表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奈落の果ての冒険譚  作者: 黒瀬雷牙
第四章 血と鉄の城塞編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/89

沈む城塞、浮かぶ真実

 瘴気の渦巻く空の下、戦場は次の局面へ突入していた。ペシミスティの気配は地を這い、空間そのものに絶望の色を滲ませていく。


「奴を止めなければ、おそらくモンスターは無尽蔵に沸き続ける」


 ムラサメは数人の精鋭と共に、城塞地下の通路を駆けていた。マーテルもその一人だ。

 ペシミスティが隠れているつもりでも、ムラサメほどの男には、濃密な瘴気の流れがありありと見えている。


…………


 地上では、冒険者たちが辛うじて戦線を維持していた。

 ムラサメの無双が戦況の均衡を保っていたものの、その隙間を縫うように“影”が動いていた。


「ふふ……愚かな奴ら。私たちに逆らうなんて」


 冒険者の背後から次々と命を刈り取るその影。

 黒の刺繍を胸に、影縫いのアルカトラが微笑む。這う影が光をねじ曲げ、空間の輪郭すら歪ませる。


「背後のみを狙った戦い方……気に入りませんね」


 立ち塞がるは、炎の女騎士フローレンス。紅蓮の剣が火花を巻き上げ、アルカトラの影を焼き払う。


「ふぅん……一目でわかったわ。私はあんたが嫌い」


「そうですか。気が合いますね」


 炎と影、相反する力が火花と共にぶつかり合う。

 剣戟のたびに、火が踊り、闇が裂ける。


…………


 同じ頃、崩れた城壁の向こう。血と薬品の臭いを漂わせ、赤い刺繍の男が姿を現す。瘴気を纏った改造魔獣がその背に従っていた。


「おや、神聖職か。光の使い手には興味があるんだ。

 人体の臨界を、どこまで引き延ばせるか……是非、試させてほしいね」


 その場に立ちはだかったのは、光魔導士マリー。メイスを手に、結界の中心に立つ彼女は、鋭い眼光をサリヴァンに向ける。


「……あんた、マジで性根腐っとんな。命、なんや思てんねん。好きに弄んでええ道具ちゃうんやで?」


 サリヴァンは興奮気味に笑みを浮かべる。


「感情の反応が良好だ……うんうん、最高の素材だね!」


「どアホッ! 調子乗んのもそこまでや!」


 メイスが振るわれるたび、光の結界が瘴気を弾き飛ばし、毒を打ち払う。周囲の仲間たちも連携して改造魔獣たちを次々に討ち取り、サリヴァンを包囲していく。


…………


 その一方、空間がじわじわと霞み、空気すら夢に飲まれる。精神に干渉する瘴気が冒険者たちの意識を奪っていく中、中心に佇むのは蒼夢のセラヴィオ。


「おやおや? 君、心が強いねぇ……私の領域にいながら、正気を保つなんて」


 視界にちらつく過去の記憶。幻でも夢でもない、だが確かに見せられている。


「……私の記憶を、勝手に覗かないで」


 冷ややかに睨み返すのはエリス。精神干渉への強い耐性を持つ彼女の視線は、まるで一筋の硝子の刃のように鋭い。


「感情とは実に美しい構造だ。君のそれは、強くて硬い反面、繊細で壊れやすそうだ……私の研究対象に最適だね」


「……言っとくけど、壊れやすいもんほど、強くなるときもあるのよ」


 エリスは手際よく薬瓶を取り出し、抗幻覚処理を施した霧状の魔法液を散布。周囲の冒険者たちと連携し、精神攻撃を打ち破りながら、セラヴィオに迫っていく。


…………


 瘴気の中、クロスは必死に思考を巡らせていた。魔物、盗賊、改造魔獣――あまりにも整った配置。そして、“待ち構えていた”かのような襲撃。


「何か引っかかる……盗賊団が事前に攻撃を予測していたということは、俺たちの行動が漏れてたってことだ」


「おい! どうかしたのかクロス!」


 ジャンが敵を薙ぎ払いながら叫ぶ。


「ジャン! 俺の周り、任せていいか!?」


「……何かあるんだな? わかった、任せろ!」


 クロスは剣を構えながら戦場を見渡す。

 仲間たちは懸命に戦っているが――その中で、一人だけ。


「……いた!」


 魔法を放っているフリをしながら、実際には仲間の動きを誘導し、意図的に不利な位置に導いている男。

 しかも、魔物も盗賊も、彼には一切攻撃していない。


「やっぱり……あいつ、内通者だ!!」


「は!? マジかよ!」


 クロスは叫ぶと同時に駆け出し、剣を振り下ろす。

 だが、男――ペイルはあっさりと防御魔法でそれを受け止めた。


「バレたか……まぁいい。お前程度なら、始末しても構わん」


「ふざけるなっ……お前は、絶対に許さない!!」


 剣を構えるクロス。裏切り者・ペイルと、剣と魔法が激突する。


 その瞬間――


「クロス、加勢す――ッ!?」


 ジャンが駆け寄ろうとした時、突如として現れた異様な魔物がその場の空気を塗り替える。


 禍々しい王冠を戴き、全身から瘴気を噴き出す怪物。第四層にて稀に目撃されるレアモンスター。


 ダーククラウン


 ジャンの全身が、直感的に“警告”を叫ぶ。


 ――こいつには、勝てない。


 その絶望の波動に、周囲の冒険者たちが足を止める。だが、冒険者たちは立ち上がる。複数人がジャンの前に立ち、共に剣を振るう。


「下がるな、ジャン!」「俺たちがいる!」


 クロスとペイルの戦い、フローレンスの剣、マリーの結界、エリスの薬霧――

 すべてが同時に、戦場の熱をさらに高めていく。


 奈落第四層、決戦の幕がいま、完全に上がった。

キャラクター紹介 No.28

【マチルダ=トワイライト】

白魔道士としては、現時点で冒険者界最強の治癒能力を誇る実力者。複数の層を踏破し、数多の命を救ってきたその実績は、多くの冒険者から信頼を寄せられている。

彼女は、マリーの叔母であり、マリーの父・ダニー=トワイライト、そして今は亡き伝説の冒険者・アシュリー=トワイライトの妹でもある。

だが、彼女は家族と少し違う。マリーやダニー、アシュリーが皆、明るくどこか飄々とした口調を持つのに対し、マチルダだけは完璧な標準語を使う。

その理由は、彼女が生まれ育ったキキモラ村という田舎出身という事に対して、強いコンプレックスを抱いているからだ。

「訛りなんて持ってたら、まともに評価されない」

と、幼い頃から意識的に矯正し、今や一切の方言を見せない。それゆえに、冷静沈着で合理的な性格に見られることも多いが、その心の奥には、家族を超えたいという切実な想いと、言葉では言い表せない郷愁が、静かに燻っている。だからこそ彼女の癒しの魔法は、誰よりも正確で、誰よりも温かい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