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ケモミミ美少女 マメ芝

おじいさんお婆さんと別れ、鬼の情報と仲間を得るために旅立った俺は人が大勢いる村へと向かった。


「確か、おじいさんに聞いた村はここから真っ直ぐ6kmほど歩いて……」

 

そんな事を考えながら歩いていると前方の道の真ん中で倒れている人が視界に入ってくる。


俺は急いで駆け寄り、すかさず声を掛け掛けた。


「大丈夫ですか?」

 

倒れている人を見た時、俺の心臓は激しく鼓動した。


「た、助けて……」

 

か細い声で訴えかけてきたのは、年の頃が十七歳くらいの女の子


少しウェーブのかかった栗色の髪、目は大きく整った顔立ち、それはまるでアイドルばりの可愛さであった。


しかもそれだけではない。日本人離れしたダイナマイトボディに頭にはなんと大きなケモ耳が付いていたのだ


そしてお尻からはフサフサとした尻尾が生えており一見して普通の人間ではないことがわかる。


「こ、これは……ケモ耳にフサフサ尻尾。よくアニメやラノベで見る【獣人美少女】というやつか?まさか【桃太郎】の世界に出てくるとは」

 

興奮を抑え切れず呆けてしまった俺だったが、ハッと我にかえり再び問いかけた。


「大丈夫ですか、お嬢さん。何がありましたか?僕にできることがあれば何でもいってください〈キリッ‼︎〉」


「お腹が……ぺこぺこで……何か、食べ物を……」

 

何と、腹ペコで生き倒れていたとは?まあいい、ならばさっそくここで使うべきだろう【KIBI―DANGO】を。


「これを食べてください、自分で食べられますか?何でしたら、僕が口移しで……」

 

俺が言い終わる前にケモ耳美少女はあげた吉備団子を引ったくるように掴むと一口でペロリと食べ切っていた。


「すごいね、これ。たった一個なのにもうお腹がいっぱいだよ。しかも急に元気出てきたし……って、お兄さん、何か言った?」

 

彼女は〈元気はつらつ〉とばかりに立ち上がって柔軟体操を始めながら話しかけてくる。


「でもありがとう、お兄さん。あなたは命の恩人だよ。何かお礼をしなくちゃね、何をすればいい?」

 

チャーーーーンス‼︎ここで〈お礼なんかいいよ、当たり前のことをしただけさ〉などとスカした事をいうつもりは毛頭ない。


俺はもう一度獣人少女の方を見ると彼女はこちらを疑うそぶりもなくつぶらな瞳でこちらを見つめている。


可愛らしい顔にそぐわない実にけしからんボディが俺の視線を釘付けにする。


う〜ん、いい、実にいい。こんなチャンスは人生で二度とないだろう。


もちろんこれを恩に着せて無理矢理付き合う……などというつもりはさらさらないが


与えられたチャンスは最大限に利かすべきだろう。たった一度の人生〈正確には二度目〉後悔しないためだ。俺は思い切って切り出した。


「あ、あのさ……その、俺と……付き合ってくれないかな?」


「付き合う?どういう事?」


「そうか、この時代だと〈付き合う〉って言葉では伝わりにくいか……えっと……わかりやすく言えば、俺の……か、か、彼女になって……くれないかな……って事なのだけれど」


「彼女?お兄さんと恋仲になるって事?」


「うん、まあ……そんな感じ」

 

彼女はまっすぐな目でこちらを見てきた。返事を待っている間心臓がやけにうるさい


手には汗が滲んできて喉はカラカラになっていった。


「うん、いいよ。お兄さんいい人そうだし」

 

実に軽い口調で返事をくれると、彼女はニコリと笑った。


「よっっしゃあああああーーーー‼︎キタキタキタキターーーー‼︎ウホホーーーイ」

 

人生最良の時間だった。ここまで長かった、でも待った甲斐があった。


こんな超可愛いケモ耳少女が彼女とか、嬉しすぎる。

 

思えばお婆さんに桃を拾ってもらうまでのステージクリアが凄まじく難易度が高かっただけに。


最大の目標である〈彼女を作る〉という条件は難なくクリアした。


これがロールプレイングゲームならばゲームバランスを疑うレベルだし、恋愛シミュレーションゲームならばヌルゲーもいいところだが


そんなことはどうでもいい。ヌルゲー最高、人生って素晴らしい‼︎


「それで、お兄さん、名前は?」


「あ、ごめん、名乗るのが遅れたが、俺の名前は岩谷桃助、親しい人からはモモと呼ばれることが多い。モモでもトウスケでも好きに呼んでくれ」


「それじゃあ、これから君のことはモモって呼ぶね」

 

