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奈落の果ての冒険譚  作者: 黒瀬雷牙
第二章 異界の砂漠編

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第二層踏破

【奈落 第二層 砂漠エリア最奥】


 第三層への門が見え始めたそのとき、地面が大きく揺れた。


「ッ……来たか!」


 砂を割って現れたのは、巨大な地中生物。


《タイラントワーム》


 かつてクロスたちを退けた、奈落第二層の主とも言える存在だった。…だが、今回は違う。


「前に会った時の俺たちだと思うなよ…!」


 クロスが、仲間たちを見渡す。


「各自、配置につけ! 突破するぞ!」


「任せとけ!」ジャンが大斧を肩に担ぎ、砂を蹴った。


「風、導いて」エリスが静かに手を広げる。


「魔力、集中……っ」マリーは指先に光を溜め始める。


 ワームが咆哮を上げ、砂嵐を巻き上げながら突進してくる。


「ジャン、右に回り込んで目を引け! エリス、左から目元を狙え! マリー、射線は正面。タイミングは俺が合図する!」


 クロスの声が、全員に届いた。


「行くぞ……!」


 ジャンが砂煙を切り裂いて走る。装備する斧の大きさに似合わぬ加速力。

 斧が振るわれるたび、地を震わす衝撃と共に、タイラントワームの外殻に亀裂が入る。


「砕けろッ……!」


 斧の一撃が、タイラントワームの側面の硬殻を削ぎ取った。タイラントワームが反撃しようとする瞬間…


「風よ、切り裂け… ウィンドスラッシュ!」


 エリスが跳躍し、宙を舞いながら繰り出した連続の斬撃。風の刃が乱舞し、ワームの目元に細かい裂傷を刻む。


 見た目には小さな傷、だが確実に奴の視界を奪っていた。タイラントワームは怯み、攻撃が止まる。


「いける……いまやっ!」


 マリーが指を前に突き出し、魔力を一点に集中。


「エルライト!」


 収束された純白の光弾が放たれ、ワームの咆哮口を直撃。苦鳴が砂漠に轟く。


「クロスーっ!」


「今だ……!」


 クロスが抜き放ったブルーチタンの剣が、まばゆい青光を放つ。その鋭い一撃は、タイラントワームに確かなダメージを与える。


 その瞬間、攻撃を繋げるがごとく、フローレンスが一歩、前に出た。


…………


《数日前。王国騎士団の訓練所》


「フローレンス、君は自分に魔力があることに気づいていないな」


 そう言ったのは、アルガード。最強の騎士として、未来を担う若手にアドバイスをする。


「君の魔力は、剣技と相性が良い。だが、もっと深く見つめてみるといい。剣を振るう感情…そこに宿っている()を、感じてごらん」


「色……?」


「君は、怒りや激情で動いているわけではない。だけどその胸の奥には、確かに燃えているものがある」


「……私は、みんなを守りたい。強い相手の前でも、退かないために」


「それだ。その思いが、炎を生む。魔力には属性があるが、心のあり方によって変化することもある。自覚すれば、剣に宿すこともできる」


 剣を握り直したフローレンスの瞳に、かすかに紅の光が灯った――。


…………


 フローレンスは、静かに剣を構えた。


「……私は、退かない」


 風に揺れる赤の髪の中、さらに紅い光が走る。


「私の炎を、お前に見せてやる!」


 剣を構え、一気に踏み込む。タイラントワームが大口を開けて迎撃しようとした刹那――


緋断(ひだん)!」


 フローレンスの剣が火を纏い、一直線に閃光となってワームの体表を切り裂いた。


 炎の斬撃が、内部へと貫通し、その瞬間、爆ぜた。


 タイラントワームが悲鳴ともつかぬ絶叫を上げて暴れ、ついにはその巨体が崩れ落ちるように沈み、消滅をはじめる。


 砂嵐が止み、静寂が戻る。


 フローレンスは息を切らせながら、なおも構えを解かず、その場に立ち尽くしていた。震える腕、痛む足。それでも、彼女の瞳には、確かな光が宿っていた。


(……私は、もう逃げない)


 父の名に縋るだけの自分は、ここにはいない。誰かの背を見て羨むだけだった少女は、今、自分の力で道を切り拓いた。


(私も、あの人のように)


