ファーストミッション
何か、言い方が引っかかりますがまあいいでしょう。ではコースPで進めていきます。
上の者にその旨を連絡しますので確認と認証が取れたら早速始めましょう」
マリアは懐からスマホを取り出しどこかへ連絡をし始めた。女神のくせにタブレットにスマホって……
「あっ、チーフですか?お疲れ様です。担当の再人生プログラムのプランニング、終了しました……
えっ、はい……嫌だなあ、相手に失礼なことなんて言っていませんよ〜、担当の岩谷様も、私の対応と説明に、大変ご満足いただけたようですし……」
コイツ、やっぱり普段から失礼な事を言っているみたいだな。
しかも〈天界の規定で、女神は嘘がつけない〉とか言いながら、秒で嘘をついているし。
「あ、はい、はい、では岩谷様に認証と評価をいただいて早速転生の手配に入りますので……はい……はい、お疲れ様です、失礼します」
スマホで会話しながらペコペコと頭を下げる姿は、女神というより契約をとれない駄目セールスレディに見えた。
「ふう、何とか手続きが取れました。では岩谷さんの認証を受ければ全て終了です。ここにサインをお願いします」
マリアは手に持っていたタブレットを差し出す。なぜか妙に愛想よく不自然なまでにニコニコしているのが気になったが、その理由はすぐに判明する。
タブレットの最後の欄に
【担当の女神の対応は、ご満足いただけましたか?】という欄があり
【大変満足・満足・普通・やや不満・かなり不満】という項目に分かれていた。
俺はもちろん【かなり不満】に○を付けようとした。
「ちょっと、何でよ⁉︎ふざけないで‼︎」
奪い取るようにタブレットを抱え込み、睨むようにこちらを見てきた。
「何で?とか、理由がいるのか?」
「当たり前じゃない、私のどこが不満なのよ‼︎」
「え〜っと、顔以外全部かな」
「ちょっと、止めてよ。私、今度降級点を取ったら女神の座を剥奪されるのよ‼︎」
いいことを聞いた、少しさっきの仕返しをさせてもらう、海より深く反省するがいい。
「でも、俺も嘘はつきたくないし」
「お願いします、岩谷様。〈彼女になってくれ〉とか以外ならば、何でも聞きますから」
今度は急に土下座をして謝り始めたマリア。この切り替えの早さは凄いな、清々しさすら感じる。
何だかかわいそうになってきたのでここらへんで勘弁してやるか。
それにしても女神の土下座とか、俺は今すごいものを見ているのではないだろうか?
「わかったよ、悪い評価にはしない。それでいいのだろう?」
涙目で何度も頷く自称女神様。そんなに嫌ならもう少し言動に気をつければいいのに。
「タブレットを貸せよ」
渋々ながらタブレットを差し出すがまだ俺を信用しきれていないようだ。
仕方がないので【満足】の欄に○を付けタブレットを返すとマリアはホッとした表情を浮かべた、その姿は本当に可愛かった。黙っていれば美少女なのに……
「でもさ、どうせならば【大変満足】に○をつけてくれれば良かったのにさ……
女心がわからないというか、気遣いができないというか……まあ、厨二童貞だし、仕方がないわね」
全言撤回、こいつの事を少しでも可愛いと思った数秒前の自分を殴ってやりたい。
「じゃあ、転生いくわよ。もっと私に近づいて。でも触らないでよ、いくら私が可愛いくて魅力的だからってからって、絶対に触っちゃ駄目だからね‼︎」
ああ、殴りたい。女を殴るとか最低だし、そんな事は絶対にしないが、コイツには……
そんな事を考えているうちに俺たちの体は眩しい光に包まれた。
さあ、いよいよ異世界転生だ。夢に見たファンタジーの世界。いざ、冒険へ……俺はいよいよ異世界への第一歩を踏み出したのである。
「もう、目を開けてもいいわよ」
眩しくて、今まで目を開けられなかったが、どうやら到着していたようだ。
「おおお〜、これが夢の異世界か……って、あれ?」
目の前に広がる光景を見て、俺は思わず驚きの声をあげてしまった。
「ここは?」
「何言っているのよ、あなたが望んだファンタジーの世界じゃない」
俺の想像では異世界とは中世の西洋風の建物が立ち並び、往来を何台もの馬車が行き来し、活気あふれる人々が大勢生活している
というものだったのだが。目の前に広がる光景はポツポツと居並ぶ藁ぶき屋根の家に一面に広がる畑
牛や馬の匂いと鳴き声。どことなく見たことのある風景、西洋風どころかどこかの田舎の農村にしか見えない。
「ここは、本当に異世界なのか?」
「ええ、そうよ。人々を苦しめるモンスターがいて、それを退治して英雄になる。立派な冒険ファンタジーでしょ?」
「そうだけれど、ここが……」
どうにも釈然としないままあたりをキョロキョロと見回していると、マリアが〈パンパン〉と手を叩き、こちらを見ろとばかりに促す。
「はいはい、さっさとこっちに注目。まずはこの世界のルールから。
このPコースは最初に必ずやらなければいけない設定があるの、それを今から説明するわ」
「設定?ゲームのチュートリアルのようなモノか?」
「えっ?う〜ん、まあ、大体そんな感じかしら」
マリアは目線を泳がせながら答えた。お前、今、適当に返事しただろ。
「まずは最初に、重要人物とのコンタクトをとって欲しいの」
「コンタクト?誰かに会うって事か?」
「うん、その際にこの道具を使って接触して欲しいのよ」
マリアが取り出したのは直径1mはある巨大な桃のオブジェだった。
「これは、桃?……って、事は、まさか……この世界は【桃太郎】の世界なのか⁉」
俺は驚きを隠せないまま問いかけた。
「そうよ、あなたの要望通りでしょ?」
何か問題でも?と、言わんばかりに、得意げにこちらを見てくる俺の担当女神。
それにしてもまさか、まさかの日本昔ばなし。確かに、【桃太郎】といえば人々を救うためお供を連れて〈鬼ヶ島〉に上陸し鬼どもを退治するという勧善懲悪ものだ。
「モンスターって、鬼の事だったのか……まあ。鬼も凶悪なモンスターと言えなくもないし
俺たちのいる世界でも主人公が鬼を退治する作品が大ヒットしているし……まあ、アリといえば、アリかもしれん」
何とか自分を納得させるために無理矢理飲み込んだ。
「何をごちゃごちゃ言っているのよ、さあ、最初のミッションよ。
ポイント〈リバー〉で、ターゲットとのファーストコンタクトを図るわ。くれぐれも気をつけてね」
「ポイント〈リバー〉で、ターゲットとの、ファーストコンタクトって……川で洗濯しているお婆さんに桃を拾ってもらうという流れだろ?その厨二っぽい言い回しは、何だ?」
「うるさいわね、アンタに厨二とか言われたくないわよ。ターゲットGMはポイント〈リバー〉で予定行動を実行中、速やかにRポイントより、オペレーションP開始よ」
シリアスを装いそれっぽく言っているが、とどのつまりは俺がこの大きな桃の中に入って川を下り
お婆さんに発見されて家に持って帰ってもらう、というだけの話だろ?