屈託のない笑顔で語りかけてくるケモ耳少女、もう脳が溶けそうだ。


「私の名前は、芝・犬乃守・マメっていうの。みんなからはマメ芝って呼ばれているよ、よろしくね」


「はい、こちらこそ、よろしくお願いいたしまする。そ、それでさ。俺たち恋人同士……になったのだけれど、これからの事というか……」

 

俺がモジモジしながら、今後の幸せ未来計画について話し合おうと思った時である。


「その件について、マメ芝からもふたつ言いたいことがあるの」


「何?なんでも言って」


「まずは、私とは恋仲というより、将来の夫婦として考えてほしいの」

 

何と⁉︎いきなり恋人から婚約者にレベルアップ‼︎【結婚を前提に】というやつか?


だがそんなことは検討するまでもない、考えるよりも早く脊髄反射でイエスに決まっているが


あまりがっついても印象が良くないだろう、だからここはあえてスカした感じで……


「俺としては、問題ないよ」


「じゃあもう一つ、というかこっちが重要で。私は一族の命運を背負って婿探しの旅に出ていたのだけれど、途中でお腹が空いて倒れてしまったの」


「一族の命運?」


「うん、私は犬神族の族長の娘で、新しく族長になってくれるオスを探していたの」

 

何だろう、何か少し話の雲行きが怪しくなってきたぞ。


「それって、族長になるための規定とか、試験とかあるの?」


「ううん、特別これってモノは無いよ。ただ、私は犬神族の繁栄のため、優秀な子供を産まなければいけないの。


だからモモが父親としてふさわしいか、見せてほしいのよ」

 

マメ芝はにこやかに微笑みながら言った。なるほど、競走馬でいう種馬としての能力を試されるというわけか。


「それで、俺は何をすればいいの?」


「そんなに難しくないよ、これから試す運動で一つでも私に勝てれば合格だよ、簡単でしょ?」

 

確かに、色々やって一つでも勝てればいいのだから楽勝だ。


それをクリアすれば、あのダイナマイトボディが……ゴクリ。


「よし、やろう、すぐにやろう。で、何から始める?」

 

マメ芝はすかさず前方の木を指差す。


「じゃあ、あの木まで走って、どちらが速いかやってみようよ」


「OKだ、さあ始めようぜ、マイハニー‼︎」

 

俺の言葉にマメ芝は少し不思議そうな表情を浮かべた。


そうか、この時代には俺の洗練されたナウでヤングな言葉が理解できなかったのだろう。


ヤレヤレ、これから俺の腕の中でゆっくりと教えてやるぜ。


「じゃあ俺が小石を投げるから、小石が地面に落ちた瞬間が競走開始の合図だ、いいね?」


「うん、いいよ」

 

ふっふっふ、勝ったな。前の木までの距離はざっと見て、約100m。


俺の100m走の自己最高記録タイムは 15・3秒という快速だ、大人げないが勝たせてもらうよ。 ※全国中学男子の平均タイムが14・1秒【参考記録】

 

俺はクラウチングスタートの構えをとりアドバンテージを広げにかかる。


マメ芝はなぜか四つん這いになっていた。そして運命の小石が大空へと舞い上がり、重力に引き寄せられるように地面に落下する。


「もらった‼︎」

 

最高のスタート、これは出る、新記録の予感‼︎俺が勝利を確信したその時である


マメ芝は腕と足の四本で大地をかき上げ、あっという間に俺の前に出るとグングン差を広げていった。


しなやかに、そして美しく、その走る姿は犬というより、俊敏なネコ科の動物を思わせた。


「ハアハアハア、そんな……はずでは……」


「うーん、足は遅いね、モモ」

 

完敗だった、こんなはずでは……だがまだ始まったばかりだ、まだだ、まだ終わらんよ‼︎

 

