波乱必死
「あの、え~っと、ではその問題はひとまず置いておくとして、次の被害について話しましょう。
確か近くの森で大量の木が切り倒されていた、という問題ですよね?」
「うむ、この村は林業も営んでいて近くの森では非常に質のいい木が取れる。
神社や寺院などにも使われるほどの材木が取れるのだ。だが数日前から何者かによって大量の木が切り倒されるようになった。本当に迷惑な話だ」
村長はいら立ち交じりの口調で吐き捨てるように言い放った。
「それが鬼の仕業ではないか?と思う根拠は何でしょうか?」
「あれほどの大木を人間が切ろうとすれば大きな斧を使って何度も叩かなければならん
だが切り倒されていた大木は一刀両断されたような見事な切り口だった。
あんな真似は人間にはできん、だから鬼の仕業だと思ったのだ」
そうか、それならば鬼たちを疑うのもわからなくはない……
って、あれ?大木を一刀両断したかのような見事な切り口で切り倒したって、どこかで……
「あの、村長さん。その森ってどこの森ですか?」
「うむ、ここから3kmほど東にある森だ」
そこは紛れもなくハルカスと初めて出会った所、確かにその時も森の大木は切り倒されていた
ハルカスの陰陽師の技によって……
マズい、マズい、マズい、マズい。またまた何とか話題を変えないと……
「あのですね、ここは一旦話題を変えましょう。三つ目の被害ですが、どういった内容でおじゃりまするか?」
「どうしましたかな、岩谷殿?急に公家言葉になっていますが?」
「いえいえいえ、何でもないでござるよ。それより早く問題の解決を」
「うむ、三つ目の問題は村の近くで何人もの村人が襲われるという事件だ」
「そ、それは、どういった内容の被害なのですか?」
もはや聞くのが怖くなってきた、鬼が出るか蛇が出るか……
「この近くに廃村となった村があるのだが、そこを通った村人が謎の襲撃者に襲われるという怪事件が何度もあった」
直接被害を受けた者が多数いるのか、これならば大丈夫そうだ。
「そうですか、直接被害を受けた方が大勢いるのですね。だったら犯人を目撃した人も多数いるという事になりますが
被害者の話ではどういった風貌の犯人でしたか?」
すると村長は険しい表情を浮かべ残念そうにゆっくりと首を振る。
「それが、全くわからないのだ……」
「は?どういうことですか?直接被害を受けた者が大勢いるのならば一人ぐらいは犯人の顔を覚えているでしょう?
それとも被害者は全て死亡した、とかですか?」
「いや、そうではない。被害者は誰も死んではおらん」
「だったら……」
「それが不思議なことに襲われた者たちはなぜか襲撃の瞬間を全く覚えていないのだ
持っていた食料だけを奪われていて、その時の記憶だけがポッカリと抜けているらしい
あと襲われた者たちは皆、後頭部に殴られたようなこぶができているとの事だ」
何という事でしょう、ここから近い廃村といえば俺たちが初めてつばめとあった場所ではないですか。
そして、食べ物だけが奪われたという事実、事件の時の記憶だけが消えているという真実
事件後に後頭部にこぶのような跡があるという現実。もはやプロファイリングの必要もないほどに浮かび上がる犯人像……
最近この村に起こった事件は全部こいつらのせいじゃねーか⁉
人間と鬼との争いの原因が〈実は桃太郎様ご一行の仕業でした〉とかシャレにならんぞ。
どうする?どうしよう?もう話を逸らすことも出来ない、やばいよ、やばいよ……
俺の全身に大量の汗が噴き出してくる、頭の中はオーバーヒート状態で喉はカラカラになっていた。
そんな俺の様子に異変を感じた残虐鬼が言葉をかけてきてくれた。
「どうしましたか、岩谷殿?顔色が悪いですが?」
全身紫色のアンタに顔色が悪いとか言われるのもどうかと思うが、それほどまでに俺の態度はおかしく映ったのだろう。
そんな俺に我らの天使たちが、そっと声をかけてきた。
「ねえ、モモ。今聞いた話だとやっぱ事件の犯人はこいつら鬼に決まっているじゃん」
「そうね、事件解明とか言っていないでさっさと犯人の鬼を退治しない?」
「原因は元から立たないとダメと言いますからね、鬼は全員斬り捨てましょう」
犯人はお前らだ―――‼と心の中で叫ぶ、どうして今の話を聞いて自分とは無関係だと思えるの?馬鹿なの?
いや馬鹿だけれど、それにしても限度というものがあるだろう。
もう嫌だ、こいつら……
「岩谷殿、物凄い汗ですが本当に大丈夫ですか?」
今度は俺を心配してくれた村長さんが声をかけてくれた。
「ええ、大丈夫です、元気、元気‼」
「岩谷殿は我が娘婿になってもらわなければならない大事な体ですからな、くれぐれも無理はしないでくだされ」
おおーー、あんなことがあってもまだ俺の事を娘婿と……ありがとう、お義父さん‼
だがその時である。
「ちょっと待った、岩谷殿は俺の妹と結婚することになっているはずだが?」
まさかの虐殺鬼からの発言。あの話は破談になったはずだが……
「どういうことですかな、岩谷殿?」
「いや、その、どうと言われても……そういう話があったの
は事実ですが、正式にお断りしたはずで……」
「ああ⁉何だ、それは?アンタ、妹を弄んだのか?」
弄ぶも何も会ったこともないはずですが⁉どうしてそんなに怒っているの?
