表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奈落の果ての冒険譚  作者: 黒瀬雷牙
第五章 深海都市編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/89

第五層踏破

 ――あれから、三年。


 クロスは、ムラサメの最期を胸に刻み、ひたすら剣を振り続けていた。

 倒れては起き上がり、血を吐きながらも、諦めることなく前を向いてきた。


 隣には、いつも仲間がいた。

 ジャン、エリス、マリー、フローレンス、そしてマーテル。

 かつて重傷を負ったアルガード、ヒルダ、イグニス、マチルダも、今や良き師であり、共に戦う仲間となっていた。


 訓練だけではない。実戦を通して、彼らは幾度も奈落に挑み続けた。そしてついに第四層、城塞地帯を、自らの力で踏破したのだ。


【奈落 第五層 火山エリア】


 灼熱の大地。立ちのぼる硫煙。激しく噴き上がるマグマの湖。

 ここは、全てを焼き尽くす地獄のような階層。


 クロスたちは今、その第五層に挑んでいた。

 目指すは階層の踏破、そしてひとつの討伐依頼。

 難易度はCランク。


…………


【火龍・インフェルノバハムートの討伐】

 報酬 5,000G。

…………


 第五層の支配者たる紅蓮の龍を討ち取ること。それが、今回の目的だった。


「ようやく見えてきたな……俺たちの“その先”が」


 火口を背に、クロスは剣を背負い直し、前を見据える。

 その眼差しに、かつての少年の迷いはなかった。


「ムラサメさん……今度こそ、俺が証明します。ここからが、本当の俺の戦いだ」


 次の瞬間、火口の底から轟音が響く。マグマが爆ぜ、天を焦がす炎の塊が姿を現す。


 《火龍・インフェルノバハムート》


 全長十五メートル。灼熱の鱗に包まれた巨体。

 翼を広げるだけで超高熱の暴風が吹き荒れ、その眼に宿る光は、理性さえ感じさせる。


「来るぞ!!」


「クロス、どうする!?」


 ジャンが斧を構え、身構える。フローレンスも剣に炎を灯す。


「落ち着け。マリー、ジャンに支援を。エリス、マグマの感知! フローレンス、左脚を狙って!」


「任されたわ!」


「風と氷よ……敵の動きを縛れ!」


 エリスの魔法が展開され、冷気が火龍の足元にまとわりつく。

 動きが鈍った瞬間、ジャンが突進。


「おおおおおッ!!」


 大斧が火龍の脚に食い込み、呻き声が響く。

 だが次の瞬間、火龍が翼を広げ、溜め込んだ炎を爆発させる。


「クロス、右! 来るよ、爆熱波!!」


「全員、右に回避!フローレンス、今だ!」


「はっ!」


 フローレンスの炎剣が唸り、火龍の喉元を焼く。

 灼熱に炎をぶつける無謀な戦術……だが、彼女の一撃は確かに効いていた。


 戦いはまさに死闘だった。


 バハムートが吐き出す紅蓮のブレス。翼の一撃で舞い上がる超高熱の風。

 そのひとつひとつが、命を削っていく。


「神よ、この者に癒しを……ジャン、起きや!」


 マリーの回復魔法が、傷ついた仲間を支え続けた。


「うおっ……助かったぜ!」


 再び立ち上がったジャンが、火龍の尾を防ぎ、クロスが指示を飛ばす。


「今だ、総攻撃をかける!」


 合図と共に、エリスの氷魔法が火龍の翼を封じ、フローレンスが連続で斬撃を叩き込む。

 ジャンの斧が脚を砕き、火龍は大きく体勢を崩した。


 だが、それでも沈まない。


「グオオオオオオオアアアアアッ!!」


 怒り狂った火龍が、最期の紅蓮のブレスを溜め始める。


「クロスっ……!」


 マリーの声が震える。

 その中で、クロスは静かに前に進み出ていた。


「……ムラサメさん。今なら、あの背中に少しは届くかもしれない」


 剣を逆手に構え、跳躍。


 燃え上がる炎を裂き、紅蓮の巨体へと迫る。

 そして、叫ぶ。


「これで、終わりだ!!」


 青白い斬光が、火龍の首元を貫いた。

 インフェルノバハムートの巨体が崩れ落ち、灼熱の風が止む。


「終わったの……?」


 フローレンスが呆然と呟き、マリーがほっと胸を撫で下ろす。


「うん……ほんま、ようやったわ……!」


 ジャンはその場に座り込み、肩で息をしながら笑う。


「クロス……すげぇじゃねぇか……!」


 仲間の視線を一身に受けながら、クロスは剣を地面に突き立てて言った。


「……これが、今の俺たちの力だ」


 その瞳には、かつて最前線を駆けた男の面影が宿っていた。


【奈落 第六層 深海エリア】


 踏破を果たし、門をくぐった一行は、軽い興味から第六層へと足を踏み入れる。


 そこは、水没した世界だった。


「がぼっ!?(……息がっ!)」


 思わず水を飲みかけた仲間の叫びに、エリスが素早く杖を構える。


(ブリージア・ドーム)


 彼女の魔法が発動し、淡い光の膜が一行を包み込む。次の瞬間、膜の内側に新鮮な空気が満たされ、水が弾かれるように押しのけられた。


「っはぁ……助かった……死ぬかと思った……」


「まさか、第六層が完全な水中とはな……」


 息をつきながら、仲間たちは目前の幻想的な水没都市を見つめた。深海世界アビスネレイダ。かつて沈んだ古代王国の遺構。今は、瘴気と異形がうごめく死の世界。


「……引き返そう。今はまだ、早すぎる」


 クロスの言葉で、一行は地上へと帰還した。


【サンライズシティ】


「お疲れさん! 第五層踏破、おめでとう!」


 報酬を手にした一行は、街の名店・アビスレストランで祝杯をあげた。


「ほら、これはオレからの奢りだ!今日は思いっきり食えよ!」


 大将が振る舞ったのは、アビスシャークを使ったフカヒレや煮付け。


「うっま!」


「……この素材、どこで手に入れてるの?」


 エリスの質問に、大将はにやりと笑う。


「ベテランの冒険者から仕入れてるのさ。きっとアニサも同じように調達してるだろうな」


「アニサか……そういえば、しばらく顔見てないな」


「うちも気になるわ。元気しとるんかな……」


 その何気ない一言が、次なる冒険の始まりを告げる。


 後日、一行は第二層へと向かう。アニサの消息を確かめるために…

ボスモンスター紹介 No.5

【火龍・インフェルノバハムート】

第五層火山エリアの支配者にして、階層ボス。

その存在は古く、奈落が形成される以前、「世界の深き断層」において封じられていたという。

現在の姿は、かつて神をも焼き尽くしたとされる《原初の炎》を内包することで変異・進化したもの。

その鱗は魔剣すら通さぬほどの超高熱を纏い、翼の羽ばたきだけで街一つを灰に変える。

バハムートと名はついているが、神話に登場する竜とは明確に異なり、これは“模倣”の姿。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