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奈落の果ての冒険譚  作者: 黒瀬雷牙
第五章 深海都市編

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ルメナリア探索

 都市内部に足を踏み入れたクロスたちは、ようやく重圧から解放された身体を伸ばしながら、周囲を見渡した。


 天井には魔石の光が満ち、昼夜の区別を演出している。街の中央には噴水のように魔力が湧き出す《コア・スプリング》があり、その周囲には石造りの建物が立ち並ぶ。深海の閉塞感とは裏腹に、ここには人の営みと活気が満ちていた。


「さて……まずは、宿を探そうか」


 クロスが言い、フローレンスが頷く。


「けど、またあれやな……地上のゴールド、使えへんやろ?」


 マリーの指摘どおり、ここルメナリアでは独自の通貨・スケイルが使われている。地上とは異なる流通体系をもつため、ゴールドをそのまま使うことはできない。


 そして案の定、最初に訪れた宿で、持っていた地上通貨は丁寧に突き返された。


「悪いねえ、ここじゃその金じゃ泊まれないよ。スケイルじゃなきゃ、話にならねえ」


「あぁ、やっぱりか……」


 ジャンが頭を抱えたときだった。


「おーい、クロスー!」


 ひょうひょうとした声が路地の向こうから響いた。


 現れたのは、鮮やかな緑のコートに弓を背負った男。金髪の長髪を軽く揺らし、片手を上げている。


「イグニスさん…!」


 クロスが目を見開く。


 そのすぐ後ろから、長いポニーテールを揺らして歩く少女が姿を現した。整った顔立ちに凛とした眼差し。マーテルだ。


「お久しぶりです、皆さん。ご無事で何よりです」


 柔らかな声に、皆が笑顔を浮かべる。だが、次の瞬間――


「お前ら、宿代困ってんだろ? ちょうどいい。さっき、パチンコで勝ったんだよ。奢ってやるよ!」


 イグニスが、にかっと笑った。


「パチンコ……?」


 クロスが首を傾げる。


「あっちの建物、光って音が出てるでしょ? あれがここの賭博施設です。地上では見ないでしょうけど、ここの連中には人気なんですよ」


 マーテルが説明する。もちろん、この世界のパチンコは魔法由来。デジタルではなく、魔法ビジョンにて数多の()()()()()()()()使用になっている。


「で、勝ったんですか?」


 ジャンが半信半疑で問うと、イグニスは小袋を取り出して見せる。中には青銀色の楕円形の硬貨――ルメナリア・スケイルがぎっしり詰まっていた。


「へへっ、この一瞬の勝ちのために、どれだけ突っ込んだと思ってんだか……!」


 マーテルが、ふぅとため息をつく。


「イグニスさん、トータルでは……完全に赤字です。先日のAランク依頼の報酬も、ほとんど溶かしてしまって。勝ったときだけ機嫌が良くて奢るんですから……困ったものです」


「いやいや、勝ったら気分いいだろ? ほら、せっかくの再会だし、今日は奢らせてくれよ!」


 イグニスが笑って肩をすくめる。


「ほんまにアホやなぁ……けど、助かったわ。おおきに、イグニスさん」


 マリーが笑いながら礼を言う。


 イグニスは胸を張りつつ、ちらりとアニサのほうを見た。


「アニサ、おまえも元気そうだな。あの親父さんも、まだ変わらずか?」


「うん、父さんも元気。あの人、最近は深層の魚介を調理するのに夢中で……イグニスさんが食材を届けてくれるおかげで、新メニューが増えたって喜んでた」


 アニサが微笑む。


 実はイグニスは、アニサの父――かつての師匠でもある料理人の店に、定期的に深層の珍しい食材を届けていた。単なる冒険仲間というだけでなく、家族ぐるみのつながりがあるのだ。


