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奈落の果ての冒険譚  作者: 黒瀬雷牙
第一章 旅の始まり編

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嘆きの墓

 マリーを先頭に、五人は警戒を怠らず墓地へと向かった。死霊の少ないルートを選びつつ、静かに進む。やがて墓地が視界に入ったその時——


 突如、家屋の陰から死霊の魔導士が姿を現す。


「ァァァア……!」


 叫ぶや否や、漆黒の魔弾が放たれた。


「私が前へ!」


 フローレンスが素早く飛び出し、剣で魔弾を弾き返す。跳ね返った魔弾は死霊の魔導士に直撃。


「今だ!」


 クロスが鉄の剣を振り抜き、鎧を着ていない敵に有効な一撃を与える。すぐさまジャンが駆け寄り、斧を振り下ろす。


「アアァァ…!」


 それでもまだ死霊の魔導士は立ち上がる。


「終わらせる!」


 エリスがウィンドを放ち、追い討ちをかける。


「グォォオ…」


「トドメだ!」


 怯んだところを狙い、クロスが渾身の袈裟斬り。ようやく死霊の魔導士は崩れ落ち、消滅した。


 一体だったからこそ押し切れたが、もし複数体であれば厳しい戦いとなっただろう。五人はさらに警戒を強め、墓地の奥へと進む。


【キキモラ村 墓地】


 墓地に漂う瘴気は、もはや薄紫ではなく、濃く澱んだ紫。中央には異様な存在が立っていた。黒装束に身を包み、フードを深く被った者。手には禍々しい杖。


「アアアァァ…コノヨヲ、ウラム……シシャタチヨ……セカイヲ、ケガシ、ヒトヲ、メッセヨ……」


 強力な死霊モンスター《ネクロマンサー》が、杖を高く掲げる。すると、死霊の騎士が地面を割って現れた。


「間違いない。あいつが瘴気の元凶だな」


「しかも魔力も格段に強いわね……!」


 死霊の騎士がマリーへと襲いかかる。


「させるかよ!」


 クロスが盾を構えて突進、なんとか死霊の騎士を弾き飛ばし、攻撃を止める。その隙にエリスが閃光の巻物を広げ、眩い光弾がネクロマンサーを貫いた。


「グオオォ……」


「効いてる、今のうちに!」


「ナメルナアア!!」


 ネクロマンサーが杖を振り、漆黒の魔弾を三つ放つ。フローレンスは飛び退いて回避するが、マリーとエリスが直撃し、地面に叩きつけられた。


「うっ……」


「……くっそ、痛っ……」


 エリスは魔力の加護で軽傷で済んだが、マリーは気絶してしまう。クロスは必死に死霊の騎士と対峙するも、盾は限界に近づいていた。


「——今だ!」


 クロスは位置を調整し、ネクロマンサーと死霊の騎士を一直線に並べる。そして閃光の巻物を使用、強烈な光弾が両者を飲み込んだ。吹き飛ばされた騎士に、ジャンが渾身の一撃を叩き込む。


「うおらああああ!!」


 斧が深々と突き刺さり、死霊の騎士は消滅。すかさずフローレンスが巻物を使い、ネクロマンサーへと追撃。直撃した光弾により、異質の死霊も悲鳴を上げて崩れ落ちた。地に残されたのは呪われた杖。エリスは残された杖を見る。


「や…やってやったぜ!」


 息を切らしたジャンはガッツポーズをとった。


「…盾がボロボロだ」


 クロスの青銅の盾は、へこんでいた。それほど死霊の騎士の攻撃力は高かった。


 マリーが目を覚ます。


「……痛たたた……神よ、癒しを……あれ?瘴気が……消えてへん?」


 クロスたちは一瞬言葉を失う。たしかに、村に漂う瘴気はまだ残っていた。


「ってことはあいつ、元凶じゃなかったのか…?」


 フローレンスがふと、墓地の一角に違和感を覚える。


「この瘴気……あのお墓から、です」


「あれ? うち、あんな大きなお墓、見たことあらへんのやけど……」


 一際大きなその墓。


「ひょっとして…ひょっとしたりするか?」


ジャンが最後の閃光の巻物をその墓に放つ。


「ヴヴォオオ……!」


 墓が呻き、蠢く。それはモンスター《嘆きの墓》だった。


「やっぱり……こいつが真の元凶か!」


 《嘆きの墓》には直接の攻撃手段はない。しかし、その絶叫が周囲の死霊たちを呼び寄せる。クロスとフローレンスは猛攻を仕掛けた。


「ヤメテエエェェ……!」


 凄まじい咆哮が脳を震わせる。居住区の死霊の騎士と魔導士がこちらへ向かってくる。


「大変や! 死霊の大群が来てるで!!」


「くそ、あの数はやばいな…」


 一体一体が強い死霊の騎士が数十体。いまのクロス達がこの数に勝てる見込みはない。


 その時だった。


「…やるしかないか!」


 エリスは、ネクロマンサーが残した呪いの杖を手に取る。エリスは呪い装備を使えば、それなりの代償が伴うことを知っているが、いまはその力に頼る以外道はなかった。


「足止めは任せて…サイクロン!」


 エリスが杖に全魔力を注ぐと、広範囲魔法を放つ。エリスの目に一瞬黒い紋様が走り、放たれた暴風が死霊たちの接近を阻む。その威力は絶大。


「今しかない……!」


「いけぇ!!」


 クロス、ジャン、フローレンスの猛攻。呻く墓に、マリーが渾身の魔法を放つ。


「ライトレイッ!!」


 強い祈りを込めた光の魔法は、呪われし墓に突き刺さる。攻撃を受け続けていた《嘆きの墓》は、ついに砕け散った。


 その瞬間、村を覆っていた瘴気が晴れ、周囲の死霊たちも音もなく消え去る。


「今度こそ……やったな」


「おう、ギリギリだったな……」


「強敵だったけど、勝ててよかったわ」


「みんなのおかげや……ほんま、ありがとう……!」


 こうして五人は、瘴気の元凶を討ち果たし、村の平和を取り戻した。彼らは戦いの報告を教会へと届けるため、歩き出す。


【キキモラ村 居住区】


 村の中からは瘴気がすっかり消え、モンスターの姿もなかった。クロスたちは教会に戻り、重い扉を開く。


「お、お父ちゃん! みんな!」


 そこには、元の姿を取り戻した村人たちがいた。マリーは父・ダニーの胸に飛び込み、大声で泣きじゃくった。


「ようやってくれたなぁ……お前たちは、間違いなくキキモラ村の英雄やで」



 日が落ち、あたりは静かに闇に包まれていく。クロスたちはその夜、安全を取り戻した村に泊まることになった。

ボスモンスター紹介 No.1

【嘆きの墓】

瘴気に覆われたキキモラ村、その中心に鎮座していた異形のモンスター。

かつてこの地で亡くなった多くの魂の悲鳴が染みついた忌まわしき墓標が、奈落の瘴気を受けて自我を得たもの。

外見は巨大な石墓だが、絶え間なく呻き、泣き、叫ぶ声を発し続ける。直接の攻撃手段は持たないが、その絶叫によって周囲の死霊モンスターを引き寄せるという極めて危険な存在。

その性質上、単独で戦っても意味がなく、周囲の敵を制圧しつつ「短期決戦で破壊する」必要がある。

クロスたちは閃光の巻物や光属性魔法ライトレイを用いて撃破に成功したが、魔法耐性・精神汚染能力などから見ても、ボスモンスター級の力を持つ。


その断末魔は、まるで村の死者たちが泣いているかのようだった──

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