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女暗殺剣士 つばめ

新たなメンバーハルカスを加え俺たちは〈鬼退治〉という第二の目的の為に旅を続けていた。


目標の村へと向かっている途中、さびれた村へとたどり着く。


しかしその村は荒れ果てており、どの家もボロボロになっていて畑もしばらく手入れがされていないのか


雑草が生え放題になっており、人気もなく、まさにゴーストタウン状態だった。


「誰もいないね?」


「しばらく人の住んでいる形跡はないわね。村人が全員死んだか、移住してしまったのではないかしら?」

 

その時、旅に出る前におじいさんが言っていたことをふと思い出した。


「そういえば、ここら一帯の村は昔野盗に襲われて、ひどい被害を受けたと聞いた。


だからこの辺りの小さな村は自衛の為にも一つに統合されて、大きな村となったらしい」

 

この時代にはまだ警察はなく、地方の農村までは治安が行き届かなかったのだろう。


野盗の被害におびえながら暮らす日々とか、平和な時代を生きてきた俺には想像もつかない。


それと〈お前が旅に出るとき、おじいさんはそんな事、言っていなかったぞ〉という無粋なツッコミはやめていただきたい。


そこは普通に〈そういうモノなのだ〉という話の流れとしてうまい具合に脳内変換し


そういうことにするのが大人の礼儀というものです。賢明な皆様方ならばできるはずですよね?


誰もいない廃墟同然の村を歩いていると、マメ芝とハルカスが急に立ち止まった。


「誰かいるよ」


「ものすごい殺気だわ」

 

もちろん俺は何も気づかなかった。しかしリーダーとはあくまでメンバーの能力を見極めつつ目標に向かって指揮、統率するものであり


各場面で適材適所を割り当て、的確な指示を出すのがリーダーとしての役目なのだ、だから決して俺が無能なわけではない。


話は少しそれたが、マメ芝とハルカスは最大限の警戒をしながら、キョロキョロと周りを見回し、敵を探している。


「キエエエエーーー‼︎」

 

という奇声と共に、頭上から斬り掛かってきた者がいた。どうやら廃屋の屋根に隠れていたようだ。


屋根から飛び降りながら襲いかかってきた謎の人物に俺は完全に意表をつかれ固まってしまう。


「させないよ‼︎」

 

頭上からの奇襲攻撃という不意打ちに近い攻撃だったが、マメ芝だけはきっちりと反応していた。


刀を持つ相手にも臆することなく反撃を試みる。しかし謎の襲撃者はマメ芝の常人離れした攻撃にも素早く反応し、即座に体制を立て直す。


「こいつ、中々やるよ。少なくともモモよりは強い」

 

相手を睨みつけながらマメ芝が口走った。だがその対比に何の意味があるのだろうか?


それを聞いた俺は〈俺より強いだと?それはかなりのものだな〉とシリアス口調で言うべきなのか?


それとも〈俺より強い程度ならば、タカが知れているな〉と余裕ぶって言うべきなのか?どちらにしてもあまり口にしたくないセリフだ。

 

一方でマメ芝は〈ガルルルル〉と唸りながら相手を睨みつけ戦闘体制を崩さない。


ハルカスも懐からお札を取り出し、いつでも戦えるように警戒を強めている。


何もせずボーっとしているのは俺だけだ。いかん、ここで存在感を示さなければ俺のリーダーとしての威厳が……よし、ここはカッコよく。


「お前は一体何者だ、何の目的で俺たちを襲った?」

 

だが相手は答えなかった。俯き気味に顔を伏せているので表情はわからないが


両手で刀を構えながら戦闘体制を崩さないところを見るとあまり友好的ではないようだ。


見たところ浪人だろうか?身長は俺と同じくらいか。


黒の和装に茶色の袴、長髪に細身と、盗賊っぽい雰囲気ではないが、こちらに刀を向けてくる以上、こちらも油断はできない。


「どうするトウスケ、私の陰陽道の技で仕掛けてみようか?」

 

ハルカスが小声で俺に囁く。


「いや、少し待て。俺が話しかけてみる」

 

