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奈落の果ての冒険譚  作者: 黒瀬雷牙
第一章 旅の始まり編

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マリーの故郷を救え!

 翌朝、クロスが冒険者ギルドに足を運ぶと、すでにエリスとマリーが待っていた。


「待ってたわよ、クロス」


 エリスが真剣な表情で切り出す。キキモラ村での出来事、そして書紀に記されていた内容を彼に伝えると、クロスは静かに頷いた。両親の残した書紀にも似た記述があったことを思い出しながら、エリスの次の言葉に耳を傾ける。


【奈落の瘴気】


 奈落の最奥から放たれる瘴気は、地上へと少しずつ滲み出ている。都市部のように活気と人の想いが満ちた場所ではその浸食を跳ね返すことができるが、過疎の村や、悲しみ・絶望の多い土地では、瘴気の影響を受けやすい。


 そして、異変が起こった場合──多くは、その地に現れた“元凶”を討つことで事態は収束する、と記録にあった。


「……うちの村……元に戻ってほしいだけやのに……っ」


 ぽろぽろと涙をこぼすマリー。明るく、仲間想いの彼女がこんなふうに泣くのを、クロスは初めて見た。


「元凶をぶっ潰して、マリーの村を取り返す」


 クロスの短く力強い言葉に、エリスがふっと笑う。


「ふふ、いいじゃない。ちょっと見直したわ。でも、今の私たちだけじゃ足りない。仲間を募らなきゃね」


「ふ、二人とも……ほんまに……ええのんか……?」


 マリーの問いに、ふたりは迷うことなく答える。


「「当たり前だろ!!」」


 その後しばらくして、冒険者ギルドの入り口に見覚えのある顔が現れた。ジャンとフローレンスだ。


「おはようございます、クロスさん、マリーさん、エリスさん」


「クロス!今からフローレンスと奈落に行こうとしてたとこなんだ!」


「ジャン、フローレンス。ちょうどいいところに来てくれた!実は…」


「私が説明するわ」


 エリスがマリーの村の現状と救出計画を端的に話す。


「いいじゃねーか、やってやるぜ」


「私も、全力を尽くします」


 こうして五人は馬車を手配し、キキモラ村へと向かった。


【キキモラ村 入口】


 村の前に立つと、薄紫色の霧が視界を覆い、不気味な気配が肌を刺す。視界の先に見えるのは、死霊の騎士や魔導士──明らかに強敵だ。


「……死霊モンスター、今の私たちでは正面からぶつかるのは得策ではありません」


 フローレンスが冷静に告げる。


「彷徨いてる敵は避けて進みましょう。元凶を見つけるのが先決よ」


 エリスの提案に頷き、五人は慎重に村内へと踏み入れた。


【キキモラ村 居住区】


 かつて人々が暮らしていた家々の間を、マリーが先導しながら進む。生存者がいないか声をかけたい衝動に駆られるが、敵を引き寄せてしまう恐れに思いとどまり、唇を噛みしめて黙っていた。


