二度あることは三度ある
魔王って、居るだろう?
例えば、世界を征服しようとする邪悪な王様だったり、単に魔族の王なだけだったり、あまりにも強いせいでそう呼ばれたり…。まあ、どんなものを想像してもらっても良いんだけど、種類が多数ある割に、結末は大抵決まってるものだ。
そう。いつだって魔王の最後は、勇者に心臓を貫かれて死ぬんだ。人類の英雄として、世界を救うために旅を続けた勇者によって、魔王は倒される。古今東西、魔王とはそう言う物だと決まっている。
今、オレが勇者の聖剣に心臓を貫かれているみたいにね。
「あーあ、負けかぁ」
体を貫く冷たい刃の感覚に苦笑しつつ、地面へと堕ちていく。オレと勇者が本気でやり合えば、敵味方関係なく消し飛ばしてしまうからと空で戦ったのは失敗だったかも知れない。
視界の端で、勇者が落ちているのが見える。最後の悪あがきが勇者に振るった魔剣が腹部を貫いたらしい。ラッキーと言うやつだ。魔王らしくないみっともないラストだが、負け戦を相討ちまで持って行ったんだから大したもんだと褒めてやりたいくらいだね。
バン!と大きな音を立てて地面に体がたたきつけられる。無駄に頑丈な体のおかげで痛みは無い。…いや、心臓を貫かれたのが致命的過ぎて他の怪我が些事でしかないだけかもしれないが。
視界が少しずつ暗闇に包まれ、全身から熱が消えるのが分かる。平和な地球から産まれ変わって、魔王なんかになって、色々やったけどやっぱり…
「…死ぬのは慣れないな」
ポツリとそう呟いた瞬間、意識が落ちる。真っ暗な世界の中、ほんの一瞬光を見たような気がして、本能的にそちらを向いた。瞬間、オレの両目はとんでもない光量に襲われる。
「眩しっ!?」
驚いて目を閉じ、困惑しつつもほんの少しだけ目を開けて光に目を慣らす。死んだと思ったが、生きているらしい。ふらふらと立ち上がり、周囲を見渡す。そこは、魔王として生きてきた世界とはまるで違う世界。コンクリートによって作られた巨大なビル群に、平和に生きる人間の姿。…なるほど。人間、魔王と来て、次は魔王のまま人間社会に放り込まれたらしい。
「…とりあえず、お金かなー」
人間だった頃なら、平和な世界に帰ってきたことに対して涙のひとつくらい流したかもしれないが、今のオレには感情に浸るような機能はとっくに無い。というより、元々備え付けられてなかったんだけどね。魔王以前に、そもそも人間じゃないわけだし。
「んー…ま、目立たない方向性で!」
目立ったところでなんとでもなるが、目立たずに動けば何かしくじっても取り返しがつく。ビル群に書かれた文字を見る限り、ここは前の世界で言うところの日本って奴だろう。この世界でも日本があるのかは知らないけど。
なんてぼんやりと考えながら、近くの店から新聞を盗む。一部くらい取った所でバレやしないだろう。さらりと流し読みした感じ、ここは日本らしい。元の世界に帰ってきたって認識で良いのかもしれない。他の文章読む感じも、アメリカやイギリスがあるっぽいし。
「一番手っ取り早いのはー…。ヤの付くお仕事をしてる人達に頼るとするかなぁ」
お金借りる訳じゃないけどね。お友達になりに行くんだ。悪者同士気が合うと思うからなぁ。…最悪全員殺せば良いわけだし。