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ある村にて 7


男は、悲し気に問い詰めてきた。


「ぁんた。知ってたね。ぁの人んくるの。」


いや、少しくらい脅すかもとは思ったが、殺そうとまでするなんて。

そんな事分かるわけがない!


「ぉれの、獲物だけとって、殺そうとしたね。」

「してない!俺は何もしてないじゃないか!!」


今度こそは戸口を蹴破ろうと振り返った。

戸口の周りから、黒い影のようなものが小屋中に広がっている。

小屋を見回すと、あちらこちらから染み出すように黒い影がうぞうぞと伸びていく。知っているものだと、カビに似ている。



男の呟きが聴こえる。


「ぁあ。またきた。」




俺は突然せり上がる吐き気に気づいた瞬間、口から大量の何かを吐き出していた。

「ぅぼるぉおおおっぷ」


足元から立ち上るその臭気に誘われ、さらに吐く。


「ぅおろっ、うぼっ」


俺は立っていられず、四つん這いになった。


薄緑色の粘つく液体がとめどなく喉を逆流していく。

滑らかな、クリーム状の液体が足元に広がる。

膿、か?

俺の腹の中から大量の膿が。



口を右手の甲で拭い、視線を落とした。

巨大な水膨れがいくつもできていて、いくつも破れていた。

流れ出る中身は、俺が吐き出したのと同じ色味の膿だった。

目の前で、新たな水膨れが生まれ、破裂し、膿をまき散らす。

膿の飛沫が、顔に、ぴぴっ、と触れた。



酷い匂いと、目の前で人が幾人も死んだ恐怖と、急に疫病にでもなったような自分への不安とでへたりこんでいると、戸口を激しく叩く音がした。

おっさんが戻ってきてくれたんだろうか。


なぜあいつは襲ってこないんだろう。

何とか首をもたげて男を見ると、猪の牙を胸に抱えて俯いていた。


これから俺はどうなるんだろう。



----------------------------


突然、燃え盛る炎のような橙の光が辺りを照らすと同時に、戸口が倒れこんできた。

警戒した足取りで小屋へ入ってきたおっさんの後ろに、さらに人がいる気配があった。


「お前・・・」

「これはどういうことです。カルティストではなかったのでは?」



俺に声をかけたきり、言葉を失ったおっさんに向けて、おっさんの後ろから声がする。

カルティスト?あいつはやはりカルティストだったのか?


俺は希望の出現に勇気づけられ、まくし立てた。



「助けて!!あいつ、カルティストだったんだろ!ガスが殺された!」



おっさんはインクィジターだし、一緒にいるのは、インクィジターのおっさんを知る仲間なのだろう。きっとこいつを何とかしてくれるはずだ。


安心できる場所にいきたい。

俺はおっさんに向かって這いずるように進みだした。


ズザッ。



おっさん達が、後ずさった。



俺は意味が分からなくて、ただ聞いた。


「おっさん?」



おっさんの後ろにいた男が、おっさんの後ろから顔を出し呟いた。


「もう祝福が現出している。完全に魅入られてますね、息子さん。」

「ああ・・・これはどうみても・・・そうだな・・・」



おっさんの手に握られている何かが、しゅうしゅうと音と煙を立てている。


「おっさん?」



「<<父なる神よ!皇よ!我、穢れを見つけたり!是を滅す事を誓う!!>>」



おっさんの手から、あの夜のような高温が迸り、俺はその熱に後ずさった。

握られているそれが、焼けた鉄のように光っている。



なぜ、おっさんは俺を助けない?

なぜ、あいつを狩らない?

考えても考えてもわからない。


いよいよ強まる熱と光に、俺の視界は埋め尽くされた。

目を閉じているのか開けているのかも分からない。

何もわからない。

もう、わからなくてもいいから、楽になりたい。

音も聞こえなくなってきた。


俺は死ぬのか。

そう思った瞬間、痛みという言葉で表し切れない痛みが、身体の裏側全体に走り、俺はうめき声をあげた。


「いぎぎぎぎぎぎぎ」


脳が焼けるような熱さと苦しみ。

そこで俺の意識は途絶えた。


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