俺には作戦があった、そのためには……


「やあ、どこの誰かは知らないが、俺たちは君と戦うつもりはないよ。君の要望があるのならば聞こう


俺たちでできる事ならば協力するよ、友達になろうじゃないか。昔の偉人がこう言っていた〈友達の友達は皆友達だ〉と、どうだい?」

 

俺はフレンドリーに右手を差し出す。相手も少し警戒心を解いたのか、一瞬気が緩む。俺はその隙を見逃さなかった。


「今だ、ハルカス、陰陽道の技を‼︎」


「えっ?わ、わかったわ。オン アビラウンケン キュウキュウニョリツリョウ ソワカ」

 

ハルカスは人差し指と中指を立て、呪文の詠唱を唱えると、手に持っていた札を投げた。


するとそのお札は宙を舞い、白い帯状に変化したかと思えば、一瞬で相手の体に巻きつき拘束した。


体をぐるぐる巻きにされた相手は地面に倒れたのと同時に刀を地面に落とし、身動きが取れなくなった。


「はっはっは、見たか、俺の頭脳的作戦を‼︎」

 

完璧ともいえる作戦に成功しドヤ顔全開の俺だったが、なぜかマメ芝とハルカスは呆れ顔でこちらを見ている。


「何だ、お前ら、その顔は?」


「友達になろうって相手に近づいて騙し討ちとか、汚いよ、モモ」


「姑息なことこの上ないわね、人間の器が知れるわ」


「馬鹿野郎、マメ芝もいっただろうが、相手は俺よりも強いって‼︎自分より強い相手と戦うには頭を使う、これは立派な戦略だ。それのどこが悪い」

 

だが二人は俺の主張に耳を貸そうとはしない。ゆっくりと首を振って大きくため息をつくマメ芝と、ジト目でこっちを見てくるハルカス。


「モノは言いよう としか聞こえないよ」


「少しも悪びれていないところが、むしろ清々しいわね。小悪党ぶりが板についているというか、小物感が半端ないというか……」


「何をいう、相手は辻斬りまがいのことをしてくる狼藉者だぞ?効率よく捕まえて、さっさと役人に引き渡すのが善良な市民の義務だろうが」

 

この俺の緻密で高度な戦略と、高貴で崇高な精神は二人には理解できなかったようだ。


俺は二人の冷たい視線をあえて無視し、捕縛した敵を確認しに近づいてみる。すると驚愕の事実が判明した。


「お、女?」

 

よく見ると、襲いかかってきたのは女剣士だった。しかもかなりの美形、俺は思わず息をのむ。


しかしその瞬間、俺の頭にある言葉が浮かんだ、それは【三度目の正直】である。


「大丈夫ですか、お嬢さん〈キリッ〉」


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

捕縛されて観念したのか、謝罪の言葉を繰り返す美女剣士。心なしかおびえているようにも見える。


「捕縛を解いてやれ、ハルカス」


「えっ、狼藉者はさっさと役人に突き出すのではなかったの?」


「善良な市民の義務とかも言ってよね、モモ?」


「馬鹿を言うな、〈罪を憎んで人を憎まずという〉という諺をしらないのか?」

 

もはや二人は返事もしてくれない。だが俺を振った女どものフォローなど、夏休みの最終日まで伸ばしても大丈夫だ。


「すいませんねお嬢さん、無粋な連中で。お怪我はないですか?」

 

俺が紳士的に話し掛けてもこちらを見ようとはせず、ガタガタと震えおびえ切っている感じだ。


奇声を上げて襲い掛かってきた人物とは思えない反応だが……


俺に対して怯え切っている彼女に向かってマメ芝とハルカスが声をかけた。


「モモはすぐに〈彼女になってください〉とか言い出すけれど女の子が大好きってだけだから、そんなに怯えなくてもいいよ」


「そうね、トウスケは無類の女好きだけれど、基本は臆病者のヘタレだから貴方に変なことをする勇気はないわ、そのあたりは安心して頂戴」


「お前ら、それ、フォローのつもりか?」

 

俺たちの会話を聞いて、少しだけ警戒心を解いた様子の女剣士。


「すみません、私、昨日から何も食べていなくて……何か食べ物を分けてもらおうと……」


「なるほど、食べ物を分けてほしくて斬りかかってきたと。納得です。じゃあこれを」

 

俺が差し出したのはもちろんキビ団子、しかし彼女はまだこちらを見ようとはしない。


何だろうか?まだ警戒されているのか?


