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奈落の果ての冒険譚  作者: 黒瀬雷牙
第四章 血と鉄の城塞編

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次会う時は…

 薄暗い石畳の広場に、怒号が響いた。


「くっ……クロス、おまえ……いきなり何を……!?」


 ペイルがわざとらしく地面に転がりながら、叫ぶ。


「皆! 聞いてくれ! こいつは……こいつは盗賊団のスパイだ!」


 その一言に、周囲の冒険者たちがざわついた。駆けつけた仲間たちも、驚きに目を見開いている。


 ペイルは地を這いながら、震える声で続けた。


「俺はさっき、こいつが盗賊団と密談しているのを見た! 逃げようとしたら、口封じに襲われたんだ!」


 それを聞いても、クロスは動じない。ただ、じっとペイルを見据えた。


「……口封じのために襲ったってか?」


 静かに、クロスが言う。


「だったら一つ聞かせてくれよ」


 ざわめく冒険者たちの間を縫って、クロスは一歩、前へ。


「俺がスパイって、どうしてそんなにすぐ言い切れる?」


 ペイルが瞬時に反応する。


「な、何を……?」


()()()()()()()()だけじゃ、俺が盗賊団の仲間かなんてわかるはずがない。密談の現場を見たって言うが、それならなぜ密談相手のことを一言も言わない?」


 言葉が鋭く突き刺さる。冒険者たちの視線が、徐々にペイルへと移っていく。クロスは追い打ちをかけるように、声を張った。


「お前、俺に気づかれたとき、まだ誰とも会ってないって言ったよな。……なら、密談を見たって話はどこから出てくる?」


 ペイルの顔から血の気が引く。


「嘘は、整合性を突けば崩れる。特に、お前みたいな口先野郎のはな」


 その瞬間、ペイルの表情が変わった。苦悶と恐怖の演技を脱ぎ捨て、鋭い目つきと殺意を込めた声音へと変わる。


「……ふふ、舌の回る奴だ。だが、今この場で斬ればそんな理屈も意味を持たなくなる」


 ペイルは手を払うようにしながら、背後の影へと後退し始める。


「今日は引いてやるよ、クロス。だがな――」


 その声は低く、冷え切っていた。


「次会ったときは、必ずお前を殺す」


 その言葉を最後に、ペイルの姿は闇に溶けた。冒険者の一人が駆け出すが、追跡は間に合わなかった。


 残されたクロスは、ただ剣をおさめ、深く息をつく。


 冒険者たちが駆け寄る。


「クロス……今の、あれは……?」


「……裏切りです。気づくのが、もう少し遅ければ、逆にこっちが消されてた」


 誰もが言葉を失った。


 確かにこの奈落では、信頼すら武器になる。だが、それが牙を向くこともある。


 そして、クロスの心には冷たい火が灯っていた。


(次会ったときは、必ずお前を殺す…か。そん時は必ず返り討ちにしてやる!)


…………


 崩れかけた監視塔を中心に、戦場は血と絶望に染まっていた。


 鋭い発砲音が響くたび、冒険者の一人が倒れていく。頭、胸、喉――どの部位も狙撃は正確無比。風すらも捉えるその精密さに、誰も反撃の糸口を見出せずにいた。


 狙撃手の名は《七芒星》No.1・百中のリゼルグ。

 その手に握る銃、灰燼ノ眼(カタストロファ)は、空間ごと弾道を歪め、遮蔽すら意味をなさない。まさに殺しに特化した一丁だ。


「よそ見すんなや!リゼルグ!!」


 対峙するのは冒険者ランキング現三位のイグニス。リゼルグはその姿を認めても、焦りは微塵も見せない。イグニスの正確無比の矢を当たり前のように外し、ただ軽く口角を上げた。


「……こざかしいな、先に死ぬか?」


 イグニスの頬を弾丸が掠めるも、致命傷は避ける。風を纏った弓が唸る。


「……その気味の悪い笑い、止めさせてもらうぜ」


 矢羽が風を裂いた。空気が圧縮され、風の渦が生まれる。同時にリゼルグも追撃を放つ。

 発砲、風が巻く。視認できぬほどの高速戦。風と鉛が空中で衝突し、火花を散らす。


「ッ……!」


 イグニスの左脇腹に弾丸が食い込む。呻き声を上げながらも、風を利用して体勢を崩さず、次の矢を番える。


 狙うは、相手の“肩”。


「……穿て、疾風閃(しっぷうせん)!!」


 風が矢に圧縮され、一直線に伸びた。


 次の瞬間――


 ズガンッ! という衝撃音とともに、リゼルグの左肩に風矢が突き刺さった。


「……ふぅん」


 血が滲む。確かな命中。だが、リゼルグは、やはり笑っていた。


「なるほど……かなりの手だれだな」


 そう言いながらも、銃を下ろし、軽く肩を回す。痛みすら余裕の中に飲み込むその姿は、まさに“化け物”だった。


「だが、ここからは俺の出番じゃない」


 イグニスが警戒を強める。


「……どういう意味だ」


 リゼルグは踵を返しながら、言葉を残す。


「リスクは取らない主義なんだ。僕には最強のバックがついてるからね。あとは、彼らが仕上げてくれるよ」


 風に乗せて、余裕の笑みだけを残し、彼は戦線を離脱した。残されたイグニスは、膝をつきながらも、矢を番えたまま空を睨んだ。


(逃げたか……だが、手応えはあった。確かに届いた。次こそは)


 風はまだ、彼の背に吹いていた。


キャラクター紹介 No.31

【ペイル】

かつては仲間思いの冒険者として知られた男。だが、その正体は盗賊団・ブラッドムーンと内通していたスパイである。

目的は奈落探索における戦術情報と魔石ルートの横流し。

表向きは温厚で協調性の高い性格を装っていたが、本性は狡猾で打算的。敵を正面から倒すよりも、裏から刺す方を選ぶ。

実力は中堅止まりながら、情報操作・人心掌握・虚偽演技に長けており、状況を作る力には秀でる。

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