 そのとき、前方に一体の死霊の騎士が姿を現す。


「アアアアアァァアア!!」


「ちっ、叫んだぞ……仲間を呼ぶ気か! どうする、クロス!」


「逃げる! 行き止まりは避ける! マリー、先導頼む!」


「任しとき! 村ん中の道は、うちに任せといて!」


 マリーが先頭に立ち、細道へと飛び込む。やがて見えてきたのは古びた教会。その周囲には霧が立ち込めていなかった。


「……あそこなら、敵も入ってこないかも」


 エリスの言葉に、五人は急いで教会へ駆け込む。追ってきた死霊たちは霧のない領域に足を踏み入れようとせず、やがて立ち去っていった。


【キキモラ村 教会】


 扉を開けると、中には数名の人影、そして一部が変質した死霊たちがいた。五人が身構える中──


「マリー……!」


「お……お父ちゃんっ!?」


 マリーが声を上げた。そこにいたのは、変化の兆しを見せながらも意識を保ったままのダニー=トワイライトだった。


「わしはここで……ずっと祈っとったんや……モンスターになってもうた者もおるがな、こうして意識は、まだ……神さんが、守ってくださっとるんやろなぁ……」


 神を信じぬエリスも、この現象に不思議な規則性を感じて黙って観察を続ける。


「この教会だけが、奈落の霧から守られてる。……神さまが、守ってくれてるんや」


 マリーがそう言うと、他の死霊も口を揃える。クロスたちはベンチに腰を下ろし、ダニーとの対話を始めた。


「ダニーさん。記録には、()()を倒せば奈落化が止まるとありました。何か心当たりは?」


 エリスの問いに、ダニーは少し考えたあと、低く答えた。


「……確証は、ないんやけどな……墓地の方からや……えらい強い瘴気を感じるんや……それが元凶やろうと思うとる」


「そんじゃ、行くしかあらへん! うちらで、この村、救うんや!!」


「落ち着け、マリー……わしも昔はな、若ぇ頃に回復役として奈落に潜ったことがあった……三層までや。いま村の外うろついとる死霊は……二層級や。そして、墓地におる元凶は、三層クラスの力を持っとるはずや。けどな……」


 ダニーはそっと足元に視線を落とした。


「わしはもう……戦えへん。せやから……ほんまに、お前らだけでやれるんか?」


 重たい問い。だが、返事はすぐだった。


「やれるさ。……いや、やる!」


 ジャンが斧を構えながら力強く言い放ち、続けてフローレンス、エリス、そしてクロスが頷く。


「……みんな……ほんま、ありがとう……!」


 マリーの目から、またひとすじ、涙がこぼれ落ちる。


「お礼なんていらないわよ。だって……私たち、仲間でしょ?」


 エリスがやさしく笑いかけた。


 ダニーは懐から巻物を取り出し、全員に手渡す。


「これは閃光の巻物や。中級の光属性魔法が込められとる。霧の濃い墓地やと、特に効果を発揮するはずやで」


 クロスは巻物を一本ずつ配りながら、皆の顔を見渡した。


「それともうひとつや。……霧が濃ゆうなればなるほど、瘴気でのモンスター化も早なる。墓地は特に濃い。……気ぃつけてな」


 クロスたちは頷き、教会を後にした。背後からは、祈りを捧げるダニーの声が響く。


「神さんよ……この五人の勇者に……どないか、加護を与えたっておくれ……」


 クロスたちは隊列を整える。マリーが先頭を歩き、ジャンとフローレンスがその両脇を固める。後方にはクロスとエリスがつき、全方位に警戒を払った。


「よし……準備はええな。行こか!」


 マリーの掛け声に、五人は霧深き墓地へと歩を進めた。


キキモラ村について


かつては豊かな森に囲まれ、薬草と信仰によって生きる穏やかな村。それがキキモラ村です。

多くの村人が奈落から流れ込む“瘴気”に気づかぬまま日常を送り、やがてその一部は、ゆっくりと、しかし確実に“異形”へと変わっていきました。

人々の負の感情や、忘れられた祈りが堆積する土地は、奈落から滲み出る瘴気に侵食されやすく、魔物やアンデッドを呼び寄せてしまいます。

キキモラ村はどちらにも該当しないのに奈落化してしまったのは、運が悪かったとしかいいようがありません。


しかし、村の中央に建つ古びた教会だけは、なぜか瘴気の侵入を拒んでいました。

それは信仰の力なのか、あるいは奈落の法則によるものか――その真相は、今なお不明のままです。


クロスたちにとって、キキモラ村での出来事は、奈落がただのダンジョンではなく、「現実世界に干渉する脅威」であることを思い知らされる大きな転機となりました。

そして、マリーが守りたいと願ったこの故郷は、彼女の冒険の原点でもあります。

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