価値観の違いと交渉決裂
「では、我々の味方になってくるという事でいいのですね?」
「ああ、契約成立かな」
鬼たちの確認に対し、口元を緩めニヒルを決め込む俺。
しかし一番気になっているのは人類の未来でも世界の平和でもない。もちろん俺のフィアンセ妲己ちゃんの事だ。
「それで、妲己ちゃんはどんなものが好きとか、趣味とか特技とか、性格とか、なるべく詳しく聞かせてくれ」
「は、はあ……そうですね、妹は普段はちょっと気が強い所もありますが優しくて気が利く女です
料理、洗濯、掃除などの家事は完ぺきと言ってもいいでしょう。
特に趣味と言えるものはなさそうですが、全体的に体を動かす事が好きですかね?」
「凄いな、聞いていると理想の彼女じゃないか⁉そりゃあ人気も出るわな」
「はい、なにせ理想の鬼嫁ですから」
「ん?今、何と……」
「ええ、妹は理想の鬼嫁と言われています、だからこそ鬼の男どもに大人気なのですよ」
鬼の嫁だから、鬼嫁……呼び方だけの問題だよな?まさか、そんな……
「鬼嫁と言っても、暴力を振るったり、ひどいことを言ったりはしないよね?」
「そうですね。妹は頭に血が上ると相手の心をへし折るくらいの罵倒を浴びせますが、それはそれで可愛いじゃないですか。
暴力と言っても殴る蹴るを繰り返すぐらいでそれ以上の事はあまりしませんよ。
まあ、たまにノーザンライトボムとかを繰り出しますが死ぬほどではありません。むしろそれはご褒美というか、長所ですしね。
妹と付き合った男は今まで二人自殺していますし大けがで再起不能になった者もいますが
それでも妹と付き合いたいという男は後を絶たないのです。
だから妹も〈鬼の男は見た目ばかりでひ弱だから嫌い〉というのが口癖なのです」
それはどこのデンジャラスクイーンだ?そもそも俺と鬼達では根本的に価値観が違う
ていうか、そこに愛はあるんか?こいつらこんなゴツイ見た目のくせに中身はドMばっかりじゃねーか⁉
そんなのと付き合ったら命がどれだけあっても足りないぞ。
そう、ここで俺は大切な事に気が付いてしまった。やはり俺は幸恵さん一筋なのだと。
「いや~その、妹さんと俺とは合わないかな……だからこの話は無かったことに……」
その瞬間、鬼たちの目に殺気が宿る。
「ウチの妹が気に入らないと?」
「いえ、そんなことは決して……でも、ほら。やっぱり種族間の壁というか、生活習慣や価値観の違いというか、暴力反対というか……」
「ウチの妹が鬼だから気にいらないと?人間と鬼との共存共栄を目指しているはずのあなたが、種族や価値観の違いで差別をするのですか?」
益々声に怒りの感情がこもってきて空気がどんどん悪くなってくる。
後ろの鬼たちも殺気立っており今にも殺されそうな勢いだ。
まさかこの世界でSDGSやジェンダー問題で揉めることになろうとは、再び絶体絶命の大ピンチ。この場をどうやって乗り切るか……
そんな時、一人の村人がこちらを発見したのか大声で叫ぶ声が聞こえてきた。
「鬼だ、鬼が出たぞ‼」
にわかに周りが騒がしくなる、だがこれでアイツらが来てくれればこの場は逃れられるだろう。
もうどっちが味方かわからない。場面、場面で目まぐるしく変わる状況に俺の頭は付いていけなくなっていた。
「ちっ、見つかったか。ならば仕方がない、こいつを連れて逃げるぞ」
縄に縛られたまま鬼たちによってなすがままに連行される俺。
先ほどまで鬼と人間の架け橋となり平和と友好の象徴として英雄になるはずの俺だったが
一転して犯人グループの人質としてジョブチェンジを余儀なくされた。
「逃がさないよ、鬼‼」
真っ先に駆け付けて来たのはやはりマメ芝だった。ものすごいスピードでぐんぐん迫って来る。
「犬神属の娘です、虐殺鬼さん、どうしますか?」
「ちっ、何とか時間を稼げ、村から出てしまえば何とでもなる」
「わかりました、行くぞ‼」
二体の鬼がマメ芝に向かって行くが実にあっさりと撃破される。
何かわからんがこいつらあまり強くないな、それともマメ芝が強いという事なのか?
