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奈落の果ての冒険譚  作者: 黒瀬雷牙
第一章 旅の始まり編

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奈落化

「みんな、気を引き締めていくよ!」


「おう!」


「うん!」


 エリスの号令に、クロスとマリーが力強く応える。ほどなくして、茂みの奥から巨大な植物型モンスター──人喰い草が姿を現す。


「私の属性では効きにくいわ、クロスの剣に頼るしかない!」


「任せろ!」


 クロスの一撃で、人喰い草はあっさりと沈んだ。


「ゴブリンより弱いんじゃねぇか?これ、大したことないぞ」


「いえ、もし斬撃や炎の使い手がいなければ、かなり厄介よ。打撃や水・風・地の魔法には強いから」


「クロスさんがいてくれて、ほんま助かった」


 エリスは人喰い草の体液を瓶に採取する。探索を再開すると、幸運にも宝箱を発見した。


「これは……鉄の籠手!」


 重装備に不慣れなエリスとマリーは、クロスに譲る。クロスは礼を言い、その場で装備した。


 さらに奥へと進んでいくと、猫のような姿をした獣人、猫人間が現れる。二足歩行で動きは素早く、鋭い爪で斬りかかってきた。


「ちっ、速ぇ……!」


 クロスが頬を裂かれるも、即座に反撃。しかし猫人間は翻って背後に躱す。


「ウィンド!」


 エリスの風魔法が猫人間の動きを止めた隙に、クロスの剣が決まる。


「ギニャアア─!」


 断末魔と共に猫人間は崩れ落ちた。マリーが回復魔法を使い、クロスの傷を癒す。だが、その直後──。


「また来た! 今度は2体だ!」


「ギニャアアア!!」


「……っ!?」


 エリスが不意に背後から襲われ、肩口に深い傷を負う。


「油断した……やられたわ……」


 膝をつくエリスに2体が迫る。クロスが一体を斬り伏せ、マリーがもう一体の頭部にメイスを叩き込んだ。打撃は的確に急所を捉え、猫人間は即死。クロスも、噛みつきに来た猫人間を鉄の籠手で防ぎ、そのまま剣を突き立てて仕留める。


 そこに、残った一体が叫ぶ。


「ギニャアアアアアア!!」


 ──応えるように、さらに3体の猫人間が現れた。


「仲間を呼んだ……!」


「これは……ちょっと、まずいんやない……!?」


 エリスがよろめきながら立ち上がる。


「大技を使うわ。魔力は尽きるけど……任せて」


 彼女が全魔力を込めて詠唱する。


「サイクロン!」


 風刃が渦となって吹き荒れ、敵を一気に薙ぎ払う。残された牙が地面に落ちる。マリーはすぐに回復魔法でエリスを支えた。


「すげえな、エリス……」


「もう魔力は空っぽよ。あとはお願いね」


「うちの魔力も、もうギリギリや……はよ戻らな、みんな共倒れになってまう……」


 回収した牙を袋に収め、3人は撤退を開始する。


 帰路にはゴブリンが立ちふさがるが、クロスとマリーが応戦する。防御が甘いマリーには傷が増えていく。


「マリー、無理はするな」


「……大丈夫。村のみんなが、百薬の水を待ってるんや……こんなところで倒れとれんよ」


 彼女は残った魔力で自己回復をしながら、最後の力を振り絞って戦った。


 途中、休憩を取りつつ、死者の剣士を撃退しながら、ようやく奈落の入口へと辿り着いた。


 外に出ると、辺りはすっかり夜。月明かりの下、彼らは足を引きずるようにして街へと戻る。


「マリー、百薬の水って……なぜ探してるの?」


「わたすの村で、変な病が流行ってるんです。お医者さんの薬も、神父さんの祈りも効かへんような……そんで、とうとう……お父ちゃんまで倒れてしもうて……」


 エリスが静かに告げる。


「でも……その薬を手に入れたって話は、八層まで行った人しか聞かないの」


「そ、そんな……八層て……いったい何年かかるんや……」


 落胆するマリーに、エリスは続ける。


「私、薬屋だから色々知ってるわ。マリーの村を診に行ってもいい?」


「ほんまに……?うちの村を、見に来てくれるんですか……?」


「ええ、これも縁よ」


 その夜、彼女たちは街に戻り、冒険者ギルドで報酬を受け取る。受付は屈強な男に代わっていた。


「お疲れさん」


 猫人間の牙を納品し、報酬を得る。

•クロス:鉄の籠手と200G

•マリー:鉄鉱石と400G

•エリス:魔力草と人喰い草の体液、200G


 《翌日》


 エリスはマリーと共に、マリーの故郷──キキモラ村へと向かう。サンライズシティの西30キロ、2人は馬車を使った。


 なぜ車ではなく馬車か?それは奈落の放つ特殊な磁場のせいで、周囲の機械がほとんど機能しないからだ。


 科学の力を失ったこの地では、魔力と奈落産の素材が新たな生活基盤となっている。奈落周辺に生きる人々は、魔法に頼ることで生き延びてきた。


 飛行機で奈落に近づけば、ほぼ墜落か不時着。訪れる者のほとんどは命知らずの猛者──伝説の冒険者のムラサメのような存在ばかりだ。


 4時間後、村に到着した2人は異様な気配を感じる。


「この瘴気……奈落の中と同じや……いや、それ以上に濃い……!」


 村の中には──死霊の騎士たち。死人系アンデッドの上位種が徘徊していた。


「ううっ……動かれへん……足が、震えてしもうて……!」


「ウィンド!」


 立ち尽くすマリーを庇い、エリスが魔法を放つ。しかし、効果は薄く、騎士たちが剣を振り上げ──


「シャインスパーク!!」


「シャインスパーク……!? この光……!」


 眩い光が死霊たちを焼き払う。光の中から現れたのは、マリーの父だった。


「マリー……帰ってきてくれたんやな……」


「お父ちゃん……!」



「……すまん。村を襲ったんは、病やのうて……奈落の瘴気や。ここはもう……奈落そのものや……」


「奈落化……?そんなの聞いたことない……!第一、サンライズシティの方が近いはずでは……」


 信じられないエリス。マリーは、すでに言葉も出ない。


「わしの中にも、もう“それ”が入りこんできとる。マリー……はよ、街へ戻りなさい……」


 マリーは涙を堪えながら、その場を離れた。


「……帰りなさいって……わたす、いったい……どこに帰ればええんやろ……」


 街に戻ったエリスは、呆然としたマリーを自宅に連れ帰る。


 ()()()とは何か。


 エリスはその夜、古文書を開き、真実を求めてページをめくり続けた。

キャラクター紹介 No.10

【ダニー=トワイライト】

マリーの父であり、キキモラ村の神父。

信仰心と博愛の精神を持ち、村で流行した“病”に最後まで立ち向かっていた人物。

その正体は、伝説の冒険者アシュリーの兄、そして現冒険者ランキング5位のマチルダの兄でもある。

過去の功績を語る者は少ないが、かつては歴戦の猛者の一人として名を馳せた。

今は教会の孤児たちを守るため、奈落化しつつある村で一人戦い続けていた。

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