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奈落の果ての冒険譚  作者: 黒瀬雷牙
第一章 旅の始まり編

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ジャン=アルバトロス

 クロスとジャンの二人は、街へ戻ってきた。

 ここまでの道のり、言葉はなかったが、街の景色を目にすると、ようやく緊張がほぐれ、会話を交わし始めた。


「なあ、あの二人……ジャンの友達だったのか?」


「いや、今朝ギルドで知り合ったばかりだ。一層の探索なら、適当な奴らと組めばいいと思ってさ」


「仲間って、そんな風に集められるんだな」


「ああ。ギルドに来てる依頼も受けられる。うまくいけば小遣い稼ぎにもなるぜ」


 そう話しているうちに、二人は冒険者ギルドに着いた。


「まあ、もう帰ってきたの? 早かったわね」


 受付の女性が、ジャンに声をかけてくる。


「依頼は達成できた?……あれ、一緒に行った二人は?」


「……すまねぇ。すぐに盗賊に襲われて……あいつら、死んじまった。それに、牙も一つ足りねぇ……」


 ジャンが受けていた依頼は、「大コウモリの牙を三本、納品すること」。

 クロスはそれを聞くと、カバンから牙を一つ取り出した。


「これ、使いなよ」


「お、お前……いいのか?」


「いいって。別に、いらないし」


 ジャンはその牙を受付に渡し、依頼報酬として300Gを受け取った。


「三本で300Gだから……お前に100G、やるよ」


 口は悪いが、義理堅い。

 二人はそのまま、ギルドに併設された食堂へ向かった。昼には少し早かったが、空腹には抗えなかった。


「ギルド証、見せてくれよ」


 ジャンは運ばれてきたカレーを食べながら、クロスのギルド証をのぞき込む。

 ギルド証には、冒険者のレベル、名前、生年月日、住所などが記されている。

 特殊な魔法が施されており、レベルは持ち主の到達層に応じて自動で更新される仕組みだった。


「お、同い年じゃねぇか。なあクロス、お前はなんで奈落を目指してるんだ?」


「……両親を探すためだ。もし死んでいたとしても、せめて骨だけでも……連れて帰りたい」


 クロスはパスタを口に運びながら、静かに答えた。


「ユグフォルティスって言ったな……

 クロス、お前、もしかして……ジークとグロリアの息子か?」


「ああ。ジャンの親父さんは、うちの両親と同じパーティだったのか?」


「そうだ。親父の名前はギルバート。……お前の両親と一緒に、奈落を駆けてたらしい。

 俺の目的はな……病気の妹を助けることだ。

 奈落の深層に、どんな病も癒す『百薬の水』ってのがあるらしい。俺は、それを手に入れたいんだ」


 食事を終えると、二人はギルドを後にした。


「なあ、クロス。七日後って、仕事あるか? もし休みなら、また一緒に奈落へ行かねえか?」


「俺、仕事してないし、いつでも行けるよ」


「なんだよ、ニートかよ。仕事、紹介してやろうか?」


「遠慮しとくよ……。でも、初心者の俺でも、一緒に行っていいのか?」


「……すまん、実は俺もまだ二回目なんだ。今朝は偉そうなこと言って、ごめんな」


「そうだったのか。気にしてないよ。俺も一人じゃ心細いし……よろしく頼む」


 二人は固く握手を交わし、それぞれの道へと帰っていった。

 クロスにとって、それは初めての仲間だった。


ーーーー


 翌日、クロスはひどい筋肉痛に見舞われた。

 長らく動いていなかった体に、奈落の探索はあまりに苛酷だったのだ。


「体、作り直さないとな……」


 午前中、彼は両親の残した奈落探索の記録書を読み漁る。

 まるで誰かに伝えるためのように、二人の経験が事細かに書き綴られていた。


 午後からは軽いジョギングを始める。

 体力不足を補うためだ。早めに食事を済ませ、その日はしっかりと休息を取った。


「……あんた、最近どうしたの?」


 そう尋ねたのは、叔母のジーナ。

 記録書に目を通したり、急に体を鍛え始めたクロスに、違和感を覚えていた。


「体力作りだよ。準備が必要なんだ」


 次の日も、そのまた次の日も、クロスは奈落の勉強と体づくりに励んだ。

 今度こそ、無様な姿は見せない。

 両親を探しに行くのだから、自分が死んでは意味がない、そう強く胸に刻んだ。


ーーーー


 ジャンはその一週間、働きづめだった。

 奈落に挑むためには、強い装備と十分な道具が必要だ。だが生活費もかかる。


 工業高校を卒業してすぐ、ジャンは働き始めた。

 初めての給料で狭い実家を飛び出し、アパートを借りた。祖父と母と妹の四人暮らしでは、あまりに窮屈だったのだ。

 アパートには妹がよく遊びに来ていた。

 その後の給料は、家賃と食費に消え、余った金は酒と飯に費やしていた。


 だが、半年前。運命が変わった。

 妹が、原因不明の病に倒れたのだ。医者も手が出せない。絶望の中、祖父が言った言葉が、ジャンに一筋の光を灯した。


「わしが若ければ……この命に代えてでも、奈落へ百薬の水を取りに行くというのに……」


「じいちゃん……その百薬の水って、何なんだ?」


「あらゆる病を癒すと言われる、奇跡の水じゃよ」


 その夜、ジャンは心に誓った。


「俺が、必ずマロンを助ける」


 それからというもの、彼は一日も無駄にせず、強さを求めて努力を重ねた。

 仕事の合間にも情報を集め、装備を整え、自分自身を鍛えていった。

 妹を救うために――その思いが、彼を突き動かし続けていた。


 こうしてジャンは、奈落への探索を始めたのだった。

キャラクター紹介 No.3

【ジャン=アルバトロス】

鍛え上げた肉体で戦う土属性の冒険者。無骨な口調とは裏腹に、面倒見が良く仲間想い。

妹・マロンの命を救うため、あらゆる病を癒すという“百薬の水”を求めて奈落へと挑む。

その父は、かつて伝説と謳われた冒険者・ギルバート=アルバトロス。だがジャン自身は、その名に頼ることなく、己の拳で道を切り拓こうとしている。

――「誰かのために強くなる」。それが、彼の生き方だ。


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