それとコイツ、虐殺鬼という名前なのか。今になってわかったが残虐鬼よりさらに輪をかけて物騒な名前だな、おい。
見た目も怖いし中身がドMじゃなければラスボス級の迫力なのだが。
「急いで入口の門を閉めよ‼」
村長の声が響き渡る。白馬にまたがり五月人形のような甲冑を着込んだ村長が軍配を使って村人に指示を出す。
ていうか鬼発見の報告からそんなに時間が経っていないのにいつ着たのだ、その甲冑?
そんな思いとは裏腹に俺を抱えて逃げる鬼達、この村は高い壁でぐるりと囲まれているので外への出入りは大きな門のある入口しかない。
マメ芝を先頭に猛追する人間たち、俺を抱え必死で逃げる鬼達。でもこれって何の意味があるのだろうか?
時間稼ぎをするために数体の犠牲を出しながら鬼たちはようやく村の入り口が見える所まで来た
しかし大きな入口の門はゆっくりと閉まっていき脱出目前というところまできて退路は完全に断たれた。
「くそっ、入口が⁉どうしますか?」
鬼たちがリーダーである虐殺鬼に問いかけた。
「仕方がない、門をぶち破るぞ‼」
「えっ、でもどうやって?」
「こいつを破城槌にして門をぶち壊す‼「
コイツ、とんでもないことを口にしやがった。
破城槌とは昔からある攻城兵器の一つで城門や城壁を破壊するために丸太状の物体を垂直にぶつけることによって
その衝撃で対象を破壊する兵器だ。しかし今こいつらは丸太を持っていない、持っているのは俺である、つまりそういう事だ。
「ちょ、お前ら、ふざけんな、ちょっと待って……」
鬼たちは三体がかりで俺を抱え、門に対して丸太のようにぶつけたのである。
「よし、門を破壊したぞ‼」
見事、俺の石頭によって門は破壊された。しかしその時の衝撃で意識は朦朧としている。
おぼろげな意識の中で村長の声が聞こえてきた。
「鬼どもを逃がすな、弓を放て‼」
村長の号令と共に、無数の弓矢が弧を描いて飛んでくる。あの~俺もいるんですけど……
「弓ごときで我らが倒せると思ったか⁉」
虐殺鬼は手にしている物で飛んでくる弓をはじき落とす。この時虐殺鬼が持っている物とはもちろん俺の事である。
「小癪な鬼どもめ。かまわん、次々と弓矢の雨を降らせろ‼」
村長、その〈かまわん〉というのは、俺の生死はかまわないという理解でいいのですか?
「トウスケ‼」
その時、一瞬のスキをついて、ハルカスの放ったお札が白い帯状のロープとなって俺の足に巻き付いた。
「今よ、つばめ‼」
「合点承知‼」
すでに馬に乗って準備していたつばめがその馬に繋がれたロープと共に走り出す。
俺は全身を縄で縛られたまま足にロープをくくりつけられ、全速力で走る馬に引きずられる形で鬼達の手から離れた。
でもこれは救出と呼んでいいのだろうか?
確か古代ヨーロッパでは罪人を馬に引きずらせる処刑法があると聞いたことがある、確か【八つ裂きの刑】とか、何とか……
「あっ、桃太郎を取り戻されましたよ、虐殺鬼さん‼」
「おのれ、奪い返すぞ、皆の者、俺に続け‼」
逃げていた鬼たちが急に反転し、一斉に俺を奪い返しに戻ってきた。
ていうか、これ何のゲーム?こうまでして俺を奪って何がしたいの?そもそもこれってどうなれば勝ちなの?
奮闘空しく、鬼たちはマメ芝、ハルカス、つばめによってあっさりと捕縛された。
この戦いで一番ダメージを受けたのが俺であることは最大の謎だ。
虐殺軌をはじめとする鬼たちは捕らえられ、縄で縛られて村人たちの前に引きずり出された。何故か俺も縄に縛られたまま鬼達と共に座らされた。
「モモなんかを誘拐するとか、どういうつもり?」
「トウスケが人質として価値があると思ったのかもしれないけれど、とんだ見込み違いね」
「今の岩谷さんは虫以下の価値しかありません、ご愁傷様ですね」
虐殺鬼達に向かって勝ち誇る様に言い放つ三人娘
「お前ら鬼を責めたいのか、俺を貶めたいのかはっきりしろ」
仕方がないので俺は今回鬼たちが来た理由を皆に説明した。
「何、それ?じゃあ戦う必要なんてなかったじゃん」
「本当にそうね、とんだ無駄だったわ」
「でも、結果的には誰も傷つかなかったのですからよし、としましょう」
何故か三人娘たちは一件落着の空気を出して満足げだ。
「俺は肉体的にも精神的にも凄く傷つきましたが?」
俺的には釈然としないながらも誤解が解けた鬼たちは解放されいよいよ運命の会談へと挑むことになった。