「大丈夫だよ、そのお団子は凄くおいしいし、一個でおなかが一杯になる不思議なお団子なのだよ


その後のモモのお願いは聞かなくていいから」


「そうね、くれる男の人間性に問題があるというだけでその団子は特に問題はないわ。安心して食べなさい」


「お前ら、さっきから失礼な発言が目立つな、俺を何だと思っているのだ?」

 

ここで二人が俺の事をどう思っているのか、再確認しておく必要がある。


「彼女が欲しくてしょうがない、年中発情期男かな?」


「誰かれかまわず求婚する、欲求不満男かしら」


マメ芝とハルカスはこれ以上ない程俺を侮辱した。しかしこの程度で怒るほど俺の心は狭くないしこれを根に持つ程器も小さくない。


「オーケーオーケー、お前らが俺の事をどう思っているのか、よっくわかった。今度会うときは裁判所……じゃなくて、奉行所だな、覚悟はいいか?」


「いいけれど、そんなことをしたら覚悟をしておくのはモモの方じゃない?」


「そうね、トウスケは何度も私たちにいやらしいことをしようとした罪があるわね、奉行所に訴えたらどちらが勝つかしら?」

 

まずい……セクハラ疑惑や、痴漢の冤罪裁判は男性側が圧倒的に不利だと聞いたことがある。


何もしていないのに討ち首とか嫌すぎる。どうせ死罪になるのならば〈本当にいやらしいことをしておけばよかった〉という後悔が残るだろう。ここは勇気ある撤退だ。


「俺が悪かったです、許してください、この通りです」

 

深々と頭を下げる。女と争っても勝ち目がないことは二十一世紀を生きてきた男ならば誰もが知っているからだ。


そう、おれは時代を先取りしたのに過ぎないのだ。


「くすっ」

 

先ほどまで、怯え切っていた美女剣士がクスリと笑った。俺が体を張って笑いと安心を取りに行った甲斐があったというモノだ。


「お腹が膨れて少し安心した?」


「何か事情があるのならば、聞くわよ」

 

マメ芝とハルカスが優しく問いかける、俺にもその優しさを見せてくれてもいいと思うのだが、まあいい。ここはピエロに徹してやるか。


「すみません、あなたたちに刀を向けてしまって……でも本気で斬るつもりはなかったのです、信じてください。どうしてもお腹がすいてしまって……」


「それなら、〈何か、食べ物を頂戴〉と、いえば良かったじゃん」


「そうね、いきなり斬りかかるよりはマシよね」

 

すると彼女は俺の方をちらりと見た後に、再び話し始めた。


「あの……実は私、男の人が怖くて……面と向かうと話すことができなくて……相手が女の人ならば話せるのですが


女性だけで旅をしている人はほとんどいないものですから、仕方がなく女性二人と男性一人という貴方たちに勇気を出して声をかけてみたのです」

 

奇声を上げて屋根の上から襲い掛かってきた事を〈勇気を出して声をかけてみた〉と表現するのにはいささか疑問が残るが


そのあたりはまあいいだろう。それにしてもこれほどの美貌を持ちながら男性恐怖症とは⁉


もったいないにも程があるな、これは俺が救ってあげないといけないパターンのはず。よし、それならば。


「お嬢さん、私は紳士ですから安心してください〈キリッ〉」

 

そんな俺の紳士的な態度にも露骨に顔をそらす彼女。明らかに警戒されているし、俺の事も怖くて仕方がないようだ。


「本当に男の人が怖いのだね?でもモモはいやらしいだけで全然怖くないよ」


「そうね、トウスケは怖いというより、どちらかといえば気持ち悪いという感じかしら」

 

