マリー=トワイライト
《最初の探索から1週間後》
クロスはジャンと待ち合わせている冒険者ギルドに向かう。冒険者ギルドに着くと既にジャンはいた。
外は晴れており、絶好の冒険日和だ。
「悪い、待たせた」
「よぉ、はやく受付済まそうぜ!」
2人は受付嬢から依頼リストを見せてもらう。ほとんど実績の無い2人は8段階中最下位のGランクの依頼しか受けられない。
…………
【大ネズミの牙を3つ納品】
報酬 300G
【大コウモリの羽を3つ納品】
報酬 450G
【奈落草を3つ納品】
報酬 240G
薬草
…………
「似たような依頼ばかりだな」
「それが今のあんた達の実力よ」
受付嬢の言葉は辛辣だったが、事実だ。到達層がまだ第一層…すなわち、レベル1の彼らはこの程度の依頼しか受けられない。
クロスは書物で得た知識を思い出す。大コウモリの羽は珍しい素材だということを知っていた彼は、より確実性のある「大ネズミの牙」の依頼を選んだ。
その後、パーティの補強を考えて待機中の冒険者を探したが、奈落に潜る初心者は少ない。ようやく同じGランクの新人を一人見つけ、三人でパーティを組むこととなった。
「うち、田舎から来たマリー=トワイライトやよ。奈落はこれで三回目やねん。よろしゅうな〜」
「おう、俺がジャンで、こっちはクロスだ」
「よろしくな、マリー」
一見頼りなさそうな少女だったが、チームになったからには共に冒険するしかない。
3人は奈落に到着する。体力作りの甲斐もありクロスはあまり疲れていない。さっそく入り口に入り、今回の冒険がはじまる。
【奈落 第一層 遺跡エリア】
「さっさとネズミどもを狩ろうぜ」
ジャンはやる気満々で探索を進める。前衛はジャンとクロスが、後衛にはマリーの配置だ。さっそく大ネズミと遭遇する。
「いくぜー!」
ジャンは斧で切り掛かると大ネズミは吹き飛ぶ、すかさずクロスは剣でトドメを刺した。
「お見事やな〜!」
「まぁな!…お、さっそく1個目だぜ」
さっそく大ネズミは牙をドロップした。幸先のいいスタートだ。
「あそこにもいるぜ」
ジャンは先制攻撃で撃退、またしてもドロップする。
「やったぜ、あと1個だ!」
「わぁ〜、ラッキーやんか!」
その後、大コウモリや大ネズミを数匹討伐し、疲労が蓄積する。最後の1つはなかなか手に入らなかった。探索中にクロスは宝箱を見つける。宝箱を開けると綺麗な指輪が入っていた。
「何だこれ?」
「おっ、そんなん免疫の指輪や!毒、効きにくぅなるやつやで〜」
マリーの説明を聞き、クロスはさっそく指輪を装備する。
「おい、いるぜ。2匹も」
ジャンは大ネズミを2匹見つける。何かを食べているようだ。大ネズミに集中していた3人は後ろに迫るモンスターに気付かなかった。
「シャーー!」
「痛った!何だ!?」
クロスは噛まれてダメージを受ける。そして今の声で大ネズミにも気づかれた。
「あかん!毒トカゲや!こいつ、ちょっとやそっとじゃ倒されへんで、気ぃつけてな!」
「ち、挟み撃ちか…」
クロスは毒トカゲ、ジャンは大ネズミ二匹と交戦。マリーは後方で杖を構え、慎重に機をうかがっている。
クロスは剣を振るが、毒トカゲの俊敏な動きに翻弄される。逆に噛みつかれ、じわじわと体力を削られる。
一方のジャンも、二匹のネズミの連続攻撃に押されていた。
「ち、不味い…」
ジャンのダメージは蓄積されて大きい。そのとき、マリーは祈りを捧げる。
「神よ、この者に癒しを」
ジャンは傷が治り、体力が回復する。
「よし、いける!!」
大ネズミが2匹同時に飛びかかる刹那、斧をもったまま回転する。
「回転斬り…ってな!」
2匹の大ネズミは同時に倒された。そして牙を1個ドロップした。
一方、クロスは何度か噛まれてダメージを受けていた。次に毒トカゲが飛びかかる刹那、タイミングを合わせて剣を振り下ろす。毒トカグはその一撃を受けて倒れた。
「なんとか、なったか…」
「あんだけ噛まれても、毒にやられてへんなんて……指輪のおかげやねぇ」
大ネズミたちが食べていたのは、無残な姿の冒険者だった。マリーはその遺体から無事な装備を見つけ、クロスに差し出す。
「うち思うんやけど、あんたみたいな前衛には、これくらいの装備が必要やと思うねん。この人の無念……せやから、その気持ちも一緒に背負ってあげてな」
クロスは黙ってうなずき、青銅の籠手と足鎧を装備した。
奈落を後にした三人はギルドで報酬を受け取り、それぞれ三等分した。
「また、いっしょに冒険できたらええなぁ。うち、楽しみにしてるんよ」
「だな、また頼むよ!」
マリーとの再会を願いつつ、クロスは今日も無事、地上へと戻ってきたのだった。
キャラクター紹介 No.4
【マリー=トワイライト】
光属性の魔導士で、主に回復魔法を得意とする新人冒険者。田舎の村からやって来た、方言まじりの素朴な少女。
まだ奈落歴は浅いものの、冷静な判断力と知識量には光るものがある。
本人は「よわっちぃ」などと謙遜するが、窮地の仲間を支えるその姿勢は、本物のヒーラーの資質を持っている。
優しさの中に、確かな覚悟を秘めた一人。