ヤレヤレ、全く……だがその時、俺の脳裏にある疑問が浮かんだ。
「そういえば、この大きな桃に俺が入ったら全体的にかなりの重量になるぞ。
おばあさんが一人で家に持って帰るにはちょっと無理がないか?」
「大丈夫よ、この巨大な桃は特殊ナノカーボン製でできていて搭載されている核融合炉エンジンによって重力制御ができるの。
だから体感的には10kgほどの重さしか感じないわ。あと対熱処理により最大2700度の高熱にも耐えられるし
装甲は対レーザーコーティングを施してあるから光学兵器に対してはかなりの防御力を誇るわ。
それと搭載されている重ハドロン荷電粒子砲は、厚さ1mのタングステン鉱も貫通させるだけの威力があるのよ
飛行速度は最大でマッハ7・8 それと……」
「おいおい、それは、何のオーバーテクノロジーだ?じゃあこの桃があれば鬼とか一発でノックアウトじゃねーか」
「ダメよ、そんなインチキは‼︎」
食い気味に否定されたがコイツの基準がわからん。
だが確かに異世界ファンタジーでモンスター相手に重ハドロン荷電粒子砲をぶっ放したら面白味も風情もあったモノじゃない、世界観破壊もいいところだ。
「じゃあ、早速はじめて。言っておくけれどこのミッションが終わったら私は天界へ帰るわ、あとは一人で頑張りなさい」
「そうなのか?しかし、いきなり一人というのは、ちょっと……」
こんなどうしようもない女神でもいないとなるとさすがにやや不安になる。
「何?私にいて欲しいの?ねえねえ、やっぱり、私が必要?」
ニヤニヤしながら得意げにこちらを見てくる女神様。
うぜえええ〜〜、何だ、このウザ絡みは?しかもこのドヤ顔、つい〈さっさと帰れ‼︎〉と言いたくなる。
「わかったよ、ここからは一人でやるが色々わからないことが出てきた時はどうすればいいのだ?」
「ふふ〜ん、そんな事もあろうかと、これを用意してきたわ」
得意げに手渡されたのは何とスマホであった。
「おいおい、スマホが使えるのか?」
「まあね、でもこれは特別よ私に感謝なさい。ただ連絡は私にしかできないようにしてあるし緊急の時以外はかけてこないでね」
「ああ、わかった。でもこれがあればかなり助かるぜ。
しかし異世界でスマホとか、とことん今時だな。まあ異世界とは言っても【桃太郎】の世界だけれどな」
「そうね、じゃあ、これからあなたは桃太郎じゃなくて〈スマホ太郎〉と名乗ったら?」
「……それは、やめておくよ」
「あと言い忘れたけれど、そのスマホはキッズ仕様になっているからエロ動画とか、検索しても無駄だからね」
「そんなことしねーよ、馬鹿にするな‼︎」
咄嗟にそう強がったが、秋風のような一抹の寂しさが心の中にそよいだ。そうか、エロ動画は見られないのか……
「じゃあね。まあ、せいぜい頑張りなさい」
ムカつく捨て台詞を残して、俺の担当女神様は天界へと帰って行った。さて、ここからが俺の第二の人生のスタートだ。
まずはハイテク桃マシンに乗り込み上流から川下りを決行する。
幸い桃マシンの内部には外部モニターが設置されているので中からでも外の様子は逐次確認可能だ。
目の前のボタンを押すと、〈ウイイイーーン〉という、マシン特有の起動音が聞こえてくる。
これがロボット作品であれば気分も高揚するところだが、残念ながらこの作品的には単なる無駄な演出にすぎない。
「よし、発進だ‼︎」
周りには誰もいないのに雰囲気で何となく言ってみた。いいじゃないか、誰も聞いていないのだから。
川の幅は約5m。このマシンの大きさは直径1mほどだからおばあさんが捕まえられるように川岸にいい感じで近づかなければいけない。
川の流れを読みつつレバー操作で上手く操縦するだけだ。
俺の胸がなぜか高鳴る。程よい緊張感と人類を救うという使命感でレバーを握る手にもうっすらと汗をかいていた。
頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。