 その後、マーテルの案内で街を散策することに。


 市場には深海の魚介、魔力を帯びた鉱石、奇妙な形の薬草など、地上では見たことのない品がずらりと並んでいた。


 そして、ひときわ目立つネオンと電子音が鳴り響く建物の前で、マーテルが足を止める。


「こちらが、イグニスさんが毎日のように通っているパチンコ屋です。任務そっちのけで……」


「おいおい、任務はちゃんとやってるってば! 合間にちょっと寄るだけだって!」


「合間が一日六時間はありますよね? 報告書、私が代わりにまとめているんですから」


 マーテルの静かな声に、イグニスが視線を逸らした。


 マリーが小声でぼそり。


「せやけどほんま……うちやったら、あの光と音に酔うてまうわ。あんなとこで勝てるん、ある意味才能やな……」


「いえ、才能というより……執念のほうが近いと思います」


 マーテルが苦笑しながら言った。


 そのやり取りに、一同がふっと笑う。


 「じゃ、オレはもう一回行ってくるからな。今度こそ一発逆転――!」


 イグニスが笑顔で手を振りながら、賭博施設・マグナ・スロットのネオンの中へ消えていった。


「……行きましたね」


 マーテルが軽く息をつく。


「元気な人やなあ……」


 マリーがぽつりと呟く。


「さて、せっかくだし行ってみないか? マーテルちゃんが言ってた……大図書館」


 ジャンが顔を上げると、マーテルが頷いた。


「はい。ルメナリア中央区、蒼環区にございます深界学術機構 大記録庫。通称・大図書館ですね。もし深層に関する情報を集めたいのであれば、あそこが一番確実です」


 そうして一行は、大図書館へと向かった。


 ルメナリア中央、コア・スプリングの裏手に建てられたその建物は、都市の中でも異様な存在感を放っていた。


 海底の白珊瑚を削り出して造られた巨大な柱がいくつも立ち並び、天井は蒼色のドームに覆われている。入り口には魔力で整形された文字が浮かび上がり、淡く光を放っていた。


「……すご……」


 アニサが息をのんだ。


「これ、全部……本?」


 扉を抜けた瞬間、そこに広がっていたのは――


 文字通り“層”の世界だった。


 円形の吹き抜けに沿って、何十層にもわたる書架が螺旋状に立ち並ぶ。空間全体を漂うのは、魔法で整えられた静謐な空気。そして時折、羽のように舞う紙片。光ではなく“知識そのもの”が空間を満たしているようだった。


「地下三階まで続いており、各階にテーマが分かれています。奈落の地理、魔物、過去の記録、深層文化……第六層に残る知識の砦です」


 マーテルが説明する傍らで、アニサがふらふらと引き寄せられるように一冊の書物を手に取った。


 表紙に刻まれた銀の印――深海生物調理法・初級編。


「……これ、父さんが……よく読んでたやつかも」


 ぽつりと、アニサが呟いた。


「ここに、置いてあったんだ」


 目を細めてページをめくるその表情は、まるで昔の自分に出会ったようだった。


「探索記録も……こんなに残ってるのか」


 クロスが別の書架を見上げ、感嘆する。


「これだけの資料があれば、次の層の作戦も立てられるかもしれませんね」


 フローレンスが低く呟く。


 マリーは地図のエリアに座り込み、珍しそうに古い筆記型の魔導書を開いている。


「……イグニスさんも連れてきたらよかったんじゃないか?」


 ジャンが言ったが、マーテルは静かに首を横に振った。


「……彼、実は一度、私と一緒に来たことがあるんです」


「へぇ、そうなん?」


「……十五分で寝ました」


「はやっ!」


 ジャンの声が吹き抜けに響いて、思わず皆が笑い出した。


…………


そのころ、イグニスはというと――


「よぉし……今度こそ流れが来てる……!」


 マグナ・スロットの奥、鳴り響く魔導チューンのなか、一人椅子に座ってスケイルをつぎ込んでいた。


 ――次の瞬間。


 カラン。


 何も起きず、ただひとつ、無情な音が響く。


「……くっ、もう一回だ」


 誰もいない図書館の奥、そして誰もいないパチンコ台の前――


 それぞれが、それぞれの知識と執念に、静かに身を委ねていた。

イグニスが語る!?

ルメナリア魔導パチンコ《俺的ナンバーワン台》


やぁやぁ、読者諸君。

今回のあとがきはちょいと趣向を変えて、ルメナリアの男が誇る娯楽…そう、魔導パチンコについて語らせてもらうぜ!


で、いきなり本題だが……


俺的オススメ第1位『七光神フェンリルMAX召喚ver.』


おれが胸を張ってオススメするのが、この《フェンリル》台だ!


見た目はやたら神々しい狼の像がどーんと鎮座してて、テンション爆上がり。

何がヤバいって、この台は発動演出がフル魔法式で、魔力が高いと演出成功率が上がるっていう、“己の魔力を信じろ”系ギャンブルなんだな。


イグニス的推しポイント:

・演出時間が無駄に長い(最高3分)

→長ければ長いほどアツい。演出だけで泣ける。まるで一本の冒険譚。

・召喚チャンスで《真・フェンリル》が出たらスケイル大放出

→一度だけ、全台注目の大爆発を起こしたことがある(※なお、その後溶けた)

・魔導演出が超豪華。音も光も脳を焼く

→正直、勝ち負けとかどうでもよくなるレベルの迫力。


注意点:

・マジで当たらない。あとマジで当たらない。

・フェンリルが吠えるときに感情移入しすぎて、周りが見えなくなる。

・財布が死ぬ。 


でもよ……

「もう無理」って思ったその瞬間、真フェンリルが出てくんだよなァ……!それを見ちまったらもう、戻れねえんだ。 


──というわけで、おれ的No.1は『七光神フェンリルMAX召喚ver.』でした。

興味あるやつは、《マグナ・スロット本館》の奥の奥に行ってみな。

※責任は取らん! 


次回はちゃんと真面目なあとがきに戻る……かもしれない、多分。

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