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奈落の果ての冒険譚  作者: 黒瀬雷牙
第六章 無限樹海編

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第七層の洗礼

【奈落 第七層 樹海エリア】


 湿った空気の中、クロスたちは息を潜めて進んでいた。足元の落ち葉が踏みしめられる音すら、この森では目立ってしまう。

 森の奥では、低く唸るような獣の鳴き声が響き、地面を揺らす微かな振動が伝わってくる。


「……さっきから、なんかつけられとる気ぃせぇへん?」


 マリーが小声で言う。クロスは剣の柄に指をかけ、後方に視線を走らせた。


「獣の気配……だが数が多いな」


 樹海の影の中、黄金色の光が点々と揺れた。瞳だ。

 その輪郭が徐々に現れ、しなやかな筋肉と鋭い牙を備えた、黒と灰の縞模様の巨獣・アビスタイガーが姿を現す。


「……六体、いや、八体か!」


 フローレンスが低く叫ぶ。

 次の瞬間、先頭の一匹が地を蹴り、影のような速度で突っ込んできた。


「くっ!」


 クロスの剣が火花を散らす。だが、二匹目、三匹目が横合いから襲いかかり、隊形は一気に乱れた。

 ジャンの斧が唸りを上げて一匹を弾き飛ばすが、別の虎が背後に迫る。


「させない!」


 アニサが後退しながら弓を引き絞り、矢を連続で放った。

 一本目は虎の眼前をかすめ、二本目がその前足を深く貫く。巨獣が悲鳴を上げ、動きが鈍る。


「ナイス、アニサ!」


 クロスが叫ぶが、別方向から二匹が同時に迫り、退路を断とうとする。


「……凍りつけ、グラシアルランス!」


 低く鋭い声と共に、エリスが両手を突き出した。

 青白い魔法陣が空中に浮かび、そこから無数の氷槍が飛び出す。

 突進してきた虎の一匹は正面から貫かれ、背後の木に叩きつけられた。

 もう一匹も脚を氷に封じられ、動けずに牙を剥く。


「今のうちに……!」


 その瞬間、マリーが両手を組み、淡い緑光を放つ魔法陣を展開した。


「スリープバインド!」


 絡みつくような蔦の幻影が氷に捕らわれた虎の全身を覆い、その瞳が瞬く間にとろんと沈んだ。

 巨獣はその場で崩れ落ち、深い眠りに落ちる。


「一匹は無力化したわ!」


 マリーの声にクロスとフローレンスが頷き、残りの敵に集中する。

 しかしまだ五匹が残り、包囲はじわじわと狭まっていく。


「……あかん、囲まれた!」


 マリーの声が震える。その瞬間、上空から轟音が降ってきた。


聖域結界(サンクチュアリ)!」


 柔らかな白光が降り注ぎ、クロスたちを包む。衝撃が空気を揺らし、アビスタイガーたちの突進が見えない壁に阻まれて弾き飛ばされた。


「なっ……!?」


 森の奥から三つの影が歩み出る。


 先頭の女性は白銀の法衣を纏い、長い金髪をゆるく編み込んでいる。その手には聖なる杖。微笑みは穏やかだが、放つ魔力は雪嵐のように澄んで鋭い。マリーの瞳が大きく見開かれた。


「マ…マチルダ叔母さん!」


 彼女の隣には、全身を黒鉄の鎧で覆い、大盾を携えた巨漢の男。大地そのもののような重々しい足取りは、一歩ごとに地を響かせる。その男の後輩であるフローレンスが息をのむ。


「……ガイア殿!」


 最後の一人は、腰に巻いた龍皮の鞭を指先で弄びながら、唇に笑みを浮かべた褐色肌の男。

 その視線は、群がるアビスタイガーを獲物としか見ていない。男の名は《龍鞭のダリウス》。


 マチルダの声が響く。


「ガイア、前をお願い。ダリウス、右を掃討して」


「承知」


 ガイアの盾が大地を穿つように叩きつけられ、衝撃波が走る。三匹のアビスタイガーが吹き飛び、樹に激突した。

 同時に、ダリウスの鞭が雷鳴のように唸り、虎の首元を正確に絡め取っては引き裂く。


「ふふ……やっぱりこの階層は楽しいねぇ」


 最後にマチルダが杖を振ると、白光の柱が天から降り、残る虎たちを浄化するように焼き尽くした。数息の間に、森は再び静寂を取り戻す。


「……助かった」


 クロスが息をつくと、マチルダは微笑んで言った。


「無事でよかったわ、マリー。そして、あなたたちも」


 アビスタイガーの群れを退けた後も、クロスたちは息を切らし、しばらくその場から動けなかった。

 マチルダはそんな彼らを一瞥し、白衣の袖で血をぬぐう。


「…あなたたち、このエリアに来るには、まだまだ修行が足りません」


 声音は冷静で厳しいが、どこか心配を含んでいた。彼女は振り返り、森の奥へと歩き出す。


「休ませてあげます。獣人たちの村に拠点がありますから、まずはそこで体を立て直しましょう」


 鬱蒼とした森を抜けると、木の柵と見張り台に囲まれた集落が現れた。門前では銀毛の獣人騎士が柔らかく笑い、マチルダと握手を交わす。


「よく来たな、人間の冒険者たち。ここでは客人だ、安心してくれ」


 クロスたちは丁寧に礼を返し、案内されたのは村の奥の大きな木造建物だった。

 中は簡素ながら清潔で、二段ベッドが並ぶ様子はまるで寮のようだ。


「荷物を置いて休んでください。……それと、マリー」


 突然名前を呼ばれ、マリーはきょとんとした顔で振り向く。


「あなた、その訛りは少し直したほうがいいわ。発声が乱れていると詠唱にも響きます」


「……ほーかほーか。ほな休もか」


 あからさまにスルーしてベッドに荷物を放り込むマリー。マチルダは小さくため息をつき、クロスに視線を送った。

 クロスは苦笑して肩をすくめるしかなかった。


「明日には一度、サンライズシティに戻ります。装備と物資を整えてから、再び第七層へ。今度は実戦訓練をしながら、潜伏している盗賊団(ブラッドムーン)を探します」


《数日後》


「クロス、いつも言ってるけど…必ず生きて帰るのよ」


「わかってるよ、叔母さん。必ず戻る」


 ジーナに見送らせながら、クロスは自宅を後にする。サンライズシティで準備を整えたクロスたちは、再び第七層へ旅立つ。


 マチルダ隊の指導のもと、実戦形式の訓練をこなしながら樹海を進む。


 表向きは腕試し。だが、その裏の目的は別にあった。

 深い森のどこかに潜伏している盗賊団(ブラッドムーン)の痕跡を探し出すこと。


 湿った風が、緑の迷宮の奥から彼らを誘うように吹き抜けていった。

キャラクター紹介 No.33

【鉄壁のガイア】

身長190センチを超える大柄な戦士。鍛え抜かれた筋肉と重厚な塔盾を武器に、前衛で仲間を守ることを信条としている。

 王国騎士団では防御戦術の第一人者とされ、「鉄壁のガイア」の異名で呼ばれる。防御一辺倒に見えるが、隙あらば鋭いカウンターで敵を怯ませる技量も持つ。

 性格は実直で義理堅く、仲間想い。ただし時折、真面目すぎて融通が利かないところがある。

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