「俺たちの妲己ちゃんを弄ぶとか……許せねえ」
ここまで存在感皆無だった抹殺鬼さんがいきなり話に割り込んできた。
さすがは人権派〈女を弄ぶ〉というワードが気に入らなかったのかな?
「鬼とか人間とか関係無い、妲己ちゃんを悲しませる奴は俺がぶっ殺す」
今度は殺人鬼さんが入ってきた、本当に大人気なのですね妲己ちゃん。
でもあなたモラル派ですよね?ぶっ殺すとか、どうなのでしょう?殺人鬼という名前にはピッタリですが。
「岩谷さん、妲己ちゃんの件は後で男と男の話をしようじゃありませんか」
まさかの残虐鬼さんからのお誘い、お前もか⁉お前もあんな鬼嫁がいいの?
「まあ待て、そのような事はここでする話でもあるまい、皆、落ち着け」
おおーー、壊滅鬼さんからフォローが入った。若い鬼たちの中で一人だけ年配の鬼がいるなと思ってはいたが
さすがは年の功、中立派という肩書は伊達じゃないな。
「まずはこの村との同盟を結ぶのが先であろうが、当初の目的を忘れてはいかん。じゃが、その後に個人的に制裁を加えるのは自由なはずじゃ」
壊滅鬼さんはサディスティックな笑みを浮かべ、冷たい目でこちらを見降ろした。
お前も妲己ちゃんに惚れているのか?ジジイのくせに若い子を追っかけているんじゃねーよ
ていうか、どんだけ大人気なんだ、妲己ちゃん⁉
「岩谷殿、今の話を総合すると、貴方はウチの幸恵と婚約しているにも関わらず、妲己とかいう鬼娘と二股をかけていた、という事ですかな?」
どうしてそうなる⁉妲己ちゃんとは会ったこともありませんよ
てゆうかあんな鬼嫁と付き合ったら命がいくつあっても足りないし。
そもそも幸恵さんとは手も握ったこともないのに、どうして俺が女をとっかえひっかえしているチャラ男みたいな扱われ方しているの?
ていうか、今はそれどころじゃないでしょうが⁉
人間と鬼の共存共栄が実現できるか?という人類にとってのターニングポイントですよ
俺の始まってもいない恋愛事情とか、どうでもいいでしょうが、目を覚ませ‼と、心の中で叫んだ。
なぜならこの言葉を口にすれば【人間と鬼による平和首脳会議】は全て台無しになってしまうかもしれないのだ。
かといって先程の話題に戻せば、アイツらが犯人だとバレてしまう危険性が高い。
行くも地獄、引くも地獄とはこの事を言うのだろう。
「ようやく私たちの出番が来たようだね」
「腕が鳴るわ、さあかかっていらっしゃい、ごみクズ共」
「待ちくたびれましたよ。最後に祈る時間を上げます、成仏しなさい、鬼ども」
なぜか臨戦態勢万全の乙女たち、ゴーサインが出るのを今か、今かと待っている様子だ
だが、今の流れでどうしてそうなる⁉今日はお前らの出番なんか最後までねーよ‼
戦いにならないように頑張っている俺の血の出るような努力を無駄にする気か―――‼
と、心の中で魂のツッコミを入れていた俺だったが、その後、思いもよらない展開が待っていたのである。
「いや、別に、そんなつもりじゃなかったというか……」
「今日は話し合いに来たわけだしぃ~戦うって何か違うっていうか……」
「ワシたちは、あくまで常識的な一般論を話していただけじゃ、戦争とか、争いとか、そういうのはちょっと……
年を取ったので、野蛮な事は反対というか、平和が一番じゃ」
「他人を傷つける暴力行為は、人権派としては容認できないというか、暴力反対というか、人類皆兄弟というか……そんな感じ」
「ぶっちゃけ~喧嘩って何かダサくね?いい歳をした男が殴り合うとかマジ勘弁、チョーうける。
だからラブ&ピースでオーケー?」
先ほどまで怒り心頭の鬼どもが明らかにビビって戦いを回避しようとしているぞ、何だこれ?
そんなにこいつらが怖いの?
だがこれはチャンスだ、このままなし崩しに……と、思った時だった。
「どうしたのよ、やらないの?やっぱり農作物を盗んで食べるような鬼は腰抜けぞろいだね‼
私みたいにこの村に生えていた野菜を食べて生き抜くぐらいの根性見せなさいよ‼」
マメ芝がそういう言い放った瞬間、三人以外の全員が固まった。
「そうね、腹いせに大木を切り倒すとか、何の意味があるのよ、馬鹿じゃない?
私みたいに己を磨くための訓練の為に大木を切るくらいの向上心を見せなさいよ」
もはや時間停止レベルで空気が固まった。もう止めてくれ、頼むから……
「全くです、通りかかった村人を襲って食料を奪うとか言語道断です。
私のようにお願いですから食べる物を分けてくださいと、ちゃんと心で説明して
快くわけてもらうくらいの礼儀が無いのですか?
しかもその人が不快にならないようにキチンと記憶を消すという配慮も怠らなかったのです。
あなた方もそれぐらいの気遣いを見せなさい‼」
もう嫌だ、コイツら……俺はすでに下を向き誰とも目を合わせないようにうつむいていた。
体中に突き刺さるような物凄い視線を感じてはいたが、その視線を受け止める勇気は俺には無かった。
そして皆に対して心の中で呟いたのだ〈本当にごめんなさい〉と。