俺はここで言いたいことをグッと呑み込んで、再び優しく話し掛ける。


「でも君は、俺たちに襲い掛かってきたとき、俺の事を普通に見ていた気がするけれど?」


「あっ、はい……私、刀を持つと人格が変わるのです。変な無敵感といいますか、誰が相手でもぶった斬れる気がして……」

 

相変わらず俺の方を見てはくれないが、初めて俺の質問に答えてくれた。これは大きな前進だろう。


しかしこの子、刀を持つと人格が変わるって……よく〈車のハンドルを握ると人格が変わる〉という人がいるが


それと同じ感じか?だんだんわかってきたぞ。普段は男性恐怖症、刀を持つとバーサーカーになるというわけか、う~ん、中々に厄介だな。


「それで、あなたはどこの誰さんで、なぜ旅をしているの?」


「はい、私の名前は、キジ端つばめと申します。我が家は【鳥飼流暗殺剣】という一子相伝の流派を継承していて、私はそこの長女になります」


「【鳥飼流暗殺剣】?あまり聞いたことのない流派ね。それに普通、剣術流派は男が継ぐものじゃないの?」


「はい、本来はそうなのですが、我が家では後継の為の男子が生まれず、仕方がなく長女の私が継ぎました。


ですがこのままでは【鳥飼流暗殺剣】が途絶えてしまうので、私が後継者となるべく男子を産まなければいけないのですが、私、男の人が怖くて……


しかし【鳥飼流飛殺剣】を継承していくにはそんなことも言っていられません。


一刻も早くそれを克服し、私と添い遂げてくれるお相手を探すための旅なのです」


何と、またこのパターンか⁉いや待て、今までここでぬか喜びして失敗してきたのではないか、ここは冷静に事を運ぼう。


「それで?つばめさんはどういう人を探しているの?例えば運動神経がいい人とか、頭がいい人とか、そういった条件はあるの?」


「いえ、そういったものはありません。私自身、自分がかなりおかしな人間だという事は自覚していますので


私のような女をもらってくれる男性であれば、それだけでありがたい事なのです


ですのでお相手の方に条件など滅相もありません。その男の人と普通に話せるようになれるのであれば、正直誰でもいいです」

 

キタキタキタキターーーー‼今度こそ、今度こそ運命の人だろ⁉


運動神経がよくないとダメとか、頭のいい男じゃないと嫌だとか


そういう理想ばかり追いかけている港区女子みたいな女とはもうおさらばだ、俺は新しい恋に生きるぜ。


相変わらずしゃべる時も俺の方を見てはくれないが、まあいい、ここからだ、一歩ずつ一歩ずつ二人で手を取り合って歩んでいけばいいのだから……


そんな幸せな未来に思いをはせていると、何か嫌な視線を感じ思わず振り向く。するとマメ芝とハルカスがジト目で俺を見ていたのだ。


「何だよ、お前ら。何か俺に言いたいことでもあるのか?」


「どうせモモは、またつばめちゃんに〈俺の彼女になって〉とか、言いうのでしょう?」

 

ギクリ、どうしてわかったんだ?


「トウスケ、あんた私と〈どうしても結婚したい〉とか言っていたじゃない、あれから数時間しか経っていないというのに、どういう神経をしているのよ?」

 

二人のあまりに理不尽な発言に俺はついに我慢の限界を迎えてしまった。


「うるせえーーー‼大体お前らが俺の彼女になってくれないから悪いのだろうが‼


さんざん気を持たせておいて、理想と違うからダメですとか、男を振り回すのもいい加減にしろ‼


俺の純情ピュアハートを返せ‼」

 

言ってやった、ついに言ってやった。好きなのに付き合えないジレンマ


心惹かれても結ばれないパラドックス、愛ゆえに生じる運命の障壁に疲れ切った俺は思わず心の叫びを口にした。

 

それは決して【逆切れ】などという低俗な言葉で表現して欲しくはない、そう、これは愛ゆえの言動なのだ……


それから俺たちはつばめちゃんの話を親身になって聞くことにした。


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