クロス=ユグフォルティス
ここは夢や希望、命さえも飲み込む奈落。
【奈落 第十層 神殿エリア】
奈落の深層にて、伝説と謳われた6人のパーティは、奈落を述べる〈奈落六大将〉と対峙していた。
【博識の冒険者】
ジーク=ユグフォルティス
【怪力無双の戦士】
ギルバート=アルバトロス
【異国の剣聖】
ムラサメ
【王国最強の騎士】
ヴァンガード=ギルクラウド
【絶氷の魔導士】
グロリア=ユグフォルティス
【光の神に選ばれし者】
アシュリー=トワイライト
しかし、人智を遥かに超える奈落六大将の力の前に、徐々に押されていた。
ジークと戦うのは
憎悪の羅刹【憎しみのヘティリド】
(この骸骨、剣の攻撃が通らない…!)
「どうした人間の冒険者、ここまで来れたのが不思議なくらいに弱いな!」
ギルバートと戦うのは
憤怒の赤鬼【怒りのアンガレド】
「この俺が…力で押されるだと!?」
「その程度か?人間は非力だな」
ムラサメが戦うのは
悲哀の人魚姫【悲しみのペシミスティ】
(幻術使い…これは厄介だ)
「悲しいわね…あなた達はここで死ぬの」
ヴァンガードが戦うのは
嫉妬の獣姫【妬みのジェラシア】
(速すぎて攻撃が当たらん!)
「ははは、俺にはお前が止まって見えるぞ!」
グロリアが戦うのは
怨恨の黒薔薇【恨みのグラージャ】
(私の魔力では抑えきれない…!)
「私の恨みの弾幕の前に散りなさい、愚かな冒険者達」
アシュリーは後方で仲間の回復をしていたが、懸念の蜘蛛【不安のシャスエティ】が迫る。
「やはりヒーラーは不安要素だ。先に殺しておこう」
「ぐっ!?しまった…」
パーティのヒーラーであるアシュリーが倒れた事で戦況は一気に動いた。
負けを確信したジークは叫ぶ。
「ムラサメ!コイツらの存在を冒険者ギルドに伝えろ!」
「バカな、俺も戦う!」
「他人の心配をしてる場合かな?不倶戴天拳」
ヘティリドの怨念の紫光を纏う拳の嵐に、ジークはボロボロになった。
「鬼炎万丈!」
「がはっ…」
ギルバートも、アンガレドの怒りの炎を纏う拳に貫かれた。
「はやく…いけ……ムラサメ…」
「…くっ!」
ムラサメは走り出した。ヴァンガードとグロリアが六大将の追撃を命懸けで止める中、ムラサメは聖なる魔法陣へと辿り着く。
この魔法陣は奈落に残された僅かな希望が作り出す恩恵。目を瞑り、奈落の入り口か他の魔法陣の場所を思い浮かべることでワープできる。
聖なる力により、モンスターは例え六大将でも入る事はできない。
ジークは死ぬ前に最後の言葉を呟いた。
「クロ…ス……ごめん…な…」
…………
《18年後 10月10日 サンライズシティ》
この日20歳になった青年、クロスは両親の残した家で父ジークの妹である、叔母のジーナと暮らしていた。
「クロス、そろそろ働こうとは思わないのかい?」
「やだよ。俺は何かに縛られて生きてくのは嫌なんだ」
クロスは高校卒業後、就職をしなかった。
「クロス、もう今日で20歳なんだからいいかげん自分の食い扶持くらいは自分で稼ぎなさい!」
「うるさいなー」
「うるさいですって!?コラー!!」
「うわわ、ごめんなさーい!!」
クロスは家を飛び出した。
(俺にだって、やりたいことはあるんだ)
クロスは両親が帰らなくなった奈落に挑みたかった。伝説とまで謳われた父と母ならもしかしたら…それに死んでいるにしても、遺体は連れて帰りたい。
この日、クロスはジーナに内緒で冒険者ギルドに登録をしに向かった。
冒険者ギルドへの登録は、未成年では保護者の許可がいる。ジーナが許可するはずがないため、クロスは20歳になるこの日を待っていた。
「こんにちは!見ない顔ね、ギルドへの登録かしら?」
「はい」
「じゃ、ここに名前と住所、職場やその連絡先を書いてね」
クロスは登録用紙を書いていく。
クロス=ユグフォルティス
サンライズシティ中央区2丁目5番地
職業 ニート
登録用紙を渡し、しばらくするとギルド証が発行された。
「奈落探索にいく時はギルド証を持っていってね!万が一行方不明になっても、ギルド証で場所を探知できるから」
クロスの両親のギルド証は未だ回収されていない。
クロスはギルド証を受け取ると冒険者ギルドを後にして家に帰り、すぐに奈落に入る準備をする。食料や水を鞄に詰め込み、モンスターと戦うための武器を用意した。それは倉庫の奥に眠っていた、錆びた鉄の剣だ。
奈落を目指す者はクロスだけではない。数多の冒険者が夢や希望を求めて奈落に挑む。
1人の乱暴そうな男は妹のために
(待ってろよマロン…俺が必ず、百薬の水を手に入れてやるからな!)
1人の田舎から来た女性は、病の蔓延する故郷の救済をするために
(百薬の水という物を見つけて、わたすが故郷を救うんだ)
1人の薬屋を営む魔導士はとある病の薬を作るために
(奈落病を治すヒントは、奈落の中にあるはず…)
1人の女騎士は奈落六大将を倒すために
(ギルクラウド家の名に掛けて、必ず父の仇を倒す!)
1人の料理屋の娘はまだ見ぬ珍味を求めて
(まだ見ぬ食材が僕を待っている!)
冒険者達は奈落を目指す、思いと決意をその胸に…
キャラクター紹介 No.1
【クロス=ユグフォルティス】
サンライズシティ在住のニート。属性不明。
かつて奈落で消息を絶った伝説の冒険者ジークとグロリアの息子。
「働きたくない」と言いながらも、両親を想い、静かに奈落への覚悟を抱き続けてきた。
錆びた剣と希望だけを携えて、今、奈落へと歩を進める。
――まだ、彼自身さえも知らない。「誰よりも人を導く資質」を秘めていることを。