の肉に関する情報を求めて聞き込みを始めた。


 村の獣人達の情報で、隣の村の者達なら知っているかもしれないという情報を入手し、クロス達はさっそく隣村へと向かった。


 だが、隣村の獣人たちは警戒心を強め、冷たく接してきた。


「知らんな。それにわしらは、あんたらの味方とは限らんぞ」


 隣村の長老が冷ややかに告げた。


 クロスたちは、これから信頼を勝ち取るための難しい交渉が待っていることを覚悟した。隣村の獣人たちの冷たい態度に戸惑いながらも、何とか打開策を模索していた。


「単に話をするだけじゃ、相手の心は開かへんかもしれんな…」


 マリーが眉をひそめる。


「料理で心を掴むってのはどうだろう?」


 アニサがにっこり笑って提案した。


「とっておきの料理で、彼らの警戒を解けたら…話を聞いてもらえるかもしれない」


 彼女は早速準備に取り掛かる。


「それなら食材集めを急ごう。俺たちで二手に分かれて回る」


 クロスが指示を出した。


 ジャン、エリス、フローレンス、マリー、そしてクロスとアニサの6人は、互いに連携しながら食材を求めて動き出した。


 【奈落 第七層 隣村近郊】


 小雨がぱらつく森の中、二手に分かれたクロスたちは手早く行動を開始していた。


 クロスとアニサは川沿いを進み、鮮度の高い川魚や山菜を探す。


「川魚は塩焼きが一番だけど、香草を使えばもっと美味しくなるね」


 アニサは腰の籠を軽く叩きながら、岩陰の水溜まりに手を伸ばす。


「ほら、見て!このイワナ、脂がのってる」


「これなら隣村の連中も黙っちゃいないな」


 クロスが笑い、手際よく魚を捕らえていく。


 一方、ジャン、エリス、フローレンス、マリーの組は森の奥へ。エリスは薬草を見つけては手際よく摘み取り、フローレンスは素早く獣の足跡を追っていた。


「この先に大きな獣がおるみたいやな」


 マリーが落ち葉をかき分けながら足跡を確認する。


「神獣級じゃないけど、立派な肉になりそうだ」


 ジャンが槍を構え、木々の向こうに姿を現した巨大イノシシを睨む。


 短い追跡の末、フローレンスが剣で道を断ち切り、ジャンが斧を振るい、マリーが光魔法で足を止めた。

 息の合った連携でイノシシを仕留めると、その場の空気が一気に緩む。


「ええ肉やわ…これ、炭火で焼いたら絶対うまいで」


 マリーが笑い、エリスも頷いた。


「これなら隣村もきっと受け入れてくれるはずです」


 夕暮れ、再び合流した二組は、獲物と山の恵みを携えて隣村の広場へ向かった。村の長老は腕を組み、なおも険しい視線を向けてきたが――


「これは、私たちからの贈り物です。まずは食べてみてください」


 アニサが柔らかい笑みと共に差し出した料理から、香ばしい匂いが村中に広がっていった。


 最初の一口を口に運んだ長老の表情が、ほんのわずかに揺れる。


「……話ぐらいは、聞いてやってもええ」


 その言葉に、クロスたちは静かに息をついた。


 ――こうして、黄金の果実と神獣の肉に繋がる糸が、わずかに動き始めた。

キャラクター紹介 No.36

【隣村の村長】

七層の森に点在する獣人集落のひとつを束ねる年長の男性。灰色混じりの濃い茶毛と鋭い瞳が特徴で、外部の者に対して非常に警戒心が強い。

長年の経験から、人間や他集落との交流は裏切りや争いの火種になると考えており、余所者を簡単には信用しない。

しかし、根は冷酷ではなく、村を守るために厳しい態度を取っているだけであり、本当に価値ある者には態度を改める柔軟さもある。

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