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奈落の果ての冒険譚  作者: 黒瀬雷牙
第二章 異界の砂漠編

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フローレンス=ギルクラウド

【奈落 第二層 砂漠エリア】


 奈落の風景は一変していた。かつての薄暗い岩壁の迷宮とは打って変わり、地平線の果てまで広がる灼熱の砂漠。頭上の太陽は容赦なく照りつけ、砂の地面をじりじりと焼いていた。


「……クソ、暑いな」


「水……水ぅ……」


「うちは平気やで〜。この新しい装備、めっちゃ快適やさかい!」


 マリーとフローレンスは、軽装かつ通気性に優れた砂漠用の防具で悠々と歩いている。暑さなどどこ吹く風といった様子だ。


「マリーさんと同じく、私も砂漠用に調整してきました。水もたっぷり持っています。無理せず、こまめに補給しましょう」


「やれやれ……文明の利器に頼るしかねぇか」


 クロスは苦笑しながら水筒を口にした。その隣で、エリスが白衣の裾を払いつつ言う。


「今回の目的は《死霊の騎士》の遺骨を三体分。あと……個人的には珍しい薬草も見つけたいわね」


「そんじゃ、気合い入れて行くとすっか!」


 ジャンが斧を担ぎ、先頭に立つ。彼の逞しい背中に、砂嵐が渦を巻いた。


 第二層、灼熱の砂漠。奈落の中とは思えないその異様な光景の先に、何が待ち受けているのか。誰も知る由はなかった。


 砂の地面が、ぶるりと震えた。


 飛び出してきたのは、棘だらけの球体モンスター《奈落サボテン》。緑の針を逆立て、音もなく迫ってくる。


「植物系は任せろ!」


 クロスが即座に剣を抜き、一閃。鋭い斬撃がサボテンを両断する。


「ちぇっ、ドロップなし……?」


「何体でも倒してやるぜ!」


 ジャンが斧を振り下ろし、地面に潜もうとした別のサボテンを叩き割る。


 続けて現れたのは、全長1mを超える巨大サソリ――《大蠍》。鋭い尾と硬質の甲殻が不気味な音を立てながら砂を割って出てきた。


「この甲殻、下手な剣じゃ歯が立たねぇぞ!」


「なら、力で押し切るまで!」


 ジャンが「兜割り」の構えを取り、全力で斧を振り下ろす。凄まじい衝撃音と共に、大蠍の頭部が真っ二つに割れ、黒い体液を撒き散らして沈黙した。


「おお、やるわねジャン!」


「へっ、パワーだけは自信あるんだ」


「私は……後続を警戒します」


 フローレンスが剣を構え、背後に目を光らせる。


 この戦闘では、大蠍の甲殻をドロップしたものの、誰も使い道がなかったため保管することに。


 しばらく進むと、空の色が青から淡い水色に変化した。暑さはやや和らぎ、乾いた風が吹き抜ける。


 再び、奈落サボテンが2体、そして上空から奈落鷲が襲来。


「サボテンは任せろ!」


 クロスが横一文字に斬り伏せ、1体からは「奈落サボテンの果肉」がドロップした。


「空はあたしがやる!」


 エリスが風魔法・ウィンドを詠唱。鋭い風刃が奈落鷲の翼を切り裂き、敵は砂に落ちて消えた。


「ナイス、エリス!」


「当然でしょ?」


 その後も数体の《大蠍》や《奈落鷲》を撃破し、砂漠を進んでいく。


 やがて空が黄色に染まり、景色が夕暮れに似た色合いに変わる。現れる敵も一新され、《サンドワーム》と呼ばれる毒を持つ巨大な芋虫のようなモンスターが現れ始めた。


「こいつら、やっかいだぞ。毒持ちかよ……!」


「くるわよ!」


 戦闘が始まる直前、遠方の砂丘の向こう。5メートルを超える巨体が一瞬だけ姿を現した。


「……あれは?」


「まさか、あれが《タイラントワーム》か?父さんの残した書記に書いてあったぞ…」


「あんなん踏まれたら、一発でペシャンコやで……」


 遠目にも分かる異常な威圧感。今の実力では勝てないと判断し、クロスたちは接触を避け、慎重にルートを変える。


 空が赤く染まり、気温がさらに下がると、砂漠の死角から現れたのはかつて見た《死霊の騎士》。


「……またアンデッドかよ。嫌な層を思い出すな」


「けど、私たちはあの時とは違う」


「行くぞ!」


 クロスの剣が先制するも、重厚な鎧に弾かれ、逆に反撃を受ける。


「チッ、硬ぇ!」


 マリーが援護魔法・ライトレイを放ち、閃光が死霊の鎧を包み込む。眩い光の一撃が騎士を貫き、骨の塵を散らして倒した。


「すごい、マリー!」


「ふふっ、うちなんて、まだまだやけどなぁ!」


 不死属性に特効のあるマリーの魔法は、この層で特に有効だった。彼女の尽力もあり、三体の死霊の騎士を撃破し、依頼品の遺骨をそろえることができた。


【アビスレストラン】


 その夜。無事帰還したクロスたちは、報酬を受け取り、久々に温かい食事を囲んだ。


 大将が取ってきた素材を使い、手塩にかけた料理を振る舞う。

 食卓には奈落サボテンのサラダと、奈落鷲のグリル。珍味とは思えないほど旨味にあふれ、誰もがその味に舌鼓を打った。


【フローレンスの回想】


 食事の後、フローレンスはひとり部屋の窓辺に立っていた。


(……私は、何もできなかった)


 皆がマリーを称える姿を見て、心に影が差す。


 思い浮かぶのは、偉大な父・ヴァンガード。王国を代表する剣士にして、六大将の一角と戦い、命を落とした男。誰よりも誇り高く、そして、強かった父。


「私は、その娘なのに……」


 父を葬ったという奈落六大将を、いつか討つ。そう心に誓ったあの夜から、強さだけを追い続けてきた。


 けれど…マリーのような輝きを前に、自分の小ささが痛いほど胸に突き刺さる。


(もっと強くならなきゃ……私も、あの人のように……)


 フローレンスの目に、静かな闘志が宿る。


 その瞳が、再び炎を灯すのは、遠くない。


第二層「異界の砂漠」について


奈落の第二層――通称【異界の砂漠】。

その名の由来は、まるで奈落の中とは思えない、どこまで歩いても地平線が続くその光景に、「ここは異界の砂漠なのか?」と誰かが呟いたことからだと言われています。

もともと奈落とは、「死後の魂はどこへ向かうのか」という問いに、ある賢者が「ブラックホールこそが魂の墓標だ」と答えた説から始まっています。

そして、あらゆる負の感情を飲み込んだその闇が、漆黒の隕石としてサンライズシティ近郊へ墜落し、大地にぽっかりと穿たれた巨大な穴…それが、現在【奈落】と呼ばれているものです。

奈落の内部は、層ごとにまるで異なる世界のような風景を持ち、それぞれに異なる文化・生態系・脅威が存在しています。

第二層に広がるこの砂漠も、例外ではありません。灼熱の大地、奇怪な植物やモンスター、そしてどこかに根付く人の文化。すべてが現実とは思えぬ異世界のようです。そして、奈落のさらに深い層には、人々が信じる「希望」――

未知の秘宝、万能の薬、究極の食材、最強の武器など、数多の奇跡が眠っていると信じられています。


それを信じて、今日も冒険者たちは奈落を目指すのです。

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