だがその後、何をやってもマメ芝には勝てなかった。というより歯が立たなかった。


マメ芝は運動神経の塊のような子で、元々運動が苦手の俺とはレベルが違ったのだ。


ゼイゼイと息を切らせ地面に大の字になっている俺を見降ろしながらマメ芝はため息交じりに言った。


「ダメだね、モモの子を産んでも能力が高い子供は出来なさそう」


マメ芝が呆れ気味の表情を浮かべ淡々と死刑宣告を告げた。


この発言は単に振られただけでなく男として遺伝子レベルでダメ出しをされてしまったのだ。この世にこれ以上の惨めさはあるのだろうか。


「残念だけれど、モモとは……」

 

彼女が別れの言葉を口にしかけた時、俺は反射的にそれを遮った。


「待ってくれ、最後に、最後にもう一度だけチャンスをくれ‼︎」

 

彼女は少し驚いた後、再び呆れ顔を見せる。


「別にいけど……何度やっても同じじゃない?」

 

だがここで引き下がっては、男が廃る。俺にも男の意地ってやつがある。


「最後は戦い、一対一での決闘でどうだ?」

 

俺の決意の言葉を聞き、彼女は驚愕の面持ちで両眼を見開いた。


「本気で言っているの?モモが私に勝てるわけがないじゃん」


「やってみなければわからない、男にはやらなきゃいけない時っていうのが、あるんだ‼︎」

 

人生二十一年生きてきて一度もできなかった彼女。目の前のこんな可愛い女の子が結婚を前提で恋人になってくれるというのだ。ここでやらなきゃどこでやる。


俺はこれみよがしのデモンストレーションに、シャドーボクシングを始める。


何を隠そう俺は三ヶ月の間、ボクシングジムに通ったことがある、もちろんモテるためだ。


正直運動能力ではマメ芝に敵わないだろう、だがボクシングは知識と技術に裏打ちされた、高等な格闘技である


この時代にはない知識とテクニックで勝負すれば勝ち目はあるはずだ。というより、そこにしか勝機を見出せなかった。


女の子に暴力を振るうとか最低の行為だと思うが、この際そんな事は言っていられない。何が何でもこの子を彼女にしてやる‼︎


「じゃあ、いつでもいいよ」

 

終始余裕の態度をとるマメ芝、だがその余裕が命取りだ。


俺はフットワークを駆使して素早く近づく。首を振り、フェイントをかけながら一気に近づくと、左のジャブからの必殺の右フックを放った。


「決まった‼︎」

 

と、思った瞬間、目の前からマメ芝の姿が消えた。


「えっ?」

 

相手を見失うというまさかの展開。マメ芝は既に俺の真横に移動していたのだ。


「今のは少しヒヤッとしたよ、中々やるじゃん、モモ」

 

その言葉を最後に、俺は意識を失った。


「あれ、俺は?」

 

気がつくと、目の前には青い大空が広がっていた。どうやら俺は意識を失って倒れていたようで周りに人の気配はない


マメ芝はもうどこかへ行ってしまったようだ。


付き合い始めてから別れるまで交際期間は実に一時間弱。


結婚も視野に入れていた恋人との電撃破局を迎えた俺にはもう立ち上がる気力はなかった。


「ちくしょう……あんな可愛い子が、俺の……ちくしょう……」

 

泣くな、泣いてたまるか、男だろ、岩谷桃助‼︎

 

その時である、突然真上から俺の顔に水がかけられた。


「冷てえ、何だ?」

 

慌てて跳ね起きると、そこにはマメ芝が立っていた。


「やっと気がついたみたいだね、あのまま起きなかったらどうしようかと思ったよ」


「お前、どうして……」

 

状況が把握できず呆然としている俺に、マメ芝は呆れ顔で答えてくれた。


「モモは命の恩人だよ、あのまま放っておくわけがないじゃん。さっきは川に水を汲みに行っていたの。


結婚は無理だけれど恩返しはするよ、他に私にできる事はないの?」

 

少しホッとしたような少しがっかりしたような不思議な気持ちだったがここは気持ちを切り替え、静かに頼んでみた。


「じゃあ、俺と一緒に鬼退治に行ってください」


「いいよ、流石に相手が鬼では花婿候補は無理だろうけれどモモには恩があるからね、頑張るよ、これからもよろしくね」

 

眩しい笑顔で右手を差し出すマメ芝。惜しくも彼女にはできなかったがこの笑顔を見た瞬間、〈まあ、いっか〉と思ってしまった俺であった。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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