 かつて、マリーの姿に感じた“輝き”。


 あのとき胸を刺した悔しさと羨望が、いまや自分を支える力に変わっていた。


 強くなりたい。誰かのために。


 その願いは、今も変わらない。


 けれど、今のフローレンスはもう、あの夜の窓辺で項垂れていた少女ではなかった。


「――見ていて、父さん。私は、ここから強くなる」


 風が吹く。砂を巻き上げながら、それは確かに、彼女の決意を祝福しているようだった。


「さすがだぜ、フローレンス」


 ジャンがつぶやいた。マリーが息を弾ませながらも、顔を上げる。クロスが頷き、仲間たちを見渡す。そして、剣を収めながら口にした。


「行こう。第三層だ」


 フローレンスが、最後に振り返って消えていくワームを見つめる。彼女の剣先には、まだ小さく、だが確かに紅い残火が揺れていた。


 タイラントワームの残骸が砂に還り、静寂が訪れたあと。クロスたちは、巨大な岩盤に穿たれた、古代の石扉の前に立っていた。


 それが、奈落第三層・大迷宮への門。


「ようやく……ここまで来たな」


「気配が……ただならねぇな」


 ジャンが斧の柄を握り直す。エリスも風を読むように目を細める。


「空気の流れが変わってる……この先、ただの通路じゃない」


 クロスがそう言って、扉に手をかける。石扉は、低く呻くような音を立ててゆっくりと開いた。


「……! なんやこれ……」


 マリーが目を見張る。中にあったのは、朽ちかけた祭壇のような構造物。無数の古代文字が床に刻まれ、天井には砕けたレリーフが逆光に照らされていた。


 その中央に、聖なる輝きを放つ魔法陣が存在していた。


 一行が魔法陣に触れ、奈落の淵に戻ろうとした時だった。マリーがこんな事を呟く。


「……あの奥、めっちゃ気ぃならへん?」


「……ちょっとだけ覗いてみるか」


 クロス達は少しだけ第三層を進んでみる。


「お!?宝箱じゃねーか!!」


 ジャンは意気揚々と箱に向かう。


「待って!!」


「うぉ、なんだよエリス」


「ちょっと離れてて、脳筋君」


 エリスはジャンにそう言って、宝箱に向かってウィンドスラッシュを放つ。


「ギョエエェェ!!」 


 すると宝箱から鋭い牙と魔神の如し屈強な手足が伸びる。


「な、なんじゃこりゃー!!」


「やっぱりミミック…!早く逃げるわよ、私達の勝てる相手じゃない!」


 一行は一目散に魔法陣に駆け込み、奈落の淵へと転送された。


「びびった〜、あんなん反則や」


 マリーがへたり込む。普段は元気な彼女も、今回は心底驚いたようだ。


「つか……喰われるかと思ったわ……」


 ジャンが頭をかきながら苦笑した。


「レアモンスター、ミミック。倒せば珍しい武器やお宝を落とすけど、その強さは第三層のレアモンスターとされるほどよ」


 エリスが説明しつつも、額には汗。油断すれば誰だって餌食になっていた。


「……とりあえず、生きて帰れたことに感謝だな」


 クロスがそう呟き、目を細める。フローレンスは振り返り、第三層を思い返す。


「次にあそこへ行くときは……覚悟を決めなきゃいけないわね」


 剣に宿る紅の残火は、今は穏やかに静まり返っていた。


 しかし、それはいつでも再び燃え上がる。仲間を守りたいという想いがある限り――。


「フローレンス、あんた……その剣、火ぃついてたな」


「……気づいてましたか」


「そりゃ気づくって。うち、魔法の専門やし」


 フローレンスは照れくさそうに視線を逸らした。


「ちょっとだけ、気持ちが剣に乗っただけ」


 その横顔を、クロスはふと見つめた。今、彼女だけではない。皆が確かに、前よりも強くなっている。


「……俺たち、ちゃんと進めてるな」


「まぁな、ミミックからは逃げたけどな」


 ジャンの軽口に、皆がクスリと笑った。


 血の気の引く戦いの後に、こんなふうに笑える時間がある。それが何より、仲間たちの強さの証だった。


 そして、再び静かに戻った《奈落の淵》に、夕日が差し込み始める。


「じゃあ、一度サンライズシティに戻ろう。休んで、補給して……それから改めて、第三層に挑む」


 クロスは、マリー、ジャン、エリス、フローレンスの順に視線を送る。


「――俺たちなら、きっと行ける」


 クロスの言葉に、四人は頷いた。


 この先に待つものは、未知の深淵、迷いの迷宮、そして、それぞれの答え。


 それでも。


 仲間とともに進むのなら、恐れることはない。


 クロスたちは街に向かって、ゆっくりと歩き出した。その背には、それぞれの想いと決意が、確かに灯っていた。


ーーー 第二章 異界の砂漠編 完 ーーー

ジャン「……ったくよ、なんで俺があとがき書いてんだよ」


マリー「ええやんジャン! 意外と字キレイやし」


エリス「案外まじめに書くタイプなのね」


クロス「……見かけによらず、字うまいな」


ジャン「うるせぇわ! てかそういうお前はヒドすぎだろ、クロス!」


エリス「そうよ。あなたの書類、いつもギルドの受付さんが困ってるじゃない。“数字と文字の境目が分かりません”って苦情きてたわよ?」


クロス「……うっ」


マリー「うちは、文字より魔法陣のほうがキレイに書けるで」


フローレンス「……じゃあ、次は魔法陣であとがき書いてもらいましょうか」


ジャン「それもう読者に優しくねぇからやめとけ!」


クロス「とにかく……第二層、無事に突破できた。次回からは第三層、だな」


エリス「次は《迷宮エリア》。構造が常に変化し、地図も使えない……」


ジャン「また厄介なとこだな……ああ、しかも宝箱が信用できねぇんだった」


マリー「ミミックはもう見たくない~……」


フローレンス「でも、次はもっと強くなれる。そう信じて、進むだけです」


クロス「ってわけで、俺たちは次の階層へ。

……ここまで読んでくれてありがとう。これからも、よろしくお願いします」


一同「ありがとうございました!」


ーーーー


閉ざされた迷宮は、ただ黙して、その時を待っている。

訪れる者の決意と、覚悟を試すかのように。


《奈落の大迷宮》


それは進む者の心を映す、無限の鏡。

次に扉が開かれる時、何が彼らを待ち受けるのかは、まだ誰も知らない…

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